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9/17

9 ナイフ

殺人が起きました。

どうなるんでしょうか。

 私たちは一階のオープンデッキへ出てみたが、とても寒かったので建物内に入った。ちょうど101号室と118号室のすぐ側の辺りにあるベンチに座って、捜査会議を始めることにした。夏子はずっとスマホを触っていた。どうやら、殺害された津元ひとしさんのSNSのアカウントを探しているようだった。

「お姉ちゃん、見つけた。津元さんのアカウント」

「夏子、すごいじゃない」

「おう、さすが夏子ちゃん。どれどれ」

 無料動画サイト、ユー・ストリームのアカウントだった。チャンネル名は、 " 野外キャンプ&料理チャンネル " 。動画を見てみると、鶏冠(とさか)ヘアの男性が出ていた。間違いなく殺害された津元さんだった。

「おう、本人だな」

「そうですね」

「ところで、係長、どう思われますか? 犯人について」

「おう、今のところ最も怪しいのは、谷中さんだな。わざわざ、壊れた食器をあの部屋に運びに行ったんだしな。ただ、部屋の鍵を全クルーが持ち出せたということは、そんな単純にはいかないかもな」

「そうですね。もしかしたら、複数犯、あるいは、全員がグルということも考えられますね」

「おう、えっと、ショーのパフォーマーが14名、それに船長と副船長を合わせてクルーが22名、全員で36名か」

 私たちが話し込んでいると、谷中さんが私たちのすぐ前にある階段を上がってきた。私たちが話している時になぜか度々現れる谷中さんを、私はこの時もまた怪しいと思ってしまった。彼女は私たちに軽く頭を下げた。私たちも軽く会釈した。船が突然の荒波で大きく揺れ、谷中さんが通路の方へ曲がって行こうとしたその時だった。

「危ない!」

 谷中さんはそう叫んで、私たちの方へ飛び込んできた。もっと正確に言えば、係長を庇うように覆いかぶさったのだ。その時、一瞬だが、何かがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。飛んできた方を見ると、何者かが個室通路の廊下を曲がったのが見えた。そしてすぐに私は気づいた、谷中さんの右腕から血が流れているのを。ナイフだった。ナイフが飛んできて谷中さんの右上腕に突き刺さっていたのだ。私は瞬時に通路の方へと走った、逃げた何者かを追うために。H型になっている廊下の曲がり角へ疾走している時に、 " バタン " という急いでドアを閉めた音が聞こえてきた。私は角を曲がって止まった。ちょうど真ん前には中央階段があり、その向こうには私と夏子の112号室だ。ドアが閉まったと考えられる部屋は、107、108、116、117号室のどれかの可能性が高かった。あるいは、112号室の両隣か。それも、仮にナイフを投げた人物が部屋に逃げ込んでドアを閉めたのならの話だ。はたまた、中央階段から、二階か地下一階へと逃げたとも考えられた。

 それ以上の追跡はできなかったので、みんなのいる所へ戻った。係長は夏子と一緒に、谷中さんの右腕の付け根をハンカチで縛って止血していた。

「係長、追えませんでした」

「ああ、そうか。しかし、こんな重いバカでかいナイフが飛んできたのか?」

 係長は床の上のナイフを見て言った。

「はい。私は何かが飛んでくるのを見ました」

「村田さん、私も見た。絶対このナイフですよ、飛んできたの。それで、あの通路の角に誰かいたんです」

「私は、誰かが光る物を投げたのを見ました。それで咄嗟に……」

「俺は何も見なかったけど、三人とも見たんなら、そうなんだろ」

「谷中さん、傷は?」

「はい、痛みますけど、大丈夫です」

「おう、香崎、警戒しとけ。また何か飛んでくるかもしれん。下手に動けないな」

 ちょうどそこへ、さっきの廊下の曲がり角から、誰かがこちらへ歩いて来るのが視界に入って、私は身構えた。それはツインテールの女性だった。よく見ると、アクロバティック・ダンスショーでナイフ投げをしていた酒木杏(さかき あん)さんだった。

「どうかされましたか? 谷中さん……え!? 怪我してる!?」

 酒木さんは私たちのただならぬ様子を見て、驚きながら駆け寄ってきた。

「あ、杏ちゃん、応援を呼んでくれる?」

 谷中さんに言われて、酒木さんはスマホを操作し始めた。すぐに数名のクルーが駆けつけてくれた。私たちは状況を説明し、谷中さんの手当てのためにスタッフルームまで移動した。


「ふう、こんな簡単な処置しかできないけど、ごめんね」

「いえ、ありがとうございます」

 船長の興梠(こうろ)さんも見守る中、野村さんによってなんとか谷中さんの応急処置が終わった。消毒、止血、包帯と慣れた手つきで、私は大したものだと思った。

「係長、ちょうどうまい具合に、谷中さんが身体を回転させて、ナイフの力が弱まったみたいですね。それでナイフが斜めに刺さって、傷が浅くて済んだようですね」

「谷中さん、ありがとう。俺を庇ってくれたみたいで。刑事なのに、大変申し訳ない」

 係長は谷中さんに頭を下げた。

「いいえ。ホントにたまたまなんです。たまたま誰かが何かを投げるのが見えて、それで……」

 谷中さんはまだ興奮状態が冷めてないようだった。


小春たちの前に頻繁に現れる谷中ことり。

どえ〜っ!

ナイフが飛んできた!?

そして現れたのが、ナイフ投げの達人、酒木杏。


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