番外編 裏エピローグ ―生きる喜び―
番外編2。バッドエンドルートのエピローグです。
番外編 裏エピローグ ―生きる喜び―
初めて通った学校は、楽しかったです。人とまともに会話した事すらほとんど無かったあたしでしたけど、初日からクラスメイトはすごく優しくしてくれました。
部活動にも誘われましたし、話し上手な男の子にも沢山話しかけられました。これが、記憶の中でしか知らなかった外の世界の楽しみなんだ、って改めて実感しました。これから、毎日が楽しみです。
でもウチはお金が無いから、部活動はせずに放課後はアルバイトをしようと思います。入学前からどんな仕事がいいかなって思いながら街中を歩いていたら、かわいいフリフリの服を着た人達がかわいらしい言葉遣いでお客さんに料理を運んでいる店と出会いました。
どうやら「なんとか喫茶」って呼ばれてる喫茶店らしいです。あたしが入ってみた限りは格好以外はごく普通でした。でも服がかわいいのでここで働いてみたいな、って思いました。近い内に電話してみようと思います。
お母さんも「やってみなさい」って言ってくれてます。記憶の中と実際の世界はだいぶ違って見えます。まだまだ知らなきゃいけない事は多いです。でもあたしはがんばります。あの子のためにも。
あたしが外の世界に出て四ヶ月。やっとまともな人間として生きる事が出来るようになりました。あたしは人間になりました。新しい名前ももらえました。あたしは「神崎 叶詩」。お姉ちゃんの名前を使ったら、同じ人間が二人居る事になってしまいますから。そんなわけにはいきませんものね。どっちみち、陽詩の名前を名乗っても陽詩は一人しか居ないわけですけど。
でもあたしの命はあの子の踏み台の上に成り立っているのだと思うと、ちょっと複雑です。今でも思い出すと悲しいです。せっかくこれから、一緒に暮らせると思ったのに。
お姉ちゃんは亡くなりました。お姉ちゃんの彼氏も、事件を起こした彼女も。あたしは、お姉ちゃんと本当に短い間しか一緒に居れませんでした。一日どころか、一緒に居られたのはほんの一時間ちょっとでした。でも、それだけでも会えて良かった。もしかしたらあたしは、お姉ちゃんと一度も会う事無く死んでしまったかもしれなかったから。
お姉ちゃんは、地下の牢獄に閉じ込められていたあたしを必死になって助けてくれました。あたしは病気も発症していたし、あのままあそこにいたら確実に死んでいました。だから、あたしの命はお姉ちゃんにもらった命なんです。元々、あたしはお姉ちゃんの身体をコピーして生まれたクローン人間ですから。お姉ちゃんは確実に、あたしの中で一緒に生きています。
でも何なんでしょうか、この少し虚しい気持ちは。もしかしたらみんな仲良く生き続ける未来なんていうのもあったかもしれない。そんな叶わない願いを、あたしは今も持ち続けています。お姉ちゃんが居なくなってしまったこの世界は、楽しい世界に見えるけど、あたしには何か大事な物が欠けてしまった世界に見えます。
桜が舞い散るこの並木道を歩きながら目を閉じれば、何かが見えてくる気がします。
そこにはメガネの似合うカッコイイ男の子と、
小学生のような背丈しかない、黒髪の女の子と、
そして、今にもあたしに笑顔で振り向いてくれそうな、赤い髪をした少女が。
もしかしたらそれは淡い幻だったのかもしれません。桃色の花びらは今も目の前で咲き誇っています。でも、あたしは確かに一瞬だけど見たんです。その三人が幸せそうに並んで並木道を歩いているのを。
黒髪の小さな女の子を真ん中に、三人は手を繋いでいました。そして、その後ろを追いかけるように、長い黒髪をなびかせて、紺色の制服を着たあたしが歩いていました。幻の中の四人は、現実のあたしに向かって振り向いていました。優しく微笑んでいました。
赤い髪の少女の唇は、何かを言っていました。あたしには「ずっと一緒だよ」って言っているように見えました。
その光景が、とても幸せそうで。満ち足りた四人の表情が羨ましくて。
幻は、一瞬で消えてしまいました。春風が顔に向かって吹いて目を逸らし、気付いた時には四人とも、どこかへと姿を消していました。
なんだか、あたしは取り残されてしまった気分です。これから楽しい人生が山ほど待っているというのに、この桜並木の真ん中でしばらく呆然と立ち尽くして、二度と見る事の出来ない幸せな幻をまたつかもうとしていました。
輪廻転生という言葉が本当なら、あたしはもう一度お姉ちゃんと逢いたい。かけ離れた姿だって構いません。あたしに命をくれたお姉ちゃんに、ちゃんとお礼が言いたいんです。
あたしは強く生きていきます。どんな逆風が吹いたって、負けません。死後の世界で幸せになるより、生きる喜びの方が強いに決まっています。
ひなたは今、幸せですか? あたしはまだ行けない世界で、親友と幸せに暮らしていますか? もし今幸せだったとしても、あたしは決してそんな幸せはいいとは思えません。もしかしたらもっと幸せになれる別の未来もあったかもしれないんです。
あと一歩、生きたいと思ってほしかった。きっとお姉ちゃんは最期の最期で生き延びる事を諦めてしまったのかもしれません。同じ幸せになるなら、あたしはお姉ちゃんと一緒に生きたまま幸せになりたかった。
あたしは赦しません。こんな結末を用意した運命の悪魔を。
昔々、遥か遠い世界の物語です。
崩壊した亡国の姫君は、己の幸せを求めて異国へと旅立ちました。
異国の旅は過酷でした。
煌びやかなドレスで砂漠を渡りました。
綺麗なドレスは砂嵐でぼろぼろになりました。
かかとの高いハイヒールでジャングルを抜けました。
沼地に足を取られ、ハイヒールを失いました。
自力で作ったいかだで、海を越えました。
嵐に遭い、付けていたアクセサリーは吹き飛びました。
姫君は怪我をし、何度も挫けながらも歩きました。
その内、ある国の王子と恋に落ちました。
姫君は王子と愛を語り合いました。
そして王子と一緒に、姫君は駆け落ちしました。
色んな追っ手に追われました。
色んな困難に見舞われました。
色んな障害に邪魔されました。
長い旅路でした。二人で力を合わせて、危機を乗り越えました。
二人は旅の果てに、世界の終点へと辿り着きました。
そこには魔王が住んでいました。
二人は魔王に問われました。
「ここから先に道は無い。お前達の後ろにも道は無い」
「お前達に選ぶ権利を与えよう」
「闇の中を光を探して進むか。それともここで旅を終わるか」
姫君は悩みました。
目の前には永遠とも思える闇が広がるだけ。
来た道はいつの間にか崩れ落ちていました。
「あたしにはどちらも選べません」
「あたしは、生きるから」
魔王は答えました。
「ならば生きてみせるがいい」
魔王は、道を作ってくれました。
眼下に広がる闇へと続く道ではありません。
過去へ戻るための道でもありません。
未来をつかむための、上天への道でした。
「この道は辛く過酷な道。だが希望の待っている道でもある」
「勇気があるなら、踏み出すが良い」
姫君と王子は、共に歩き出しました。
昔々、遥か遠い世界の物語です。
これは異国の姫君の、生きるための物語――。
了
うーん、自分で書いてても後味の悪いエンディングです。ちなみにこちらは裏エンディングです。真のエンディングは本編の方です(ココ重要だよ!)。
簡単に言うと、平行世界のもう一つの未来のようなものです。微妙に本編エンディングと内容がリンクしています。




