質拾捌話.観測されるはずのない場所
「そういえば。」
ある若手の女性研究者が切り出す。
「擬似エアマイト粒子を使った能力実験はどうなってるの?」
その女性研究者はパソコンに向かいながら、隣の女性研究者へといかける。
「F-1234のことですか。現地の研究者によればエルメナが記憶操作の能力を身につけたと......」
「いや、それってアレでしょ?僕が管理者権限を使って適当に渡してた対象操作の力をただ応用しただけのやつ。」
「は、はい、そうですが......」
話しかけられた女性研究者も同じくパソコンに向かっている。この部屋には彼女ら2人しかいない。
「僕たちが欲しいのは記憶操作じゃなくて、感覚操作。科学の力にかかれば記憶なんか簡単に帰れるもん。所詮電気信号だしね。」
「それもそうですが......。」
「それに引き換え、感覚を弄るのは大変だねぇ。僕も長らくこの研究をしてるけど、全員の細胞を同時に弄るだけでも難しいのに、さらにその上出来事に応じてある程度揃えた感覚操作を行わないといけないなんて......。」
「あの......本気なんですか?計画って......」
ここはとある世界線の研究所内にある最重要機密室。外部の人間どころか内部の研究者でさえ、一部を除いて立ち入りが禁止されている部屋。
「もちろん、計画は本気だよ?僕の子供の頃からの夢なんだよね。ヨシキが出してくれた“多重能力者育成計画”レポートとかどこぞのお偉いさんが書いてくれた“奇跡の実験体計画”レポートのおかげでかなり計画は進んだしね。現に、F-1234では非能力者でもエアマイトを自在に操れるんでしょ?」
「まぁそうですが......。」
「とりあえず、僕はこのまま見守らないとね。結局、ヨシキからの連絡待ちかなぁ。」
もちろん、そんな部屋での会話は誰にも伝わらない......はすだ。どんなにいい防犯装置を組み込んだ部屋の中身でも見る事が出来るような人など存在するはずがない。
「それはそうと、あの世界に送った2人の実験体の様子などは考えないんですか?」
「ん?あー、それはヨシキから聞いたよ。2人のうち、少なくとも片方は元気してるって。」
「......ってことはもう1人は......。」
「行方不明だって。まぁ、仕方ないよね。あんな化け物ばっかりの世界だし。」
そんな話をしているうちに、何かの作業が終わったのだろう。女性研究者2人はパソコンから目を離す。
「よしっと。とりあえずプログラムはこんなもんかな。手伝ってくれてありがとね、ミチビキ。」
「いえ、どうということはありません。ナミさん。」
「あれ?ミチビキに僕の本名教えたことあったっけ?」
「名簿を見ればすぐに分かりますよ、7番さん。」
「まぁー、それもそっかー。うん、いい観察眼だね、ミチビキって。」
「恐縮です。」
「うんうん、僕はいい部下を持てて嬉しいよー!よし、ちょっとだけやる気が出た。後回しにしようとおもってたF-1234の案件を終わらせちゃおう!」
「分かりました。」
そして、彼女らは再びパソコンへ向かった。
ここは決して観測されるはずのない場所。セキュリティの都合上でも、物語の都合上でも。




