3 ランチタイム
村田係長の登場でテンションが下がった香崎と夏子。
今回は京子に代わって夏子ですね。
香崎と夏子と村田係長の三人組。
まさかの係長との遭遇に、私も夏子もテンションが下がっていた。でも係長は少しルンルン気分な感じに見えた。
「村田さん、ヘコんでるけど、嬉しそうにも見えます。何かいいことあったんですか?」
「おう、夏子ちゃん、わかる? 実はさ、運命の出会いをしてしまったんじゃないかなあって思ってるんだよ」
係長は急にテンションがアゲアゲになり、ニヤケ顔で言った。
「ほら、あそこの谷中ことりって名前の給仕係のクルー。なんかさ、俺に気があるんじゃないかなってさあ、うっひょひょっひょっ……」
私は係長が指差す方で接客をしている女性クルーに目を向けた。彼女は20代半ばくらいで、ロングの黒髪を後ろで束ねた大和撫子系の美女だった。私も夏子も、またいつもの係長の一方的な思い込みだろうと呆れていた。そこへ、突然係長のくしゃみ並みに不快なマイクのハウリング音が一瞬流れて、船内放送が入った。
「《お客様にご連絡申し上げます。西様、西武雄様、ランチタイムになりましたので、四階の食堂大ホールまでお越しください》」
それを聞いて、私と夏子は瞬時にハッとなり顔を見合わせた。
「おう、どうしたんだ? 何かあるのか?」
係長は野生の刑事に戻って私たちに質問した。しかしすぐに、クルーたちが各テーブルに料理を運び始めたので、係長は急いで自分の座席に戻っていった。
ランチは、狸うどんと鯛めし、それに魚の刺身だった。いずれも四国の名産で、食欲をそそって、見てるだけで腹時計が鳴りそうになるくらいだった。食後のコーヒーと抹茶大福で完全なまでに満足を得ることができた。夏子もとても満足しているようだった。
私はテーブル近くを通りかかったクルーに、船内放送で呼ばれた西さんのことを尋ねたが、 " 申し訳ないが言えない " とのことだった。しかし、先ほどの椅子がひとつだけ埋まっていなかったので、西という人物は来なかったのだろうと推測できた。
係長はクルーの谷中さんが給仕してくれている最中、ニヤけながらカッコつけているように見えた。自分にコーヒーを運んできた谷中さんに一言二言話しかけていた、何を言ったのか私には聞こえなかったが。
13時、フリーの時間だ。私と夏子は、食堂大ホールから出た所で、窓から海を眺めていた。そこへ係長がやってきた。
「おう、香崎、夏子ちゃん、何か深刻なことでもあるのか?」
「はい、係長、実は……」
陰謀論や都市伝説的な内容でもあるのでとても話しづらかったが、ネットの掲示板の書き込みのことを、係長に話した。
「えーと、ミシシッピ、だっけ?」
「係長、違います。ニシピッピです」
「ややこしいな。うーん、夏子ちゃん、考えすぎじゃないかな? 毎日、日本中の至る所で、クルーズ船が航行してるしさあ、書き込まれたのが昨年の8月だし――」
「でも村田さん、今朝の書き込み、意味深ですよね」
「うーん、でもさあ、そのミシシ……じゃねえわ、ニシピッピっていう人がこの船で死ぬなんて、考えすぎだよ」
「ええ、係長、私も基本的に同じ意見です」
「おう、気が合うな、香崎」
係長は少しウザかった。
「ていうかさ、ピッピって何?」
「あの係長、もう説明しましたけど」
「何だっけ? 彼氏のことだったかな」
「そうです。彼氏のことを、ピッピとか彼ピッピって言うんです」
「そうか、ということは、夏子ちゃんにとっての俺、っていうことかな」
「それは120%ないです」
夏子は速攻で無愛想にきっぱりと否定した。係長は結構ウザかった。
「いや、夏子ちゃん、そんなに否定しなくても……いやいやそれでさ、ニシピッピって何?」
「係長、さっきも説明しましたが、西っていう人が彼氏だった場合、 " ニシピッピ " ってなるのかなと……」
「おう、あっそう」
「村田さん、この船に西っていう乗客がいて、ランチ会場に来なかったんですよ。行方不明になってるかもしれないですよね。書き込みのこと、疑ってみるべきじゃないですか?」
「うーん、そもそもさあ、ネットの掲示板なんて、無数にあるわけだしさあ」
「係長、私も基本的にはそう思うんですが、夏子の言ったように、西っていう乗客がランチに来なかったことが気になります。なので、完全に無視はできないかと」
「おう、確かにそれもそうだな。掲示板とかが無関係だと思っても、現実にこの船で西っていう客がいなくなってるのなら、それは事件かもしれないしな。一応、クルーに当たってみるか」
「はい、係長」
なんだかんだで、クルーに聞き込みすることになった。
西武雄という人物がランチに来なかった。
西ですか。
西……ニシ……気になりますね。




