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魔法使いメルトの物語  作者: 奈々宮 紬
夢干渉の精霊
25/90

弍拾肆話、もしくは番外編弍話.記憶の在り処

「じゃあヨシキ、頼んだ。」

「後で何か奢ってもらおうかな。」

「よしてくれよー、所長って言っても給料はそんなに出ないんだからさー!」

「冗談さ。」


私はナミに連れられてある部屋に入ったかと思うと、その部屋にいた女性に預けられた。女性はヨシキという名前で、背はナミよりも高く、髪型はショートだ。


「君、名前は?」

「え、えーっと......」


いつのまにかナミは部屋を出ており、私はヨシキと2人きり。


「......分からないのか。」

「は、はい、ごめんなさい。」

「いや、謝らなくていい。」


ヨシキは、そうか、名前はないのかと呟きながら、部屋の正面にある椅子に腰かけた。


改めて部屋を見回す。部屋の左右には本棚があり、中には本がびっしりと詰まっている。中央には大きな机、奥には机と椅子が置いてある。中央の机には実験に使うようなフラスコや試験管が置いてあり、奥の机には書類が何枚か置いてある。


「名前がないままだと、呼びづらいな。よし、君に名前をつけようか。」


名前......それなら......


「......フウカ」

「ん?」

「フウカっていう名前がいい......です......。」

「ふむ、フウカ、か。」


ヨシキは少し考えるような素振りを見せると、


「まぁ、いいんじゃないか?」


こう言ってくれた。


「じゃあ、フウカ。私は君を......いや、君たち2人を政府が追って来れないような辺境の世界線へ連れて行くように頼まれているんだ。」


2人と言われて初めて気がついた。部屋に入ってすぐ左にうずくまっている女の子がいるという事に。服こそ綺麗だが、肌には細かい傷がたくさん入っており、さっきから一言も喋らない。


「あぁ、彼女の名前はココロだ。どうしてここにいるかは......気にしなくていい。とりあえず私は君たちを別の世界へ送るように頼まれているんだ。」


ヨシキの言うことは分かった。とりあえず私は彼女に着いていけば大丈夫らしい。


「さて、善は急げというし、今から行こうか。着いてきてくれ、ココロ、フウカ。」


ヨシキについていっている間もココロは一言も喋らない。少し俯き気味のまま、私の横を歩いていた。


「ここが世界線を超える場所だ。」


ヨシキについて行って暫くすると、なにやら白い機械が大量に並んでいる部屋についた。部屋は3メートル四方ほどと少し狭いが人が入れるスペースは1メートル四方ほどしかない。


「さて、今から別の世界に行くのだが、準備はいいか?」

「はい。」

「......。」

「......大丈夫なようだな。では、行くか。」


ヨシキが近くの機械に暗証番号のような物を入力すると、部屋がいきなり真っ暗になった。そして次の瞬間......目の前が真っ白になった。




「起きろ、フウカ。」


体を揺すられて意識が戻っていく。


「ここは......」

「ここは世界線F-1234、政府がまだ介入出来ていない数少ない世界だ。」


そうだ、私、ヨシキと一緒に別の世界に行くって......。


「ただ、少しめんどくさいことになってるな。 」


目を開けると、辺りは真っ白な霧に覆われていることが分かる。そして、その霧の中でも目の前に黒い影があって......


「......ドラゴン?」

「おそらく、このドラゴンが今倒されたのだろう。世界線を超えるにはエアマイト......こっちの世界では魔力が大量に必要になるんだ。つまり、このドラゴンが死んだ時に放出された大量の魔力を到着点にして、世界線移動が完了したというわけだ。」


......なんかよく分からないけど、このドラゴンのお陰で新しい世界に行けたってことかな?


「ここの不自然さを拭うためにこの世界の人は記憶が上書きされていくと思うんだが......この死体がどう処理されるか、だな。」


その後もヨシキは1人で色々呟いている。けど、何を言っているのか全く分からなかった。ヨシキの後ろに立っていたココロもよく分かっていなさそうだった。


「まぁこんなところで考えていても仕方ないか。とりあえずこの霧が晴れる前に逃げよう。それが1番だ。」


言われて霧が晴れかけてきているのに気づく。さっきは周囲3メートルほどしか見えなかったが今は10メートル以上を見ることが出来る。


「さぁ、逃げようか。こっちだ。」


ヨシキはとある方向へ歩き出した。私とココロもそれに続く。


と、その時。


ヒュン


という空気を切り裂く音と共に何者かが目の前に現れる。


「フウカ!」


ココロと一緒に歩いていたヨシキがこちらへ向かおうとするがその何者かに阻まれる。......完全に分断された。


「何者だっ!」


ヨシキがそう聞く。


「私はコトノハ......ふぁ〜あ〜......眠いんだから早くどっか行ってよ〜......」

「それを聞くことは出来ない。」

「え〜めんどくさいなぁ......それじゃ......」


ヒュン


また空気を切り裂くような音が聞こえた。


「......なっ......に......」


気づくとヨシキは左肩から血を流していた。


「死にたいなら相手してあげるけど〜、コノも下手に殺しちゃうとミチビキに怒られちゃうからさ〜、ねぇ〜?」

「くっ!すまないフウカ!」


ヨシキはそういうと走り出す。......見捨てられたかな。まぁでも、すぐ死ぬ運命だったんだから、何も変わらないか......。


「んじゃ、コノの仕事は終わりかな〜、じゃ〜ね〜!」

「......え」


なんか、コトノハという子にも置いて行かれた......?

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