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7 ディナータイム

続きます。

 19時からのディナータイムに合わせて、私と夏子は四階の食堂大ホールへ移動した。メニューを確認すると、狸うどん、鰹のタタキ、地鶏の唐揚げがメイン料理だった。それぞれの料理が運ばれてきた。係長は谷中さんのことを監視していた、かどうかはわからない、ニヤニヤして見ていたのかもしれなかった。ランチタイムの時と同じように、クルーたちが入口付近でバタついているようだった。そして、全ての料理がそろって食べようとした時、船内放送が入った。

「《お客様にご連絡申し上げます。西様、西武雄様、ディナータイムになりましたので、四階の食堂大ホールまでお越しください》」

「お姉ちゃん、まだ西さん、行方不明みたいね」

 夏子は西武雄さんが座るはずの席を見ながら言った。私は係長を見た。係長は私に向かって、 " これは事件だな " という意味を込めた目配せをした。


 ディナーを食べ終わった。西さんの席は空いたままだった。私たち三人は、食堂大ホールを出た所に集まった。すぐにチーフクルーの野村さんが通りかかった。

「あ、野村さん。西さんは、まだ見当たらないんでしょうか?」

「ディナータイム中に、船内を隈なく捜索したのですが、どこにも……これから西様の303号室へ行って、同室の方に尋ねてみようと思っています」

 まだ西さんは発見されていなかった。私たちは野村さんに同行させてもらうことになった。


 303号室は四人用の相部屋だ。部屋は112号室の倍くらいの広さで、二段ベッドが二つ置かれていた。西さん以外の三人はいずれも中年男性で、乗船してから荷物を置いたりしている時に、西さんと会っていた。彼らによると、西さんは、身長が175cmくらいで、年齢は35〜45歳くらい、紫のロングコート、茶色のマフラー、山高帽、口ひげと頬髭がある男性だということだった。乗船後、ほんの少しの間だけ西さんを見たが、それ以降は見てないということだった。彼らの中の一人が、動画を撮っていて、そこにチラッと西さんが写り込んでしまったというので、その動画を見せてもらった。そこには言われた通りの服装の人物が写っていた。


 私たちは野村さんと三階後方のデッキへと移動した。

「西様の容姿に関しては、乗船時に西様を確認したクルーも、同じようなことを言ってました」

「なるほど、紫のロングコート、山高帽、髭面か、印象に残る外見だよな」

 私も係長と同じことを思った。

「野村さん、西さんの本人確認は、何の身分証明書で行われたんでしょうか?」

「運転免許証です」

「免許証ですか。免許証番号を控えたりはしてませんか?」

「いえ、そこまではしておりません」

「そうですか」

 私はちょっと残念に感じた。

「野村さん、例えば、西さんは食事の時間にちょうど腹が痛くなって、トイレに籠もってたとか……」

「それはないと思います。クルーが男性用だけでなく女性用トイレも隈なく捜索しましたので」

「村田さん。やっぱり、西さんは海に落ちちゃったんじゃ……」

 夏子のこの一言で私たちは一気にベクトルが同じ方向に向いた。そして係長が唐突に強く出た。

「野村さん、船長と話せませんか?」

「いえ、無理です」

 係長が尋ねると、野村さんはきっぱり即答した。

「申し訳ありません。基本的に、船内での事件につきましては、船長に指揮権と決定権があります。船長のほうから乗客に接触することは可能ですが、それ以外では、外部の方から船長と話がしたいという希望に沿うことはできません」

「そうですか。それはもちろんわかります。しかし、人が海に転落している可能性があります。我々警察がもっと踏み込んだ捜索をしなければいけません」

「大変申し訳ありません。言いにくいのですが、我々観光会社は事を荒立てたくはありません。それに我々は、西様は船内のどこかにいらっしゃると思っております」

「船内を隈なく捜索して見つからないのに、船内にいる? なぜ、そう言えるんですか?」

「西様のルームキーが反応しているからです」

 野村さんがそう言うと私は思わず自分のルームキーをポケットから取り出した。

「ルームキーが反応、ですか?」

「ええ、そうです。ルームキーは部屋の出入りに必要なものですから、乗客の皆様は常に携帯されてるはずです。ルームキーは電波を発していて、もし乗客が海に転落した場合、電波が途絶える仕組みになっています。しかし、西様のルームキーはまだ電波を発信しています。船内にルームキーがあるということです」

「うむ、なるほど。GPSですか?」

「いえ、GPSではありません」

「……そうですか。その電波の受信で、ルームキーの場所は特定できないんでしょうか?」

「それは無理です。そこまで正確なものではありません。電波が微弱なので。半径30メートル以内の電波を受信できるものでして、ルームキーがどこにあるのかを特定することまではできません」

「……わかりました。野村さん、ありがとうございました。また何かあれば」

 野村さんは一礼して颯爽と去っていったが、役に立てずに残念そうな後ろ姿だった。

「おう、香崎、どう思う?」

「今の話を聞いた限りでは、ルームキーは船内にあるのだと思います。でも西さんがルームキーを所持しないで、海に落ちた可能性もありますし……」

「だよな。それか、船内のどこかに隠れていてまだ見つからないだけなのか……」

 まるで、豪華客船内での神隠し。私はすごく不気味な感じがして、鳥肌が立ってきていた。


ルームキーは船内にあるということ。

西武雄はどこにいるんでしょうかね。

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