捌話.冒険者
「ここがダジル草原か。」
「うん、そうだよ!」
あたりを見渡すと、俺と同じく駆け出しの冒険者のような人がたくさん居た。
「ここは効率がいいからね!メルトみたいな初心者が集まりやすいんだよ!」
「ふむ。」
やはりこうして見ると、大人の男が多いらしい。
女性は何人か見えるが、子供は俺だけだな。
「で、早速だけど、“シャドーウルフ”を倒してみよっか!」
「え?もうか?」
「うんうん!魔物は待ってくれないよ!」
......いや、魔物は待ってくれないってったって。
「地面に集中しててね!」
「早速か......」
地面に集中......ん?なんで地面に集中?
「来るよ!」
「え?」
「ワオオオーン」
シャーノがそう言うと同時に僕の影から......狼が飛び出てきた?
「あっぶね!」
紙一重で避けたが、もう少しで当たるところだった。
「あれが“シャドーウルフ”か?」
「うん、そうだよ!メルト、早く攻撃して!」
“シャドーウルフ”を目で追うと、飛び出てきた時とは違ってものすごく動きがのろい。俺が歩くよりも遅いスピードでのろのろと逃げていく。
「......攻撃ってどうするんだ?」
「うーん......ちょっと叩けばいいんじゃない?」
「は?」
叩く......?こうか?
「ワオオオーン!!」
......“シャドーウルフ”は断末魔をあげて、動きを止めてしまった。え?弱すぎない?
「メルト!魔石を作って!」
「あ、あぁ!」
そういえば、俺の物じゃない魔力が俺の周りに集まっているような気がする。
「............よし、これで......」
「うん、完璧だね!」
俺の手には紫色に光る物があった。
「この調子でどんどん狩ろう!基本的に立ってれば影から出てくるから楽ちんだよ!」
いつ出てくるか分からない俺にとっては楽ちんでもなんでもないんだが......?
「そんな心配そうな顔しなくても......出てくる10秒前には教えてあげるから安心して!」
「ふむ。」
「さ、次のが来るよ!」
そして、俺とシャーノの2人で100匹は狩った。と言っても、始めてから1時間ほどだ。
「うんうん、やっぱり最初の方はここが一番いいね!もう、100個は魔石取れたよね!」
ちなみに魔石は直径2センチメートルほどの小さい物なので、俺が持っていたビニール袋に詰めている。
「さて、今日はこれくらいにしよっか。」
「......まだ、倒せるが?」
こいつら弱いし。
「今日の主な目的はメルトに自信をつけてもらうことだから、もういいんだよ!自信ついたでしょ?」
「......まぁ、そうだな。」
俺くらい弱くても魔物は倒せることがわかった。
「じゃあ変なのが出てくる前に帰ろ?この頃このダジル草原ではちょっと強い魔物が............メルト!伏せて!」
「え?」
シャーノの声より少し遅れて、俺の頭があった場所に黄色い光線のような物が通る。咄嗟に伏せたが、あと少し遅かったら......
「メルト!これはまずいよ!あいつは......あのドラゴンは四帝龍の一匹、光龍だよ!」
なんだよそのいかにも序盤の村に居なさそうなやつ!
「早く逃げよ!」
「あ、あぁ!」
こんなやばい場所に長い間いるんじゃなかったな。
光龍はなぜか、俺への興味を無くし、他の冒険者の方を見る。......なんか囮にしたようで心苦しいが、今は自分の心配を......!
「あれ?こんなところに光龍が出る予定ないのになぁ。後でサクシャに聞いてみる......なんて悠長なこと言ってる場合じゃないか。」
黒いコートに身を包んだ男が光龍に向かってそう言い放ったのは俺たちが逃げる直前だった。
「怒らせたか。いやでも、僕は別に相手をしたい訳じゃないから逃げてくれると助かるんだけど......いやブレス吐かないでって!」
男は軽い身のこなしで光龍の攻撃を避ける。......あいつは何者なんだ。