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Act 6 特別編・韓国バンド物語 ─前編


 テリーは繁華街を歩いていた。彼は流れる人混みの真ん中で、地図を片手に困惑した表情の一団を見た。道に迷った観光客だろうか? 若い男性四人と女性が一人、何やら話し合っている。テリーは彼らに声をかけた。


「どうしたの? 道に迷っているならボクが案内するよ」


 ところが彼らは黙り込んだ。そして女性を含め、全員が長髪だ。もしかしてバンドマンなのかなとテリーは思ったが、無言でこちらを凝視する彼らに、むしろ自分が困惑していた。やがて女性が片言の日本語で話し始めた。


「私たち韓国からきました。わからない、駅、困ってます」


◇◇◇


 幾日か過ぎた。スタジオで練習を終えた「Deadly Rave」のメンバーたち。休憩所のベンチに腰掛けていたギースに、テリーが話しかけてきた。


「ねえねえ聞いてよ、こないだ道に迷ってた韓国の人たちがいてさ、駅まで案内したんだよ」


「へー、そうなんだ」


「そしたら、その人たちからお礼のメールが届いたよ」


「へー、よかったじゃん」


「で、話を聞いたら韓国でメタルバンドやってるんだって」


「ほう? それは面白い話だね」


「日本でもライブがやりたいって書いてたから、ボクはいつでもおいでよって言ったのさ」


「いい話じゃないか」


「そしたら、具体的に来日できる日程が送られてきて、これでスケジュール組んで欲しいって言ってきたんだ」


「おいおい、急に話が生々しくなってきたな」


「だからボクは、『わかった、あとはボクに任せて』って言っておいたよ」


「待て待て。勝手に話を進めるな」


 ギースはテリーの無責任な行動にあきれつつも、大した話じゃないと軽く考えていた。要は日本のバンドと変わらない。どこかのライブハウスに、出演したいのでブッキングして欲しいと話をするだけだ。


 とはいえジャンルやバンドのレベルに合わせ、出演バンドを揃える必要がある。まさかグラインド・コアに70年代風フォークバンドをブッキングするわけにもいかない。う……頭が……


「どうしたの、ギース?」


「……なんでもない。で、そのバンドは何て名前なの?」


「たしか『Soul Edges』だったかな?」


 聞いたことがないバンド名。ていうか、そもそも韓国のバンドを知らない。K-POPすら詳しくないギースに、韓国のバンド事情など知る由もない。彼は持っていたスマホでバンド名を検索した。すると公式サイトと動画、さらに日本語でバンドを紹介しているサイトも見つかった。


──韓国のグラミー賞とも呼ばれる Korean Music Awards のロック部門を何度も受賞した「Soul Edges」は、国を代表するメタルバンドとして国際的な評価を……


 ギースは硬直した。


 マズい。これはマズい。


 こんな連中にテリーは安請け合いをしてしまったのだ。


 一介のバンドマンである自分では、とてもじゃないが手に余る。


◇◇◇


「はい、もしもし、SMK音楽事務所企画制作部の西山 (兄) です。……ってギースくんかよ。なんでわざわざ会社に電話を?」


 ギースは事情を説明した。


「あー、そりゃ君の手には負えんわな。まあ任しとけって言いたいとこだが、今社長にめっちゃ目をつけられててな、動けねえんだ」


「そうですか……」


「あー、でも俺個人でやるよ。会社としちゃ動けねえが、一回きりのライブなら俺にだって何とかなるさ」


「ありがとうございます!」


 西山 (兄) は電話を切った。そして大きなため息をついた。


 彼がこれからやる仕事は


 1.ライブハウスを準備する

 2.チケットを売る


 なのだが、通常のバンドとはわけが違う


 まず、ライブハウスには一定以上の規模と設備が必要になる。それは集客を見込めるからではなく、海外で知名度のあるプロのバンドを迎えるのに、それなりのクオリティが要求されるからだ。ここで無様を晒しては、バンドや、その背後にある国外の業界人に悪印象を持たれてしまう。


 そして一番難しいのが、チケットを売ることだ。日本で知名度のないバンドが、ライブハウスを客で埋めるなんて不可能だ。国際的なプロであってもだ。かといって空っぽの会場でライブなんてさせたら、かわいそうだと思う以前に、西山 (兄) が業界から干されてしまう。


 つまり、それなりの大きな会場を用意して、それを埋めるだけの人集めが必要となるわけだ。


 ライブハウスは「ギガ・アミューズメント」を貸し切り (ホールレンタル) で押さえた。西山 (兄) のポケットマネー30万が飛んで行ったが、プロ相手にライブハウス任せのブッキングというわけにはいかないので仕方がない。


 最難関のミッションである集客は、知名度と実力のあるバンドに共演を依頼した。相手はプロなので、参加するバンドもそれなりのレベルが必須である。演奏力が低いバンドでは、バカにされたと思われかねない。


 「VIRTUA FICTION」

 「N.G.K.重金属楽団 R.C」

 「Deadly Rave」

 そして「Soul Edges」


 以上四バンドによる共演が決定した。


 ……なお西山は日本側の三バンドに、頭を下げてお願いした。


「頼む! チケットは売り切ってくれ! 余ったら俺に回してくれ、無料で業界人に配るから」


 なぜ業界人に配るのか。それは彼らが業界での関係性を維持するため、高確率で会場に来てくれるからである。



 次回は後編、衝撃の韓国バンド事情が明かされる……



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