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4 怪しいクルー

クルーに聞き込み。

 四階の中ホールと食堂大ホールの間にある中央階段を、数名のクルーたちが行ったり来たりしていた。ひとりのクルーが私たちの側を通ったので、私たちは声をかけた。

「すみません、お忙しいところ。T県警の村田といいます」

「T県警の香崎です。少しお話をよろしいでしょうか」

「はい……T県警の方ですか……」

 私たちの警察手帳を見て不思議そうにしていたそのクルーは、50歳代の女性で、名札には野村鷹絵(のむら たかえ)と表記されていた。

「放送で呼ばれてた西さん、まだ見つかりませんか?」

「ええ、まだ船内を探しているところです」

「少し話しづらいんですが……」

 私はそう前置きして、ネットの掲示板の書き込みについて、野村さんに伝えた。

「……というわけなんです。なので、西さんについて何かわかれば、すぐに我々に知らせてもらえないでしょうか?」

 私がそう言うと、野村さんは少し怪訝な表情で考えながら話した。

「……そうですね。今のところ、その豪華客船がこの船とは断定できませんし、ニシピッピという名前が西さんとは限りません。もし事件性があるようだとわかれば、その時はお二人にお知らせします。えっと、こちらの方は?」

 野村さんは、夏子を見て言った。

「あ、私は刑事じゃなくて――」

「妹です、私の」

「妹さん、ですか」

「はい、香崎夏子です」

「私、村田とこっちの香崎が刑事ですので、どちらかにお伝えいただければ。私は201号室です」

「私は112号室です」

「はい、承知しました。私、チーフクルーの野村鷹絵と申します。では」

 野村さんは背筋をぴんと伸ばしながら軍人のように食堂大ホール横の廊下を歩き去っていった。私は野村さんのことをカッコいい女性だなと思ってつい見とれてしまっていた。この時、食堂大ホールの中からこちらを見ている女性が視界に入ってきた。谷中さんだった。扉の陰から私たちのことを見ているようだった。意識的にこちらを見ていたのかどうかはわからなかったが、私が目を向けると、谷中さんは中断していた仕事を再開するように急にテキパキと動き出した。

「係長、谷中さん、なんか気になりますね」

「お姉ちゃん、あの女の人、ずっとこっちをちらちらと見てた」

「さすが夏子ちゃん。俺も気づいてた。俺らが野村さんに話しかけた時から作業を止めて、俺らの方を意味ありげに見てた」

「係長、彼女、何かありますね」

「おう、何かあるかもな。単に、俺に惚れてるだけかもな」

 係長はカッコつけて言った。私も夏子もスルーしてツッコミを入れなかった。

「おう、谷中さんに気を取られて、野村さんに言うのを忘れちまった」

「何をですか?」

「乗客名簿を確認しとかねえとな」

 私たちは野村さんを探しにとりあえず地下二階へと向かった。野村さんが後方の階段へ向かって歩いていったので、私たちも後方の階段を利用した。人間二人がぎりぎりすれ違うことができる狭い階段を下って、地下一階へ来た。これより下の階段には、一般の客は入れないと書かれた立て札が置かれていた。私たちがそれを無視して階段を降りていこうとした時ちょうど、下から野村さんが上がってきた。

「あ、何かありましたか?」

「あ、はい。乗客名簿を確認させてもらえませんか?」

「それでしたら、スタッフルームまでどうぞ」

 野村さんは私たちを下の階へ案内しようとした。その時、何か気配を感じて、私は後ろを振り返った。谷中さんがいたのだ。食器を乗せたお盆を持って、足音ひとつ立てずにいつの間にか私たちの背後に来ていたようだった。これには野村さんも少し驚いていた。

「あら、谷中さん、グラスとかはダムウェーターで運べばいいのに」

「あ、この食器類はヒビが入ってるみたいなので、直接調理場へ運びます。お客様、失礼します」

「あら、そう。気をつけてね」

 野村さんは不思議そうに谷中さんに声をかけた。谷中さんは私たちのことを意識しながら早足で横を通っていった。

「野村さん、ダムウェーターって何ですか?」

 私は尋ねた。

「料理専用の小さな業務用エレベーターです」

「そんなのがあるんですね」

 私たちはクルールームへ案内され、乗客名簿を見せてもらった。西という名前は一人だけ記載されていた。303号室に、 " 西武雄(にし たけお) " という名前が。

 私たちは礼を言って、クルールームを後にした。


 考え事をしながらぶらぶらと、私たちは一階のオープンデッキに来ていた。

「係長、谷中さん、やはり気になりますね」

「おう、だよな。料理用のエレベーターを使わなかったのは、俺らの後をつけるためかもな」

 私と係長は谷中さんに対して疑念を持ち始めていた。

「夏子、身を乗り出したら危ないわよ」

 夏子は鉄柵の上から海を覗き込んでいた。

「大丈夫よ、子どもじゃないんだし」

「おう、それにしても、瀬戸内海は荒れてるよな。落ちたら、助からねえな、マジで」

 係長も鉄柵から海を覗きながら言った。私は、西武雄さんがもしかしたらすでに船から転落して海に落ちたのではないかということが頭をよぎり、暗澹(あんたん)とした気持ちになった。


谷中ことり、なんか怪しい?

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