↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/50

4th イエロー・サブカルチャー


 ギースは自宅で、ギターの録音をしていた。


 ビリーのドラムに、ジョー (東) のベースを重ねた音源を、パソコンに取り入れる。それを土台にギターを録音するのだ。


 リフひとつ弾くのも納得するまで何度でもやり直す。膨大な時間がかかるが苦ではなく、むしろレコーディング用ソフトの進化を楽しんでいた。


「ギターアンプやエフェクターをここまで再現できてるなんて、DAWって面白いな」


 アンプシミュレーターはプラグインなので、正確に言うとDAWソフトではないのだが。それはともかくギースはリフを徹底的に弾き込んで録音を終了した。次はソロだ。


 ギースは「VIRTUA FICTION」時代に「バンドはボーカルが全て、全ての楽器はボーカルを立てるために存在する」と叩き込まれている。ギターは所詮ライバルポジション。だがそれゆえに、一番おいしい立場にあると。


 ロックにおいてギターソロは、ライバルが主人公を打ち倒す場面である。物語で最も熱いシーンであり、ギタリストとして最高のパフォーマンスを見せる特別な瞬間である。ギースはここで、煮詰まった。


 旋律は決めてあるし、技術的にも無理はない。だが、もうひとつ特別な Something(言葉に出来ない何か) が欲しい……


「ねーねー、お兄ちゃんあそぼー」


 妹が部屋に入って来た。気分転換にちょうどいい。


「いいよ。ゲームでもしよっか」


「あつもりがいい、あつもりしたいー」


「あつまれ どうぶつの森かい?」



 ──人間五十年、下天の内を比ぶれば、夢幻の如く也



「そっちの敦盛あつもりかよ!」


「だってお兄ちゃん、むずかしい顔してるもん」


「かといって能はやらないよ!」


「でもお兄ちゃん、サブカル好きでしょ?」


「能ってサブカルなの!?」


「うん、そうだよ。アニメの作画や脚本を論じるように、能楽師の技量や舞台の緊張感を味わって楽しむんだよ」


 技量と、緊張感……


 ♪~


 ギースのスマホが鳴る。着信音は「Hey Bulldog」。発信元はビリー。


「やあ、レコーディングは順調かい? ちょっと紹介したい場所があってさ……」


◇◇◇


 北野坂にある教会の裏に、スタジオ「Octopus's Garden」はあった。録音ブースが一部屋あるだけの小さな店。ギースは扉を開ける。


「あの、予約していたんですけど」


「どうぞこちらへ」


 店員の女性は丁重に案内するも、両腕にびっしりと刻まれたタトゥーとベリーショートの金髪、そして無数のピアスがギースに緊張感を強いていた。


「当店のオリジナルアンプは使用されます?」


「いえ、マーシャルを使います」


「JCM800とJCM900があります。一応JCM2000も……」


「……普通ので」


 正直アンプより手持ちの機材で歪ませたいギースは、アンプにそこまでこだわらない。とはいえこんな小さい店舗の、どこにそんなアンプが置かれているのだろう。絶対にメサブギやEVH 5150もあるとみた。


 ほどなく録音ブースにJVM210Hが設置され、普通とは何かと考えさせられたギースだったが、とりあえず Killer のギターと機材を取り出して、ソロの録音を開始した。


 気持ちいい。


 料理の画像と実食の差。音が質量を持った物質だと確信する倒錯感。魔法だ。魔薬だ。魔さしくこれが、魔ち望んでいたサウンドだ。この非科学的な感動こそが、エレキギターの本領だ。


 ギタリストはWizardだ。

 いや、ソロでは勇者の首を狙うWarR()ockだ。


 録音自体は数分で終わった。最初に弾いたソロが最高の出来だったのだ。とはいえ時間が余ったので、ギースは多様なフレーズを弾いて楽しんでいた。


 コントロールルームでギースのギターを聞いていた、ベリーショート金髪の店員は、通路に立つ常連客に話しかけた。


「彼、いいですね。大人しそうなのに殺意ある音で、カワイイ」


「……」


「気に入ってるんでしょ? アナタも」


「……」


 常連客は何も言わず、黒いコートをひるがえして去った。店員はクスリと笑う。そろそろ時間だが、あえて好きにさせておこう。真面目そうな彼が時計を見たときの、動揺する顔が見たいから。


◇◇◇


 スタジオを出たギースは、自分が気味の悪い人間だと自覚した。なぜならニヤケが止まらないからだ。今日録った音源は、店員の好意でスマホにも入れてもらった。それを聞く。何度も聞く。帰り道で、電車の中で、家に着くまで、何度でも。


 ギースは知った。地球上最も楽しめる音楽は、自作音源だと。


「お兄ちゃんおかえりー」


 玄関を開けると妹が出迎えた。音楽を超える唯一の声は、ヘッドフォンを外して耳にする。


「ただいま。ギターの録音してきたよ」


「どうだったー」


 ギースは笑顔でサムズアップ。妹も親指を立ててウィンク、そして元気に叫んだ。


熱盛(あつもり) ぃ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
〉音が質量を持った物質だと確信する倒錯感。魔法だ。魔薬だ。魔さしくこれが、魔ち望んでいたサウンドだ。   この表現、すこ♡  生者必滅、なればこそ 
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。