↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/50

04 CAN-CAN-CAN


「今日のライブ、びっくりしちゃったねギース」


「……まさか観客に逃亡犯がいたとはね」


「おもわず歌っちゃったけど危なかったね」


「……連続露出狂か、お前も気を付けろよテリー」


「大丈夫だよ、そんなのボクが捕まえてやる」


「……いや、逆だ」


 ライブが終わり、ライブハウスを出たギースとテリーは、同じ駅に向かうため、繁華街を歩いていた。人通りの多い道を避け、近道の裏通りに入る。今日はライブ中にテリーが観客に紛れた犯罪者の存在を歌い、自暴自棄になった男がフロアで全裸となる騒ぎがあった。


 男は警察の取り調べに対し「ボーカルは仲間だと思っていた。反省はしていない」と供述しているという。


 裏通りでも特に人気の少ない場所を二人が通りかかったとき、数人の男たちが取り囲んだ。後ろから羽交い絞めにされたギースが叫ぶ。


「何をする、離せよ!」


「何もしねえよ、お前には、な」


 彼らは慣れた動きで、テリーの逃げ道をふさぐ。そして腕を掴み、意外な事を口にした。


「テリーくんだよね、ちょっと話が聞きたいんだ」


「ボクは……ギースと帰りたい……」


「まあそう言わず、なんでも不思議な詩を歌うんだってね」


 細い路地の向こうに、ライトバンが停車しスライドドアが開く。テリーは咄嗟に男の腕を噛んだ。


「痛てッ! このガキィ!」


 ガツン!


 ……バタ。


◇◇◇


 洒落たロックバー「La Mort」だからといって、誰もがカクテルを注文するとは限らない。実際、南斗景樹が飲んでいるのは JACK DANIEL'S OLD NO.7 のトワイスアップ。常温水でウィスキーの香りを堪能、無理はしないが、加減もしない。それが南斗の楽しみ方だ。


「景樹さん……これを……」


 少し離れた席から黒いフードの男が、カウンターでスマホを滑らせる。南斗景樹はそれを受け取り、見向きもせず懐に入れた。


「指示通り……やりましたけど……いいんですか?」


 南斗は答えない。口にするのは必要なことと、樽の香りがするウィスキーだけ。


「でもどうして……」


 愚か者には沈黙の意味が理解できない。南斗はその口を封じるために、女にはキスを、男には真実を。


「この業界にいれば、色々耳にすることもある」


 店内に流れる曲はANTHEMの「VENOM STRIKE」。南斗景樹は最後まで聞くことなく、男装の麗人である店員に金を払い店を出た。


◇◇◇


「ふぅー危ねえ、間に合って良かったぜ」


 ギースを羽交い絞めにしていた男は倒れ落ちた。新たにギースの後ろに立つのはビリー、その手には二本のドラムスティックが握られている。


「やれやれ、ドラムも人間も、叩くときゃ容赦出来ねえぜ」


 男たちはビリーを囲む。だが本当の目的は倒れた仲間の確保だ。テリー誘拐の失敗は許されても、それを依頼した存在を知られることは絶対に許されない。


「おいおい、自己紹介がまだだぜ、お前らのな」


 男たちが同時にビリーへ飛び掛かる。ビリーは右の男を、左の男へぶつけるようにスティックで突く。脇を突かれた右の男は痛みで飛び上がり、左の男と共に体制を崩す。重心を崩した二人の腕をビリーが掴み、同時に投げ飛ばした。


 二本の棒を巧みに操るフィリピンの武術、カリ (Kali) だ。


「驚いたか? お袋から仕込まれた護身術さ。辻本の爺さんから教わったモーラー奏法も取り入れてるけどな」


 ギースを羽交い絞めにしていた男、ビリーに飛び掛かった男、彼らを残したまま、路地の向こうで停車していた車のスライドドアが閉まり、タイヤを鳴らして走り去る。依頼主の情報が漏れることは覚悟の上で、しらを切る方針に転換したらしい。


「ビリー、ごわがっだよう」


 テリーが泣きながら抱きついた。


「あー、よしよし、わかったわかった。ギースも無事か?」


「ああ、それよりあいつらは……」


「そうだな、まずはメンバー紹介をしてもらおうか」


 ビリーは動かなくなった男たちのポケットから財布を抜き取り、中の名刺を探した。それを見たギースも男のポケットをまさぐり、スマホを取り出す。それらの情報を集め、彼らと自分たちに共通するものをさぐるのだ。


 そしてそれは、意外と簡単に見つかった。ケースに入った大量の同じ名刺、彼らの営業用だ。ビリーがそれを読み上げる。


「えっと『R.O.ISHTAR』?」


「最近名を上げている音楽事務所だよ」


「ギース知ってんの?」


「一応ね。『Iron Fist』と『魂剣霊化』が契約してたはずだよ」


「あー、あいつらの事務所か」


「そこそこ売れてるよね、でもどうしてこんな事を……」


 ギースは頭をひねる。「Deadly Rave」と交渉したいなら、穏便に話せばいいだけだ。テリーをさらったところで、印象悪くして逆効果だろう。つまり目的はそれじゃない。深く広く考察すると、さらに大きな疑問に気がついた。


「いや、そもそも何でビリーがここにいるわけ?」


「まー、そうなるわな」


「まさか事前に知ってたの?」


「んなわけあるか!」


 ビリーはスマホを取り出しギースに見せた。


「こういう匿名のSMSが届いたんだよ」



────テリーが襲われる、今すぐ助けに行け



 誰が送ったメッセージなのか、そして「R.O.ISHTAR」の目的は……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。