↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/50

3rd エスカルゴ・フィールズ・フォーエバー


 聖エスカルゴ女学院は、数多くの施設を備えている。教室はもちろん、コンサートホールや体育館、テニスコート、果ては遊園地まである。遊園地はエスカルゴパーク、通称「エスパー」と呼ばれている。


 最年長の在校生である西山ユリは、観覧車の下で下級生たちに囲まれていた。


「ユリさま、昔テレビに出演なさっていた自称・超能力者の方々は、今どこで何をなさっているのかしら」


「……そっとしておいて差し上げなさい」


「ユリさま、昔テレビに出演なさっていた自称・除霊師の方々は、今どこで何をなさっているのかしら」


「……そっとしておいて差し上げなさい」


 そうはいうものの、ユリは宜保愛子が大好きだった。遺影を前に「この方は生前、おいなりさんが大好物ね」と、しょうもない霊視をするセンスがたまらない。ちなみに実話である。


◇◇◇


 エスカルゴ別館 録音棟。


 ここはレコーディングのために建設された施設であり、ジョーこと東先生は学院より正式な許可を得て、ベースを収録している。その側では、打楽器講師の不破 (ふは) が筋力トレーニングに励んでいる。


「うおおおおおおおおおお!」


 無許可で持ち込んだバーベルを上げ、大声を上げる不破。東は意に介せず涼しい顔でベースを弾く。彼のヘッドフォンからは、送られてきたビリーのドラムが流れていた。弾き終えるのを見計らって、不破が声をかける。


「おー、東先生、今日はレコーディングですか」


「ええ、そうです。せっかくですから録音棟を使わせてもらってます」


「うーん、それにしても意外ですな」


「どういうことですか」


「いやー、だってこの録音棟、マイクやアンプがたくさんあるじゃないですか。それなのにパソコンでレコーディングされるのですね」


「なるほど、そういうことですか」


 東はベースをパソコンにつないで録音している。正確にはオーディオ I/Fを介して接続しているのだが、それでも周囲にあるスタジオ設備を使わないことが、不破には不思議に思えたのだ。


「いやー、東先生ほど音にこだわる方でしたら、直接音を出して録音すると思ったのですが」


「いえいえ、私なんていいかげんな人間ですよ。それに録音した音源はデータにした方が、後から加工しやすいですからね」


「えー、でも東先生はアンプやエフェクターも自作なさるほど、こだわってる方じゃないですか」


「それは大丈夫です。パソコンのデータで、自作エフェクターも再現しています」


「おー、さすがですね」


「もちろん自作アンプやスピーカーも再現しました。マイクの位置や種類が変えられるのは、元々ですけどね」


「むむー、録音プログラムも進化しているのですね」


「まあ打楽器の録音はシミュレーターより、直接音を出して録音することがほとんどですからね。逆に打楽器奏者じゃない人は、プログラミングされたドラムを使用しますけど」


 東はパソコンをそっとなでる。


「ちなみにこのパソコンも自作です」


「まー、先生ならそうだと思いましたよ」


「ベースとつなげているオーディオ I/Fとシールド (接続ケーブル) も自作です」


「おー、徹底してますな」


「この防音室も、私が設計しました。安定した電圧の確保には苦労しましたよ」


「お……、おう、それは本当にすごい」


「録音棟の設計にも携わりましてね」


「ほぅ……」


「基礎工事の段階で、振動対策のためコンクリートを厚くしました」


「ま……まさか……」


「ミキサー車を運転したのは、あの時が初めてでした」


「こ……ここも自作?」


「建設費と土地の確保も、私が株価と政治家を……あ、いや。今のは忘れてください」


 東は何事もなかったかのようにレコーディングを再開する。底知れぬ闇を垣間見た不破は、彼の背を見て、こう呟いた。


「おお……、器が違う……すごいおとこだ」


◇◇◇


「ごちそうさーん、美味かったっす」


 ビリーは居酒屋を出た。黒いスーツの店員たちが声を揃えて見送りの挨拶をする。


「道中お気をつけて!」

「道中お気をつけて!」

「道中お気をつけて!」


 以前もテリーたちを連れてきた新鮮一家 二代目酒処「仁義」。値段も手ごろで味もよく、レコーディングの疲れをいやしたいビリーには最適の居酒屋だった。


 空気が一変する。


 店員たちは懐からチャッカマンを取り出し、大声で威嚇する。


「てめえ誰だコラ!」

「モーギュークラブの鉄砲玉かワレェ!」

「焼肉屋ごときが海鮮にケンカ売っとんちゃうぞコラ!」


 ビリーが辺りを見渡すと、殺気を帯びた男が立っていた。


「あー、すんません。コイツ、俺の友人っす」


 ビリーは店員をなだめ、その男を人目のつかぬ路地へ連れ込んだ。黒いフードで顔は見えないが、それが誰なのか考える必要もなかった。男はビリーに用件を話す。


「南斗さんから……伝言だ……」


「おいおい、久々だってのにせっかちだな。ルート以外は弾けるようになったかい?」


「大きなお世話だ……それよりギースに伝えろ……」


「なんでギースだよ。俺には何もねえのかよ」


「ギターの録音に行き詰ったら……ここに行けと……」


 男は名刺を投げ捨てる。ビリーは咄嗟にそれを拾うと、男の姿は消えていた。


「やれやれ、名刺が好きな連中だねえ。さて、いいつけ通りギースに教えてやらねえとな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。