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第八話 虹色のドリームキャスト


「ギースくん、久しぶりだね、元気にしてたかい」


「お久しぶりです、鈴木さん」


 ライブハウス「ギガ・アミューズメント」の入り口で「Deadly Rave」のメンバーとユリを出迎えたのは、支配人の鈴木だった。彼は「VIRTUA FICTION」のマネジメントも行っており、オーディションの決定権も握っている。ギースとは顔なじみ、いや、因縁があると言うべきか。


「キミはビリーくんだっけ。うちのオーディション、受けたことがあるそうだね」


「落ちましたけどね、ハハハ」


 ビリーが愛想笑いで返す。ギースにとって鈴木は自分をクビにした張本人ではあるが、それより重要な疑念があった。今日のライブで、最近話題の「Deadly Rave」と「VIRTUA FICTION」を比較させるつもりなのではないか?


 これが的外れな考えとは思えない。なぜならギースは元々「VIRTUA FICTION」にいて、ギガのやり方は誰よりも知っているからだ。だが、それはいい。問題なのは、ビリーをひき逃げした可能性についてだ。そこまでするとも思えないが、ギガの鈴木は信用ならない。


 相手のバンドが全力を出せない状況に追い込む。そして、「VIRTUA FICTION」が格の差を見せつけ客を……いや、考えすぎか。ギガもそこまではしないはずだ。


 しかし……


◇◇◇


 今日のライブは「VIRTUA FICTION」と「Deadly Rave」のダブルヘッドライナー。つまり二つのバンドは同格扱いということになっている。とはいえ知名度や集客力は「VIRTUA FICTION」が上回っており、「Deadly Rave」は事実上のゲストである。


 本来なら「Deadly Rave」が先にライブをして、その後で「VIRTUA FICTION」がライブをした方がギガにとってメリットが大きい。しかし観客に比較させる意図が鼻について批判される可能性を考慮し、あえて格上の「VIRTUA FICTION」が先にライブを行う。


 この街で最大のキャパ (収容人数) を誇る「ギガ・アミューズメント」は満員。オールスタンディング (座席が無く立ち見) だがギュウギュウ詰めだ。


 ライブハウスのBGMが、出演バンドが指定するSEの曲に切り替わる。観客の緊張感が上がる。


 ♪~


 その日「VIRTUA FICTION」が選択したSEは Skrillex の「Rock N Roll (Will Take You to the Mountain)」。



 会場の照明が消える。


 ステージが輝く。


 ボーカリストが叫ぶ。




「Fight ONE! Readddddyyyyy………GOOOOOO!!!!!!!!!!」



 爆発音? 違う!!!

 ベードラとシンバルとベースとギターとキーボードが同時に……


 そうだ! 爆発したんだ! 間違っちゃいない!!!!!!!!


 アンプから、スピーカーから、飛び出す爆風!

 音圧、いや、計算され尽くした音の洪水が

 フロアを飲み込み、興奮の渦へ叩き込んでいく


 脳が、もう持たない、イカレそうだだダだ!!!!!


 ギースはフロアに回り込み、観客側の立場で聴いている。上手い。くやしいが「VIRTUA FICTION」は上手い。演奏技術は当然としても、音の作りが尋常じゃない。これだけの大音量でありながら、全ての楽器が個別に聞き取れる。


 ギースの後任と思われるギタリストが手にするギター、ネックが太い。あれは7弦、よく見ればフレットが斜めになっている。なんて癖が強い……


 

  ────────────────

  獣肉生贄晩餐 (Un bol de Gyūdon)

  作詞:GIGA Enterprise

  作曲:GIGA Enterprise & Sonic

 (メロディは読者が自由に思い浮かべてください)

  ────────────────



 ♪聖杯を満たす白い大地、黒い憎悪、紅き薔薇の破片

  浸す濁った涙の露、渇望せし晩餐の刻、夜を喰らえ


  Un gyūdon grande portion

  Avec beaucoup de sauce, s'il vous plaît.


  足りない、足りない、運命の夜を越える対価が

  足りない、足りない、終焉なき享楽の宴よ……



 ボーカルは上手いが、テリーほどではない。とはいえ並の実力ではないのも確かだ。バンドはボーカルが全て、全ての楽器はボーカルを立てるために存在する。ボーカリストに求められるもの、それは情熱を、欲望を、葛藤を、嫉妬を、期待を、絶望を、バンドサウンドとして表現する指揮者としての器だ。


 だが、やはり特筆すべきは7弦のギター。粒がそろった音色は歪み過ぎず、轟音のバンドサウンドから浮き上がるように聞き取れる。膨大な量の空間系エフェクターを使用しながらも、繊細にまとめ上げ無駄のない音。完敗だ。テリーは目を閉じ、首を振る。


 曲が終わり、ボーカルがMCで観客を煽る。



「十年早いんだよ!!!」



 それはこれからライブを行う「Deadly Rave」へ向けての挑戦状だったのかもしれない。腰を痛め万全には程遠いドラムのビリー、関係が浅いベースのジョー、何をしでかすか分からないボーカルのテリー、打ちのめされたギターのギースは、運命のステージへ……


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