第十話 ジャイアントロック THE AMBITION -伝説が始まる日
「とりあえず、事情を話してもらおか」
ライブハウスのフロアで、車いすの老人の前に集まった「Deadly Rave」のメンバーとマネージャーの西山ユリ。当て逃げ犯とはいえビリーの師であり、まして体が不自由な老人を手荒に扱うつもりはないが、それでもユリは、黙って見過ごせず説明を求めた。
「まずは謝らせてくれ。すまんかった。ワシが今日ここに来たのは謝罪のためじゃ」
「じゃあ、病院でビリーに会ったとき、なんでその場で謝らんかってん」
「何より先にドラムの極意を伝授したくなったのじゃ」
「そもそも、なんで爺さんも入院しとるんや」
「ビリーくんに車を当ててしまったあと、その先の電柱にぶつかったんじゃ」
「ていうか、なんでビリーに車をぶつけたんや」
「アクセルとブレーキを踏み間違えたんじゃ……」
車のペダル踏み間違い事故は、高齢者だから起きるというわけでもなく、事故件数では若年層のほうが多い。とはいえ重大事故は高齢者が多く、早期の免許返納は検討に値する。バンド関係者として話を聞いていたユリの兄、SMK音楽事務所の西山が、老人を見て息をのんだ。
「あ、あんた、いや、あなたは辻本さんじゃないですか?」
「そうじゃ、カプリコーンのCEO辻本じゃ」
「ど、どうしてこんなことに」
「岡本から話を聞いて、直接スカウトに出向いたんじゃが、ワシはドラムが好きでの、ビリーくんに声をかけたかったのじゃ。それがこんなことになって、本当に申し訳ない」
ユリは老人に歩み寄り、優しく告げた。
「ええんやで、誰にかて間違いはある。あんたはちゃんと謝りに来た、今回はそれに免じて許したるわ。もうすぐ迎えが来るよってに、気いつけて帰るんやで」
いや、それはビリーだけが言える台詞だろ。なんでお前に許しを与える権限があるんだよ。誰もがそう思ったが、空気を読んで口にしなかった。やがてユリが手配した、老人のお迎えがライブハウス「ギガ・アミューズメント」に近づいてきた。
♪ピーポーピーポー
「警察だ。当て逃げ犯を確保したと連絡を受けてきた」
……そこは容赦ないんだ。
◇◇◇
「いやー、いいライブだったよギースくん」
支配人の鈴木が声をかけてきた。ギースは疲れもあってか、素っ気なく答えた。
「ありがとうございます」
「こんなスリリングなバンド見たことないよ、何が起きるか分からない」
「そうですか」
「完成度は『VIRTUA FICTION』のほうが高いよ、君らなんてまだまだ足元にも及ばない。だけど期待値は『Deadly Rave』が上回ってた」
「……本音が出ましたね」
「私は理想を求め完成度を追求する。かつての君もそうだった。だが、私は君を力不足と判断した」
「……そうでしょうね」
「君は創造性を高め、感動を発見する道を進むべきだ。君の実直な人格は、奇跡と混沌を支配する」
「…………?」
ギースは支配人の鈴木を見た。初めて見るその表情から、大人と思えないほどの純粋な熱意を感じた。ギースは彼を、少し見誤っていたのかもしれない。鈴木は、ギースの肩を軽く叩いた。
「さあ行きなさい、仲間が待っているよ。そしてまた、ここに来なさい」
支配人は去っていった。ギースはその後ろ姿に、深々と頭を下げた。
◇◇◇
控室に戻った「Deadly Rave」のメンバーたちが機材を片づけていると、ド派手な衣装のホストじみたイケメンたちが数人入ってきた。「VIRTUA FICTION」のメンバーだ。余談だが男は痩せて眉毛を整えれば誰でもイケメン化する。
「あら、何用かしら? 私はジャーマネの西山・エステフローネ・ユリですわ、ホーホホホ!」
そんなミドルネーム無かっただろ、それに名前と苗字が逆だ、ギースはそう思ったが口にしなかった。「VIRTUA FICTION」のメンバーはそれぞれ自己紹介をする。キャラクターが濃すぎるが、それは所属するギガとの契約によるものだ。彼らはその設定を演じている。恥ずかしくない。大人だから……
「諸君、今宵は良き宴であった。邂逅に感謝を。私はボーカルの『新開地ラウ』」
「慟哭の歓喜を君に。ドラムの『板宿ジャッキー』」
「愛と冒涜をその手にしなさい。キーボードの『加古川サラ』よ」
「キーヒヒヒ! 俺は道化師。ベースの『豊岡ジェフリー』さまだ」
涙ぐましいキャラ作りに感心するユリだったが、ステージネーム (芸名) に添えられる地名に妙な偏りを感じた。しかも微妙にローカルだ。しかし最後の一人だけ、趣が違った。
「南斗 景樹 (みなと かげき) だ。ギガからは『ソニック』と名乗るよう言われている」
「……へえ。あんただけ素なんやな」
ユリの口調も素に戻る。
「ギガの茶番に興味はない」
「……あんた、何者や」
「別に。ただのギタリストだ」
南斗景樹は控室を出た。続けて「VIRTUA FICTION」の面々も退出する。ギースは南斗景樹の後ろ姿を凝視していた。
【筆者よりお知らせ】
ここで第一章は終わり、明日から第二章が始まりましてよ。なお本作は、章ごとに投稿時間を変更いたしますので、ご注意あれ。ではごきげんよう、ホーホホホ!




