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Act 2 サウス・サイド物語


 重音山 金属寺。


 人里離れた山奥にあるこの寺は、音楽関係者の間で広く名が知られている。テリーはすでに何度も訪れ、今日は滝に打たれていた。


「テリーくん、何か掴めたかね」


 寺の和尚が声をかける。


「……ばがぼげぶばぼびべばぶ」


「テリーくん、滝を出てからしゃべりなさい」


「……ぶはー、死ぬかと思いました」


「大丈夫じゃ、境内には墓地もあるしの」


「……そんなアメニティの一環みたいに言わないでください」


「で、何か分かったかの?」


「……はい、昼間に全裸で徘徊すると、すぐに捕まることが分かりました」


「それ、滝に打たれんとわからん?」


「……でも夜だと刺激が足りなくて」


 そういう問題じゃねえよバカヤロウ。だいたい刺激って何だよ。和尚はそんなことを思いつつ、同行していた男をテリーに紹介した。


「アメリカから来た客人じゃ。彼はテリーくんのことを知っているそうじゃぞ」


 革のパンツにウェスタンブーツ、胸元が開いたカウボーイシャツに、側面が大きく反ったテンガロンハット。南北戦争の結果をいまだ受け入れて無さそうな白人男性が、テリーに声をかけた。


「よう、俺はパンヘッド。『Motul Kompact』のギタリストだ。お前がテリーか、よろしくな」


「……はじめまして、パンヘッド。ボクの名前はテリーです。ボクは日本に住んでいます。ボクはあなたを歓迎します。あなたの調子はどうですか?」


「何度も来日しているから、日本語は普通に話せるぜ」


「……よかこっじゃ。おいも普通にしゃべってよかと?」


「話せるのは日本語だけだ」


 テリーとパンヘッドは滝を離れ、境内を歩きながら二人で話した。俗世から離れ、自然に包まれた緑の光景に、パンヘッドは目を細める。


「美しい。俺は多くの罪を犯してきた男だ。こういう場所は心が洗われる」


「……ボクも同じだよ」


「やっぱりそうか、噂どおりだな。おっと、罪の内容は聞かないぜ? 俺だって口にしたくないからな」


「……ボクも恥ずかしくて言いたくないなあ」


「俺は物心ついた頃から、銃が手放せなかった。それだけじゃねえ、ナイフも持ち歩いていた」


「……ボクも自分の銃を一丁持ち歩いてるよ。ていうか体の一部じゃん」


「思ってたよりワルだな。だが俺は銃を手放しギターを握ることにした。ナイフもマイクに持ち替えたさ」


 キャァ──!


 遠くから聞こえる女性の叫び声? そうではない。これは鹿の鳴く声で、山で初めて耳にすると誰もが驚く。この寺で修行をしているテリーは聞きなれているが、パンヘッドは眉をしかめ呟いた。


「俺はもう悲鳴は聞きたくねえ」


◇◇◇


 パンヘッドは金属寺を出て重音山を下る。舗装された道に出ると、二台のバイクが彼を待ち受けていた。一台は和製ハーレーの陸王、もう一台に乗っていた男が陸王のタンデムシートに乗り移った。


「ヘイ、パンヘッド。お前のリムジンがお待ちかねだ」


 パンヘッドは空いた一台に跨る。既に温まっていたエンジンは一発でキックスタート、1960年代に製造された米国製の鉄馬が目を覚ます。「N.G.K.重金属楽団 R.C」に預けていた、彼の愛車である古いハーレーダビッドソンだ。


 単純に三拍子と言い切れない絶妙なニュアンスを持つエンジンの鼓動は、精密で正確な国産エンジンには無い独特のリズムを轟かす。安全な現行車と不安定な旧車、どちらが正しいかは用途によるが、どちらが好きかは自分が決める。パンヘッドは陸王に跨る二人に話しかけた。


「最高にクールだ。こんな状態を維持してくれて感謝する」


「いいってこった。お前もブラザーなんだし遠慮するな。それよりテリーに会ったんだろ」


「ああ、思った以上にワルだったぜ」


「……そうか?」


 少々納得いかない「N.G.K.重金属楽団 R.C」のボーカルも、アクセルを回せば全てを忘れてしまう。


◇◇◇


「明日のライブ、初の海外バンドとのブッキングや。楽しみやな」


 スタジオ練習を終え、休憩中の「Deadly Rave」メンバーに話しかける西山ユリはご機嫌だ。普段は口にしないような、自分の願望も語り出す。


「物販も出来たらよかったんやけどなー。うち売り子やるわー」


 浮かれるユリにビリーが茶々を入れる。


「……おいおい、金儲けに走ろうってか?」


「どあほう! バンド運営もタダちゃうねんど! それにファンならグッズの一つや二つ欲しいもんなんや」


「……そういうもんかね。まあ、そういうのは任せるよ」


 ジュースを飲み干したギースも話に加わった。


「それなら俺は、音源を手売りで販売したいね」


 一瞬、メンバーの全員が口を閉ざした。実は誰もが、そろそろレコーディングするべきだと考えていたからだ。とはいえテリーの特異性をどう記録 (レコード) するか。それをどのように発信すべきか。悩ましい問題だった。


 空気を変えるべく、ユリがテリーに話を振る。


「なあ、あんたはどう思う?」


「ボクは二度と全裸で街を歩きません。バンドに迷惑をかけません」


「いや、どう思うか聞いとんねん」


「ボクは二度と全裸で街を歩きません。バンドに迷惑をかけません」


「あー、スタジオ入る前に説教しすぎたかな」


「ボクは二度と全裸で街を歩きません。バンドに迷惑をかけません」


「悪かったって、ちょっと言い過ぎた」


「ボクは二度と全裸で街を歩きません。バンドに迷惑をかけません」


「何でそれしか言わへんねん。他にもいろいろ言うたやろ」


「ユリさんは若くて美人です。ユリさんは若くて美人です。ユリさんは……」


 もはや壊れた再生器のようになってしまったテリー。ジョーはそれを見て、なぜか帰りにスーパーへ寄りたくなっていた。何かに呼び込まれている気分だ。


 ♪ぽぽーぽ、ぽぽぽ

  ぽぽーぽ、ぽぽぽ


  ぽぽぽぽー

  ぽぽーぽぽー


 明日は「Motul Kompact」とのライブだ。テリーは何を歌うのか。そしてパンヘッドの正体は……


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