表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

第五話 弓月のジュブナイル


 ライブは終わった。そこにいた誰もが踊り過ぎてクタクタだった。


 そんな中、いち早く西山ユリは我に返り、フロアから控室に向かう。一息ついていた「Deadly Rave」のメンバーにねぎらいの言葉をかけるかと思いきや、いきなりテリーの胸倉を掴んだ。怯えるテリー、ユリはネイティブな関西弁で叫ぶ。


「おうワレ、なんでウチの年齢の秘密知っとんじゃ、おお?」


「ボクにもわからないよ……」


「そんなわけあるかい、どういうつもりじゃ、ワレ?」


「詩が勝手に降りてきて、それを歌っただけだから……」


「ホンマに知らんのやな?」


「そうだよ……だから……ボクは何も悪くない……」


 ユリは手を離した。テリーが本当に悪くないのか少し疑問は残るが、その実力については疑いようがない。予想外の出来事に固まっていたギースとビリーに、ユリは問う。


「おう、お前ら、ベースだけやのうてマネージャーも失踪したらしいのう」


「は、はい」

「は、はい」


「ほなウチが面倒見たる、マネージャーやるさかいに」


「あ、ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます」


「お前らみたいなん野放しにでけんからの、特にテリーな」


「はい、おっしゃるとおりです」

「はい、おっしゃるとおりです」


「きっちりシメていくさかいの、覚悟しいや」


「はい、よろこんで」

「はい、よろこんで」


◇◇◇


 ギースはギターと機材を抱え、ライブハウスを出た。同じ駅に向かうので、並んで歩いていたテリーが話しかける。


「ユリさんにはビックリしたけど、今日のライブ楽しかったね」


「うん、そうだね……」


「ジョーもすごいベーシストだったね、最高じゃん」


「うん、そうだね……」


 楽しかった、夢中になった、お客さんと一体になった、それは確かだ。でもあれは、自分が望んだバンドの姿だったのか。演奏した曲は、自分が望んだ表現だったのか。ギースの胸にわだかまりが残る。


「なあ、テリー」


「なんだい?」


「やっぱ、即興で詩を歌うの、やめたほうが良くない?」


「なんで?」


「だってさ、上手くいかないとき、絶対あるじゃん」


「今まで上手くいってきたけど?」


「でも次はわかんねえじゃん、それに、レコーディングして音源作ったときとか、即興の意味なくね?」


「あ、見て! 公園だよ! 滑り台もあるよ!」


「おい、話聞けコノヤロウ」


 テリーは公園に入る。付き合う必要はなかったが、ギースもゆっくり後を追った。


 走り回るテリーを横目に、ギースはベンチに腰掛ける。なんだか色々疲れが出たのか、怒る気にもなれない。なんだかな……



「ギース見て見て、滑り台があるよ」


「そりゃ公園だからな」


「よーし滑るよー、……ぐぎぎぎ」


「ケツが挟まって抜けなくなってんじゃねえか」



「ギース見て見て、ジャングルジムがあるよ」


「そりゃ公園だからな」


「昭和のパソコンで作った3D画面みたいだね」


「まあわからんでもない」



「ギース見て見て、鉄棒があるよ」


「そりゃ公園だからな」


「一発芸、『丸焼きにされる豚』」


「両手両足でぶらさがってるだけじゃねえか」



 はぁ……。


 コイツといたら結局は、ノリと勢いで流されてしまうのかな。でもこんなことでプロになれるのか。バンドで食っていけるのか。俺が本当にやりたかったのは……



「ねえねえ、ギースは何でバンドをやってるのかな?」


「プロになるためだよ」


「ねえねえ、ギースはどんなバンドがやりたいのかな?」


「売れるバンドだよ」


「ねえギース、ボクは君が『決めたこと』じゃなくて、『やりたい事』が聞きたいんだ」


「…………」


「もう一度聞くね、ギースは何でバンドをやってるのかな?」



 そっか、忘れてた。

 テリーは天才なんだ。


 何気ない言葉で心を暴く、根拠なき才能の持ち主なんだ。

 何でバンドをやるのか、なんて言葉に出来るはずがない

 そんな哲学的な問いを、俺はどうやって答えたらいい……


 ギターをケースから取り出した。とはいえ小さな生音しか出せない。シャカシャカとコードを適当に弾いていると、テリーが即興の歌を重ねてきた。



 ♪だから気付けなかった

  だから信じなかった

  だから繰り返した

  だから道に迷った、ボクは


  だから君に出会った

  だから君を信じた

  だから君と一緒に

  もう迷わない、進むんだ、ずっと


  いつかきっと、辿り着いたその先で

  ボクが君と、歩んだ道が見えるかな



 陳腐だ。ありきたりだ。誰でも思いつく詩だ。だけど、だからこそ、ギースは涙が止まらなかった。


 泣いているギースを見て戸惑うテリーの様子から、適当に思いつくまま言葉を並べただけなのだろう。だがその言葉は的確に、ギースの心を暴いていた。


◇◇◇


 ♪~


 西山ユリのスマホが鳴る。今日は気分を変えて着信音は「サイコソルジャー」だ。


「『Deadly Rave』のジャーマネ、ユリでございましてよ、ホーホホホ!」


 優雅に電話を受けていた彼女の表情が一変する。


「なんやて! 無事なんかビリーは? 相手が逃げた? わかった、折り返し電話する」


 スマホをテーブルに置いたユリは、震えながら呟いた。


「え、えらいことや……せ、戦争じゃ……」


注釈:「サイコソルジャー」はヤバい。作曲センス、歌詞、歌唱力、全てヤバい。昭和を煮詰めて結晶化したような楽曲。「恋のミクル伝説」と並べて語りたいところだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ