EPISODEⅡ – THUNDER IN THE WEST
ハーレーダビッドソン。
アメリカを代表するバイクであり、数値としての性能より、造形美やエンジンの鼓動で存在感を示す、アメリカンと呼ばれるジャンルの象徴である。
しかし近年、極東の日本においてはブランド化が過剰に進み、見栄を張りたい金持ち用のアイテムとなっている感が否めない。その良否についてはともかく、異を唱える者は確かに存在する。
「ヘイ、ブロウ、プレジデント辻本からオファーだぜ」
「そいつはヘヴィだ、キックアス (Kick ass)」
あえてハーレーを排し、和製アメリカンで揃えたバイクチーム。彼らのバイクは全て国産である。スティード、ビラーゴ、Ninja エンジンのエリミネーター900、V45マグナ、VMAX1200……彼らにとってドラッグスターは新参だ。
キュカカ。ドルンドルンドルンドルン……
バイクは明るいガレージを飛び出し、夜のハイウェイへ繰り出していく。羽織られたライダースジャケットは、背中に「N.G.K.重金属楽団 R.C」と書かれている。棺桶を模したギターケースを後部座席にチェーンで巻きつけている者もいる。
その集団の先頭を走る、飛び抜けて古い二台のバイク「陸王」。
国産のハーレー。三共内燃機がライセンス生産した車両で、旧帝国陸軍も戦時中に採用している。なお製造元は現在、市販薬を製造・販売している。日本の風邪にはルルが効くらしい。
「ヘイ、ブロウ、相手は容赦なく叩き潰していいらしいぜ」
「ハハ、そいつはクールだ、遠慮と検問は苦手だからな」
夜明け前には辿り着くだろう。目的地のライブハウス「ギガ・アミューズメント」へ。
◇◇◇
「いやー、間に合って良かったよギース」
留置所から解放されたばかりのテリーが、迎えに来たギースと並んで歩いている。
「ある意味手遅れだけどね。それよりテリー、喉の調子はどうだい?」
「ばっちりさ」
制御不能な詩の内容はともかく、生体楽器としての喉が万全なら「Deadly Rave」の演奏はプロも凌駕するレベルに達している。恐れることは何もない、そう思っていた。この時までは。
ライブハウスに近づくと、ポスターが貼られている。「ギガ・アミューズメント」の広告で、プロレス興行の告知がされていた。ライブハウスでのプロレスは、決して珍しいことではない。
「ねえギース、アマチュアのレスリングとプロレスって、どうしてあんなに違うのかな?」
「さあね、興味ないよ」
「アマレスでも5秒までなら、反則が許されるのかな」
「そんなわけないよ」
ライブハウスにたどり着いた。しかし周辺は異様な空気が漂っている。まず目に入ったのは、立ち並ぶ多数のバイク。そして黒づくめの集団。さっきポスターで見た悪役レスラーのような連中が、入り口付近でたむろしている。彼らはギースたちを見て囃し立てた。
「こいつギターケース持ってるぜ、『Deadly Rave』のメンバーじゃねえか?」
「たぶんそうだぜ、ハハハ、お手並み拝見だ」
「俺たちのブロウがライブ始めると、ビビって逃げるんじゃねえか?」
「かもな、ハハハハハ」
怖い。ギースはこういう連中に慣れていない。それでも震える足を止めず、中へ入る。支配人の鈴木が二人を出迎えた。
「やあやあ、待っていたよギースくん。辻本さんからの依頼で、今日は彼らとブッキングだよ」
「怖い人たちですね……」
「まあパッと見そう見えるよね、でもよく考えてごらん」
「何をですか」
「彼らは、君らより先に来てるんだよ」
……あ。
ギースは気付いた。一見柄の悪そうな彼らは、真面目なギースより先に会場入りし、ライブの準備を行っている。見落とすとこだった。辻本社長が見せようとしたのは、こういう所か。ギースは先入観で目がくらんでいた自分を恥じた。
だが彼はまだ知らない。こんなことは、序の口に過ぎないと……
テリーはなぜか外に出て、彼らのバイクを熱心に観察していた。自慢のバイクを見られて満更でもないのか、なぜか彼らもテリーと馴染んでいた。
「うわー、ピカピカだね、古そうだけど綺麗なバイクだなー」
「まあな」
「うわー、チェーンとブレーキもピカピカだね、一見綺麗でもこういうとこ錆び錆びで汚いと台無しだもんねー」
「お、おう……」
「あれー、タイヤの端っこもピカピカだねー、おヒゲみたいなのも残ってるねー」
「いやまあ、アメリカンだし……」
「おやー、ブレーキのホースがゴムのままだねー、膨張を考えてメッシュを避けたのかなー」
「あの……バイク屋さんですか?」
なぜかテリーにペコペコと頭を下げ始める外の連中はともかく、ギースはフロアに入りステージを見た。ガラの悪い連中を率いていたバンド「N.G.K.重金属楽団 R.C」は、リハーサルと音出しを行っている。一曲丸々演奏することはないが、それでもなかなかの腕があることがわかった。
思ったよりはやる、だが今の「Deadly Rave」程じゃない。
ステージ脇には……なるほど、あれで観客の度肝を抜こうってわけか。真似は出来ないが、派手な演出だ。まるでプロレスみたいだな、ギースはそう思った。
……さあ、ライブの始まりだ。
注釈:キックアス (Kick ass) とは言いつつ、陸王をのぞく「N.G.K.重金属楽団 R.C」メンバーのバイクにはキックペダルがない。




