弍拾参話.ローシュ伯爵
「シャーノ。」
「......。」
「シャーノ。」
「......。」
「おい、シャーノ!」
「......。」
「聞こえてるのに無視するのはやめろ。これはどういうことだ?」
「い、いや、しょ、しょうがないんだよ!ここしか転移魔法の入り口にならないし......。」
ちなみに今俺たちが居るのはローシュ伯爵__この国で10位の地位を持つ貴族の豪邸の前だ。
不老樹へたどり着くには特定の場所でこの不老樹からの手紙を開く必要があるらしいのだが、シャーノによるとその特定の場所というのが、伯爵の家の庭、つまり伯爵の敷地内らしい。
「絶対にこの場所じゃないとダメなのか?離れているが他の場所でも大丈夫とかは......」
「絶対にここじゃないとダメなんだよ!」
「......。」
詰んでないか?俺のような子供、しかも身寄りのない冒険者がこの国10位の地位を持つ伯爵家に入れてもらえるわけがないだろ?
「こっそり入る......?」
「いや、それはない。」
さて、どうしたものか。この素材だけ後回しにするか?いや、それとも......
「あの......?御用でしょうか?」
と、その時、屋敷の門から俺と同じくらいの女の子が現れた。メイド服を着ているし、多分ローシュ伯爵の雇われメイドなのだろう。
「いや、何でもない。失礼だったな。」
「メルト!今のは頼み込んでみた方が良かったと思うんだよ!」
「......シャーノは黙ってろ。」
っと、シャーノは他の人には見えないんだったな。これだと俺が変人扱いされる......
「ま、まぁ、本当に何でもない。ちょっと屋敷の中を覗いてただけだ。」
「......?」
女の子は少し首をかしげる。......変なヤツだと思われたかな......?
「後ろにいる子は入りたそうなのに貴方は入りたくないんですか?」
............ん?
「ちょっと待て、後ろにいる女の子って......」
「私のこと!?」
「そう......ですけど......??」
え?
「貴女、私が見えるの!?」
「はい、しっかりと見えてますよ?」
「い、いや、ちょっと待ってくれ、こいつは精霊で俺以外の誰も見ることが出来ないって......」
「そう言われましても、ちゃんと見えてますよ?」
「えーーー!?」
どういうことだ......?俺以外にもシャーノが見える人がいるのか......?いや、今目の前にいるけど......。
「何の騒ぎかな?フーカ。」
「はい、ご主人様。この2人がお屋敷の中を見たいと申し上げております。」
「2人?1人しか居ないではないか。」
お屋敷の中から出てきたのは中肉中背の男。っていうかさっきご主人様って......。
「あの、ローシュ伯爵様ですか?」
「うむ、私が国王から伯爵の地位を賜ったローシュだ。」
伯爵本人現れちゃったよ......今回はダメだな、帰って作戦を練り直そうか......。
「少年、いい顔をしているな。少し上がっていくといい。フーカ、彼を応接間に案内しなさい。」
「はい、分かりましたご主人様。」
ん?
「お2人をご案内致します。こちらへどうぞ。」
「......入っていいってこと?」
「はい、もちろんです。」
「ありがとうなんだよ!フーカ?」
「はい、フーカであってます。付いてきてください。」
なんかよく分からないけど、入れそう......?
「では、ここでゆっくりして下さい。じきにご主人様がいらっしゃいます。」
フーカという女の子は俺たちをなんかよく分からない広い部屋に案内したあと、そう言い残し立ち去った。
彼女が出て行った後部屋をじっくり見回すと部屋の中には絢爛豪華な長机と椅子が並んでいるのが分かる。広さは大体15メートル×20メートルといったところだろうか。
「待たせたな。部屋は気に入ってくれたかい?」
しばらくすると伯爵が部屋に入ってきた。
「私はさっき名乗った通りローシュだ。君の名前は?」
「メルトです。」
伯爵は部屋に入るや否や近くの椅子に座るように促し、自分も対面へ座った。そして矢継ぎ早に質問をしてくる。
「出身地は?」
「すいません、分かりません。」
「なるほど、では親の名前などは?」
「......分かりません。」
「ふむ。職業は冒険者かな?」
「はい。」
「冒険者になってどれくらいだ?」
「まだ半年ほどです。」
「......分かった。」
ここまで聞くと、伯爵は少し考えるような素振りを見せた。
「......心当たりがなかったら聞き流してくれ。もしかして君は、異世界人か?」
「え?」
バレた......?いや、隠してはいなかったけど......。
「どうしてそう思ったんですか?」
とりあえず俺は皇帝も否定もせずにそう思った理由を聞いた。
「いや、怖がらなくて大丈夫だ。別に危害を加えたり捕まえたりしたりするつもりはない。ただ、出身地や両親の名前も言えず、しかも冒険者をしているとなれば知識があれば大体想像が......それに、その目だ。普通の子供の物ではない。歴戦の戦士のような強い目をしている。」
「......。」
“知識があれば”
つまり、伯爵には知識があるということ。この世界にはこんな知識を持つ者がどれくらいいるのだろう?数によっては気をつけないと......ロクでもないことを考えるやつもいるだろうし......。
「まぁ、こんな知識があるのは、異世界人という概念を知っているのはごくごく一部だと思うがね。バレない気をつけた方がいいだろう。“鮮血の民”に目をつけられると厄介だ。」
「......僕が異世界人だということは認めます。では、伯爵がどうしてそんなことを知っているのかと“鮮血の民”とはどういう存在なのかを教えて頂けませんか?」
「いいだろう。話は単純だ。まず、どうして私にこんな知識があるのか。それは私が“血の民”を壊滅させようと働いているからだ。そして、“血の民”というのは、何者かの命令によって、異世界人を攫い、そして実験し、殺すとても危険な思想を持つ組織だ。」
......あー、多分その“血の民”とやらに見つかると死ぬな......。
「君のような子供の異世界人を見るのは今までで2回目だな。珍しい存在だけあって狙われやすいはずだ。やはり、あまり異世界人であることをバラさない方がいいだろう。」
「......ご忠告感謝します。どうしてそこまでしてくれるんですか?」
「さっき言ったように私は“血の民”と戦っている。無駄な犠牲は増やしたくない。ただそれだけだよ。」
伯爵、とてもいい人なのでは?シャーノも見習って欲しいものだ。
「メルト、今、とっても私に失礼なこと考えた顔をしてるんだよ!」




