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ひなたに、あたたかな陽だまりを。  作者: ふぇにもーる
終章 存在を賭けた戦い
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第51話 最終章 ―存在を賭けた戦い― 13 Final episode

 ひなたは何処かを歩いていた。良く景色を見ると、雪の降る幻想的な東京ユニバーサルランドだった。まるで十三年前のあの日のような。唯一現実とは違うのは、家族がいた。一緒に歩いていたのは、母の世良と、自分と同じ顔をした陽詩。そして、今は亡き父。ジェットコースターに乗り、食事をし、みんなが幸せそうに笑っていた。

――お父さん……。

 さとりが、泣いていた。目を真っ赤に腫らし。右手に一本のナイフを持って。

 ひなたはそれを見て、震える手を伸ばして笑った。さとりの頬を優しく撫でる。

「あたし、これでもう終わりだね……。ごほっ、たった……十七年の命だったけど、辛い事もいっぱいあったけど、生まれてきて……良かったよ」

 さとりは、撫でてくるひなたの手に自身の手を重ねた。

「ごめんね……、ごめんねひなひな……」

「なんで、泣くの……? さとりは勝ったんだよ……?」

「嬉しくない! こんなんで勝ったって!」

 ひなたの息が弱い。笑い顔を作るのも苦しそうだった。

「私、やっと気付いた。今になってやっと、ひなひなが大好きだった気持ちを思い出した! 傷付けて初めて!」

 さとりの右手のナイフが震えた。こんな恐ろしいものをどうして、という風に地面に投げ捨てる。壁に串刺しになったひなたを、抱き締めた。

「あたし、幸せだよ……。最後の最後で、ずっと会いたかったお母さんも見つけられたし、ずっと好きだった海斗君と両想いだったの、わかったし……、好きだって言ってもらえた。せかいいちの、しあわせものだ、ね……」

 さとりの抱き締める力が強くなった。

「あんたは……、あんたはその程度で幸せなの? もっと他に欲が無いの?」

「幸せだよ……。最期の最期で、色んなお願い、叶ったから……」

 ひなたの手が落ちた。

「みんな、いるね……。お父さんも、エリカも、犬のたろうも……。新宿先輩も……。さとり、みんなの所に……いかせて……、このままじゃ、痛い……から……」

 さとりは泣いた。すぐ側にあるナイフで、首を引っ掻かれれば自分の命は終わるというのに、ひなたは恐れなど無いように思えた。

この少女は、最期の最期で笑って見せた。自分の事を幸せ者だと言って。なんて、悲しい生き方なんだろう。とてつもなく不器用な少女だった。



 悲劇のヒロインを演じたつもりは無かった。出来るものなら、これが喜劇であってほしかった。本当は、あたしは人を笑顔にする事に快感を感じる人間だから。

 いつか、歌手になって幸せな歌を歌いたかった。隣にはカッコイイ彼氏が居て、ギターとか弾いてくれちゃって、あたしを後ろで見守りながら、サポートしてくれるの。あたしは色とりどりのスポットライトを浴びながら、大勢の観客に向かって笑顔を振りまく。

 ライブもその内みんなノッてきて、みんな幸せな気分になる。あたしも幸せな気分になる。そんな風にして毎日を歌って過ごして、CDとかも出したりして。

 何年かしたら結婚とかして、子供もできて、毎晩笑いの絶えない、楽しい家庭を作るの。いいよね、そういう平凡な暮らしって。歳を取っても、旅行とか行ったりして、楽しく過ごすの。

 そんなありふれた日常が、どんなに幸せだかあたしは知ってる。だって、どんなに望んでもあたしには手に入らなかったものだから。 ごめんね、お母さん。せっかく会えたのに、もうお別れみたい。陽詩をお願い……、あの子はあたしと一心同体だから。



 さとりのナイフが近づいてきた。あたしは目を瞑った。煌びやかな走馬灯を見ながら、幸せなまま……。

「ば、馬鹿……あんた!」

 さとりの焦るような声が聞こえた。あたし、死んでない。右胸がすごく痛い。息も苦しい。だけど死んでない。目をうっすらと開けてみた。

 そこには、目を疑うような光景があった。

「かいと、くん……」

 さとりのナイフが、海斗君のお腹に突き刺さっていた。血が流れ出していた。どろどろと。海斗君は、笑いながら痛みを堪えていた。

 海斗君は、あたしを見てきた。

「良かった、間に合ったよ……。ちょっと、ミスったけどさ」

 海斗君は倒れた。お腹に突き刺さったナイフを抜くと、もっと血が出てきた。あたしは痛さで感情があまり沸いてこなかった。

「俺、ひなたを守れたよ……。ずっと守るって決めたんだ」

「なんで、あんたが代わりに刺されるのよ! 訳がわかんない……!」

 海斗君を刺してしまった事に気が動転したみたい。さとりは頭を抱えた。

「もうやめよう、なんでお前達が殺し合いなんかしてるんだ……。俺達、友達だろ?」

 痛みを堪えているみたい。海斗君は苦しそうな声だった。

「なんでよ、なんでそこまでして……」

 さとりの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってた。顔を横にぶんぶんと振った。

「二人とも、俺の大事な幼馴染みじゃないか……。どっちが死んでも、俺は悲しいよ」

 あたしも泣いた。こんな終わり方、全然予想なんか出来なかった。さとりは海斗君の血の付いたナイフを拾うと、自分の首筋にあてがった。

「杏条、何をするんだ……!」

 さとりは笑い泣きだった。

「私ね、もういいや……。どっちみち、ひなひなを殺したら私も死のうと思った。だけど、殺せない。恋人同士になったあんた達を目の前にして、殺す勇気なんて、私には無い……。生きて。幸せになってね。約束だよ……?」

「やめろ!」

 海斗君は手を伸ばした。だけど立ち上がれなかった。怪我が痛いみたい。

「私、沢山殺した。大好きだった新宿先輩も、私が殺しちゃった。クラスメイトも、全く関係ない人も、大勢殺しちゃった。あんなに大好きだった記憶のある、幼馴染み二人も、こんなになるまで傷付けちゃった。

 もう、私の両手は血塗れ。例え薬が手に入って助かったとしても、私はもう生きていけない……。ただの大量殺人者。本当に死ぬべきなのは、私のほう」

「ちがう! お前だって被害者だったんだ。生きてやり直せ!」

 さとりの口が「ありがとう」って言った。笑ってた。懐かしい笑顔だった。あたしは痛みで言葉が全然出なかったけど、止めたかった。

 さとりのナイフが動いた。血を飛沫のように吹いて、静かに崩れ落ちた。いつの間にか、雪は止んでいた。冷たい雪の上に倒れたさとりは、もう動かなかった。あたしは、止まらない涙をいつまでも静かに流し続けた。

「泣くなよ、杏条。お前は笑ってる方が似合うんだ。何で、最期に泣くんだよ……」

 朝が、やってきた。悲しみを全て取り払うかのような、雲一つ無い眩しい日差しが。それでも、あたしの心の中にぽっかりと開いた穴は、埋まる事は無かった。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。ただ読んでいただけただけでも大変嬉しく思います。

ここに感謝の意を示したいと思います。

あと最後にエピローグとあとがきがございますので、よろしければご覧になっていただきたく思います。


※あとがきはネタバレ有、表に出ていない設定の説明有。又、イメージぶち壊しの可能性がございますので、ご覧になられる場合はくれぐれもご注意なさって下さい。

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