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EPISODEⅢ – THE NUMBER OF THE GRAND KAGEZ


 ライブハウスのBGMが、SEの曲に切り替わる。


 「N.G.K.重金属楽団 R.C」が選んだのは OUTRAGE の「My Final Day」。引き連れてきた連中の容姿やバイクの形状から、Mötley Crüe の「Wild Side」か「Girls, Girls, Girls」あたりが選曲されるとギースは予想していたが、どうやら国産に強いこだわりがあるらしい。


 ヘヴィなナンバーに煽られステージが待ち切れないフロアに、黒い雲 (Black clouds) が立ち込める……


 照明。

 爆音。


 そして仕込まれていたギミック、ステージ両脇から二台のバイク「陸王」が入ってきた。まるで Judas Priest だ。一曲目は「The Hellion」か? 重厚、轟音、間違いなく重金属音楽 (HEAVY METAL) である。バンド名の「N.G.K.重金属楽団 R.C」に偽りなし、だがこの曲は……



  ────────────────

  恋人を取られて (Somebody Stole My Gal)

  作曲:Leo Wood

  編曲:Pee Wee Hunt

 (メロディは誰もが聞いたことあるはずです)

  ────────────────



 これは……。原曲 (正確にはアレンジ後だが) のトロンボーンによる主旋律は、歪んだリードギターがワウペダルを駆使して再現している。見事。面白い。この時点で見る価値があったと満足できるアイデアと工夫。


 ヘヴィなアレンジのインストと共に、左右のバイクから降りてきたボーカルが二人、マイクの前に立つ。 まるで ZZ Top のような長い髭にサングラスで、見分けがつかないほどそっくりだ。ツインボーカルか?



 ♪フンワカパッパ、フンワ、フンワ、フンワカフンワカ……



「いやどうもー『N.G.K.重金属楽団 R.C』ですー」


「どうもー、バンド名だけでも覚えていってねー」


「顔はいっしょやから覚えんでええよー」


「いやそれにしても長いバンド名やね、N.G.K. ってなんの略なん?」


「なんばグランド花月やがなー」


「バイクのプラグメーカーちゃうんかい!」



 ウケる観客。

 彼らの定番ギャグらしい。



「君ね、最近どんなバンド聞いてる?」


「最近はな、アイアンメイデンっちゅうの聞いてるねん」


「あー、知っとる、アルバムジャケットにゾンビみたいな絵が描いてるバンドやろ」


「そうや、エディっちゅう名前の正体不明のバケモンや」


「怖いわー」


「まあいかにもヘヴィーメタルって感じやな」


「あれ見て思い出したけど、最近君んとこの嫁はん元気か?」


「おい待てや、どういうこっちゃ」



 ドッと笑う観客。昭和の古典漫才をベースとした話芸が続く。彼らの世界観に引き込まれ、気付けば持ち時間が終わろうとしている。実は彼らのライブは、最後に一曲演奏するのが定番なのだが、その日は話芸だけで終わらせた。



「……ほな、君はそのギターがええ音出してたと思ったわけや」


「せやねん、ほんま聞きほれたで」


「さよか、ボクはアンプから音が出てたと思ってたわ」


「そりゃそうだけど! もうええわ! ありがとうございましたー」



 最後にダメ押しの演奏。曲はオープニングと同じ「恋人を取られて (Somebody Stole My Gal)」つまり吉本新喜劇の開幕で流れる曲だ。フロアは割れんばかりの大拍手。ギースは考え込む。


 面白かった。それは間違いない。


 誰もが予想しなかった。曲も、漫才で終わらせる構成も。「MCより演奏しろ!」と客からクレームが出ないほど話芸が凄かった。だが、やろうと思えばそれなりのオリジナル曲も演奏出来たはずだ。なぜだ?なぜ漫才だけで終わらせた? 何かが引っかかる……


 しかし考えている時間はない。間もなく「Deadly Rave」のライブが始まる……


◇◇◇


「ヘイ、ブロウ、奴ら俺たちの仕掛けた罠に気付くと思うか?」


「思わねえな、せいぜい楽しむがいいさ」


 実は栃木県出身だが、ライブではネイティブな関西弁を使いこなす二人は、フロアで「Deadly Rave」の出番を待つ。


 ライブハウスのBGMが、SEの曲に切り替わる。LOST HORIZON の「Sworn in the Metal Wind」。ヘヴィメタルボーカリストの頂点とも言える Daniel Heiman の神々しいハイトーンで始まるこの曲は、テリーの技量を印象付けるために選曲された。


 照明が落ちる。ライブが始まる。



「Hosannaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!」


 演奏が始まる前からテリーが絶叫。満足しつつも楽曲に飢えていたフロアを一瞬でつかみ取った。いける。ギースは Killer のギターを掲げ、奏でるスケールはお馴染みド定番のハーモニックマイナー。鉄板、大鉄板、焼きそばの屋台にあっても使えそうなほどの特大鉄板!


 ♪~


 でもみんな好きなんだ。ハーモニックマイナーが好きなんだ。ヨーロッパ風の哀愁が漂うんだ。クラシックの香りがするんだ。そんな旋律でスピードメタルを演奏されちゃ聞いてる方はたまったもんじゃない。ビリーがツインペダルを連打。ジョーは指弾き、3フィンガーだ。


ドコドコドコドコドコドコドコ……


 まさにVツインエンジンを連想させるバスドラの鼓動。だめだ、こんなことをやられちゃ、もう……



  ────────────────

  双鼓神伝 -二気筒- (Hosanna Fly Free)

  作詞:テリー

  作曲:ギース

 (メロディは読者が自由に思い浮かべてください)

  ────────────────


 ♪あえて曲はせず

  場を盛り上げて

  二つのバンドが

  一つのライブに


   裏方に徹っして

   若手に譲るのさ

   気付く時が来て

   感謝すればいい


  ホサナ (Hosanna)

  どうか神よ

  不細工で不器用な男たちを救って


   ホサナ (Hosanna)

   見返り求めず

   武骨でぶっきらぼうな美しき彼らを



 ギースの頬を、涙が流れ落ちた。そっか、そうだったんだ。こんな優しい人たちがいたんだ。こんな温かいバンドがあるんだ。俺は、俺たちは、「Deadly Rave」は彼らと比べると、無邪気にはしゃぐ幼児に過ぎなかったんだ。


 メロディックなスピードメタルの甘い旋律が、今のギースにはおとぎ話のように感じられた。その絵本を与えてくれた髭面の大人たちは、フロアからステージの「Deadly Rave」を優しく見守っていた。


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