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1st 四人はデッドリーレイブ


 スタジオにSMK音楽事務所の西山(兄)が顔を出した。そこには練習中の「Deadly Rave」メンバーたち、そして妹のユリがいた。西山(兄)は彼らの演奏に耳を傾ける。


「おー。いい音出すじゃないの」


 練習が一段落したところで、差し入れのジュースを口にしたギースが、西山(兄)に相談を持ちかけた。


「あの……西山さん、聞きたいことがあって……」


「わかってるよギースくん。何が聞きたいかくらいお見通しさ」


「さすがですね」


「ああ、動画のサブスク探しだろ? そりゃDMM一択さ。なんせFANZAのアダルト動画が……」


「違います」


「えっ? マジックミラー号の話じゃないのか?」


「全く違います」


「ははん、エロ整体師シリーズだな。渋いところ突くねえ……」


「拳で突いていいですか」


「じゃあ何の話だってんだよ!」


「なんでキレ気味なんですか! 俺が聞きたいのはレコーディングの話です!」


 それなりに活動を続けてきた「Deadly Rave」は、多数のオリジナル曲を持っている。だが、正式な録音 (レコーディング) は経験が無く、そろそろ始めるべきだとメンバー間で話が上がっていた。


「いいじゃないか、すぐにでも始めちまいなよ」


 西山は躊躇なく答える。だがギースには思うところがあった。


「そうなんですけど……数曲録音して、CDを作らないかって話も出てて」


「作ればいいじゃないか」


「でも……配信で十分だと思うんです。CDとなると在庫もかさばるし、コストもかかるじゃないですか」


 西山は缶コーヒーを開け、少し口に含む。


「あのな、ギースくん。君は家族の写真を持ってるかい?」


「はい、あります」


「CDとはそれだ」


 驚くギース。西山(兄)は話を続ける。


「その一瞬をとらえた記録。永遠に残すため、記憶を物理的に留めるんだ」


「でも、そういうのはプロになってからで良いのでは?」


「逆だよギースくん。アマチュアだからこそ価値があるんだ。家族写真の意味を考えてごらん?」


 そうか。


 プロになって作る音源やCDは、商品として価値はあるだろう。だがアマチュアバンドの音源は、自分たちにとって他に代えがたい価値があるはずだ。


 額縁の家族写真を、デジタル画像があるからと言って処分したりしない。


「だから俺はいまだに『デラべっぴん』を捨てられずにいるんだ。この気持ちわかるだろ」


「わかりません」


「気に入った写真は切り取って額縁に入れてるんだ。今度見せてやるよ」


「断固拒否します」


 西山(兄)の自宅は魔族写真で溢れていそうだ。

 もちろん種族はサキュバスである。

 冷たい目で兄を見つめている妹のユリ。

 ギースはユリが一人暮らしをしている理由を察した。


◇◇◇


 自宅に帰ったギースは、ギターをスタンドに立てかけソファーに腰掛ける。そして西山(兄)から教わったレコーディングの手順を思い返した。


1、ドラムを録音する

2、ドラム音源を元にベースを録音する

3、ドラム+ベース音源を元にギターを録音する

4、全ての楽器を録音した音源を元にボーカルを録音する

5、それらの音源をミックスする


 まず前提として、録音を開始する時点で曲は完成されてないと話にならない。後から構成を変えることは、出来なくもないが、無理は生じる。とはいえ「Deadly Rave」のオリジナル曲は問題ないだろう。


 そして西山から受けたアドバイスを思い返す。


1、ドラムは基本的にスタジオでしか録音できない

2、ボーカルは基本的にスタジオでしか録音できない

3、ギターやベースは自宅でも録音できる

4、ミックスは知識が無ければスタジオに任せるべき

5、DMMはFANZAのエロ同人も購入できる


 最後のアドバイスは忘れるとして、ドラムやボーカルに関してはもっともだ。よほど恵まれた環境ならともかく、自宅で大きな音は出せない。それにドラマーでも、自宅にドラムセットを持っている人なんてそうそういない。せいぜいキックペダルかスネアくらいだ。


「まずはビリーにスタジオで叩いてもらい、それを録音した音源をもらってからが本番だな」


◇◇◇


 北野坂の石畳を歩く男。この坂を登れば教会がある。だが自分が望む表現の為なら、躊躇なくユダになるであろう彼には用の無い場所だ。


 黒い髪

 黒い瞳

 黒いスーツの、南斗 景樹。


「今日はスーツかい、似合ってるぜ、あんた」


 申し訳なさそうな表情のビリーが、南斗を待ち伏せしていた。少し距離を取って、ビリーは話しかける。


「悪ぃ、どうしてもあんたに教えて欲しいことがあるんだ」


「失せろ」


「今度レコーディングするんだ。当然俺はドラムを録音するんだけどさ」


「興味ない」


「わかってるよ。でも、どうしてもあんたに聞きたいんだ」


「……」


「俺は今持てる力を尽くして、最高のドラムを残したい。プロじゃねえからこそ、可能な限りの全力を尽くしたいんだ」


「……」


「音に貪欲なあんたなら、最高にいいドラムが録れるスタジオを知っているはずだ。頼む。俺に教えてくれ」


 頭を下げるビリー。

 しかし非情にも、南斗は無言で立ち去って行った。


 ビリーは頭を上げる。

 だがその視線は、地面に取り残されていた。


 黒い夜の足元に、小さな名刺。

 ビリーはそれを、拾い上げる。



 ──六甲ドラム工房 Studio AZATHOTH



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