EPISODEⅤ – SABBATH BLACK SABBATH
「昨日、変な夢を見たんだ」
ギースがスタジオで妙なことを口にした。意外にもビリーが同意する。
「俺もだよ。昨日たらふく食ったせいで良く寝たんだけど、海から変な奴らが出てくる夢を見ちまってな」
「うちもや、内容も一緒や」
マネージャーのユリも同じ夢を見たらしい。実はギースの夢も、そのような内容だ。当然のようにスタジオ内の視線がテリーに注がれる。だが、これまた意外なことに、すっとぼけた答えが返ってきた。
「え? ボク? 夢なんて見ないよ?」
覚えていないとか、見なかったというならまだわかる。だが「夢なんて見ない」とは、どういうことだ。とはいえ、今はテリーよりも、三人が同じ夢を見ている事実の方が不気味だった。
「……これ、完全にオカルトやな」
ユリの呟きを聞いたテリーが笑う。
「オカルトなんてあるわけないよ、アハハハハうぎぃ!」
テリーが腹を押さえて倒れ込んだ。一瞬怪奇現象かと思われたが、実は腹を立てたユリが裏拳をボディに叩き込んだのだ。存在がオカルトそのもののテリーに笑われたことが、許せなかったらしい。
「ギースくん、これ君のかい?」
ジョーが床で何かを拾った。楽譜だ。
「いえ、俺じゃないですね」
「……だろうね」
「え、どういうことですか」
「……この楽譜さ、四線しかないんだ」
「そんな楽譜ってあるんですか」
音楽講師でもあるジョーは、眼鏡をかけ譜面を凝視する。
「……九世紀頃の教会音楽で使われてたかな。しかし、この譜面は……」
どうしてこんなものが、スタジオに?
◇◇◇
スタジオから帰る途中で、ギースのスマホが鳴った。カプリコーンの辻本社長からだ。
「もしもし、ギースです」
「わしじゃ、辻本じゃ、次のバンドじゃが……という……」
「もしもし?」
「……三人組じゃが……という奴らでの、とにかく……拒む……」
「あの、電波が、もしもし?」
「……本……数十……………は………」ツー、ツー、ツー。
電話は切れた。電波が悪いらしく聞き取れなかった。いや、誤魔化すのはよそう。明らかに、おかしい。今現在も、どこかから視線を感じている。それも四方から。
まずは深呼吸。
息を吸って、吐く。
よし、冷静に考えよう。
今の電話は次のライブの話だと思う。でも、今かけ直しても繋がりが悪い気がする。となればライブハウスへ直接聞きに行こう。
ギースは「ギガ・アミューズメント」へ向かう。
すれ違う人々が、こちらを見て笑う。
振り返ったが、何も無かったようにそっぽを向く。
連続する不可解な現象。これが自分一人だけなら、気のせいだと思い込めただろう。しかしユリやビリーまで異変を感じている。
何だというんだ……
釈然としない気持ちのままで、ギガに着いたギースは、支配人の鈴木に面会を求めた。彼は快く受け、ギースを支配人室へ呼んだ。心なしか、態度によそよそしさを感じる。
「次のライブの日程だね、この書類に詳細が書いてあるよ。メールでも送っておくから」
「ありがとうございます」
「……ブッキングするバンドのこと、聞きたくないかね?」
「せっかくですから、ぜひ」
「三人組のハードロックバンド、ということになっているが、彼らはバンドじゃないんだよ」
「どういうことですか」
「彼らは年に一度しかライブをしない、いや、全くやらなかった年もある」
「へぇ……」
ポツ……ポツ……
ポタ……ポタ……ポトポトポト……
小雨が降ってきた。
支配人室の窓が濡れていく。
「彼らがやっていることは、音楽じゃない」
「じゃあ、なんですか」
「……具体的な不都合、体感する事象だよ」
わからない。
「……ふふ、ギースくん、今日はもう帰りなさい」
わからない。
「……そうそう、一応のバンド名はね」
わからない。
「……『The Octoday』 (創世の八曜日)」
わからない。
◇◇◇
「ギガ・アミューズメント」の外に出た。早く帰りたくてしかたがない。前を見るのが怖くて、下を向いて歩く。数歩進んで、足を止めた。
乾いた、地面。
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
だってほら……さっき……
支配人室の……
窓が……
窓が……
……あんなに濡れていたじゃないか!
◇◇◇
「……楽しいね」
「……もっとやりたいね」
「……揃わないとね」
「……じゃあ、みんなおつかれさま」
「おつかれ」
「おつかれ」
「おつかれ」
「おつかれ」
「おつかれ」
…………
………
……
…




