陸拾陸話.ひととき
晴れて特別冒険者になった日の夜。
俺は宿でメイさんに渡された説明書を読んでいた。
この説明書を読む限り、俺はFランクの特別冒険者になったらしい。
普通の冒険者との違いとしては素材の買取額が半減する代わりに、ギルドで買う場合に限り回復薬が本来の1割ほどの値段で買えたり、魔法書が無料で借りれたりする。
また、ギルドの直轄冒険者でもあるため、ギルドからの指名依頼が来たり、年に1度の武術大会に出場する義務がある。ただ、武術大会は15歳以上じゃないと出られないため、俺は関係なさそうだ。
そして、最大の違いはランク制度だ。ランクはFからSまでの7段階存在し、ランクが高ければ高いほど............自慢できるとのことだ。まぁ、それ以外にも色々な融通をギルドが聞かせてくれるようになるらしいが。
ランクを上げるためには、武術大会で勝利するか......もしくは指名依頼の成功や活躍が必要らしい。指名依頼なんかなかなか貰えないじゃないか、と思ったが、どうやらギルドに行くと指名依頼が貰えるらしい。......指名依頼とは一体?
「なぁシャーノ、本当にこれが最速で魔王城に行く方法か?」
「うん!間違い無いんだよ!」
「でも、これどう考えても時間かかるだろ?」
「んーん、メルトと私がいれば大丈夫なんだよ!」
シャーノはこう言うが、実際どうなんだろうか。
「メルト、私を......信じて欲しいんだよ。」
シャーノが強く俺の目を見ながら、優しく言った。
「......分かったよ。シャーノを信じる。」
「うん、ありがとう、なんだよ!」
女の子にこんな顔させて何もしないっていうのはどうも気が引けるからな......間違ってもこいつの顔が可愛かったからじゃない、うん。
「さて、今日はもう寝るか。明日朝一番にギルドで指名依頼をもらってこよう。」
「うん!」
俺はそうシャーノに言って、深い眠りについた。
「ごめんなさい、メルト。」
「私はあなたを騙していたの。」
「だから、これは私の贖罪。」
「あなたがやりたいことを精一杯助けて、そしてそのあとは......」
「一人で、責任を取って、消えるから。」
「この世から、消えるから。」
「だから、もう少し、もう少しだけ。」
「そばに居させて。あなたを助けさせて。」
「本当はあなたにこの罪を打ち明けなければならないんだろうけど。」
「私にはそんな勇気は......ないから。」
「だから、本当に卑怯だと思うけど。」
「本当に卑怯だと言われなくても分かってるけど。」
「もう少しだけ、あと少しだけ。」
「あなたと、一緒に笑いたいな。」
月明かりが照らす、ある宿の中で。
とある“夢干渉”の精霊は呟く。
彼女の姿が見えるのは異界の者のみ。
彼女の声が聞けるのは異界の者だけ。
この場には彼女と彼女の主人の2人きり。
彼女の主人が眠る今、彼女の声を聞くのは。
この物語を読む者のみ。
この物語を聞く者だけ。
「えへへ、笑いたいのにっ......涙がっ......出るねっ............」
「ごめんなさいっ、ほんっとに......」
「ごめんなさい......。」
さて、彼女の祈りはこの世界の何かを変えるだろうか。
彼女の告白はこの物語の何かを変えるだろうか。
彼女の願いはこの世界で叶うのだろうか。
彼女のユメはこの物語で果たされるのだろうか。
それを知るのは。
今、この物語を描く者のみ。
今、この物語を紡ぐ者だけ。
「ふふっ、面白くなってきたね!」
「さぁ、僕も“夢○○”の力を起動しようかな!」




