肆拾伍話.新たな物語の序章
「......。」
「おい、56番、ボーッとしてんじゃねぇ!とっとと歩きやがれ!」
「そっちこそ、うるさい。」
私を注意してきたのは赤髪の女。腰ほどまである髪をポニーテールにまとめている。コードネームはブラッド。“血の民”の1番で、私たち“血の民”を統括しているボスともいうべき存在だ。
「あぁ?上下関係がよくわかってないようだな?いいぞ、私が思う存分分からせてやる。こっちへ来い!6番以外はこのままカタコンベへ向かえよ、いいな?」
基本的にブラッドには誰も逆らわない。と、いうか逆らったが最後、身体中を痛めつけられて、気の抜けた奴隷のようになるまでトラウマを植え付けられるからだ。
「さぁ、56番......いや、クローフィー、ゲームを始めようか!私に1発でも入れられたらお前の勝ちでいいぜ。」
甘い条件のように思える。だが、これはれっきとしたバツだ。これは私がブラッドに1発でも入れたら勝ち......つまり、1発入れられるまで終わらない地獄のようなゲームだ。
「なんだ?かかって来ねぇなら私から行ってやんよ!」
ブラッドの強さの1つはその攻撃の速さだ。私たちは半年間、動体視力を鍛えられたが、その程度では全く見ることも出来ない。
「......。」
ブラッドの拳が私の体の、心臓の真横あたりを通過する。一瞬で私の体には大きな穴が空いてしまう。
「痛すぎて声も出せないか?あぁ?もっとシャンとしやがれ!......全く、あいつはこの雑魚の何がいいんだよ。」
普通は即死レベルの攻撃だ。でも、私にとっては......
「......なるほどなぁ?超回復か。いい力持ってんじゃねぇか。」
既に、さきほどブラッドに空けられた体の穴はおろか、来ていた服の穴まで何もかも元どおりになっている。
「まぁでも、その能力じゃ私に攻撃は入れらんねぇよな?これから地獄を見てもらうぜ。」
ブラッドは勘違いしている。私が持っている能力は天啓......天に与えられたものだと勘違いしているからこんな単純な予測しか立てられていない。
「おら、何回も痛ぶれるなんて最高だ!」
ブラッドが次の攻撃に移ろうとしたので私は全力で後ろに下がる。
「無駄だ!私の速度より遅いぜ!」
そう言いながら振り上げられたブラッドの手が私に届くことはなかった。
「......なっ、天啓を2つも持ってんのか......ただもんじゃねぇな。しかも、超回復と瞬間移動......両方当たりときた。」
ブラッドが振り下ろした先には確かについさっきまで私が存在した。しかし、今私がいるのはブラッドの真後ろ。
「動きが単純、次の動きがバレバレ。」
「馬鹿にしやがって!お前が死んでないのはその天啓のおかげのくせにな!クローフィー、お前に私の攻撃は見えていないだろうが。」
「うん、全然見えない。」
まぁ、絶対に勝てないのは分かってる。反射神経も動体視力も単純な肉体性能も全部あっちの方が上、勝機なんて全然ない。
「覚えてろよ、クローフィー、そんな反抗的な態度を取ってたらいつか、“石”を壊すからな。」
「出来ればそれはやめて欲しいな。」
「ふん、お前次第だな。明日からお前は前線で働いてもらう、覚悟しとけよ?」
「わかった。」
前線って4回生の人たちが死にかけるところ......なんで私みたいな訓練され始めて半年の1回生嫌がらせされたみたい。私にはさっさと死んで欲しいんだろうな。
まぁでもいいかな。私はここを裏切る予定だし。




