16 推理
で、その女性は……
「お姉ちゃん、この帽子って、 " ぴっぴ " の話してた時に逃げてった女の人がかぶってたのと似てるよね」
夏子も私と同じことを思っていた。
「うん、私も同じことを思った。108号室の、ええと、岸村広美さんね。岸村さんは背が高かった、私よりも。西さんは、175cmほどだった……ということは……」
「お姉ちゃん、どういうこと? この動画の人が岸村さんで、西さんに紫のコートを貸したってこと?」
「いや、違う、そうじゃない。岸村さんと西さんは同一人物じゃないかなぁ」
「なるほど! 岸村さんが、男の人に変装してたってことね」
私はこの時まだ頭の中が混乱していたが、結論には達していた。だがそれを言語化するには、頭の中が散らかりすぎていて、整理整頓しなければならなかった。そこで、論理的に順を追って、推理しようと思った。
「夏子、今から、推理してみる」
そう言って、私は深く呼吸をして自分を落ち着かせた。
「ナイフを投げた人物は、107、108、111、113、116、117号室に逃げた可能性が高い。岸村さんは、108号室……。津元さんの動画に出ている女性と同じ帽子をかぶっていた」
「んー、でもお姉ちゃん、帽子は同じでも、動画では顔まではっきりと確認できない……」
「あくまで、岸村さんがその動画の女性ならの話よ。えっと、岸村さんが、津元さんを殺害したのなら、どうなる? んー、岸村さんはまず、西武雄に扮して、乗船した……」
「でも、免許証で本人確認をしたって、野村さんが……」
「おそらく偽造よ。偽造した免許証なら、足がつかないからね」
「お姉ちゃん、でも、どうして西さんに変装して乗船する必要があったんだろ?」
「んー、それは……。架空の人物が必要だったのよ。西さんは行方不明になるわけだから、怪しいわよね。警察は、西さんが津元さん殺害に関係してると思わざるを得なくなる……」
「そうか、疑われる人物をつくったのね」
「ええ……えっと、岸村さんは西さんに扮して乗船後、すぐに津元さんを殺害した。そして西武雄のルームキーを倉庫のあの鉄の扉の下に落とした。隠したのかしらね。その理由は、船内からルームキーが電波を出し続ける必要があったから……存在しない西武雄という人物が船内にいると思わせる必要があったから……架空の人物に早くに退場してもらうわけにはいかなかったのよ。じゃあ、物置部屋と倉庫の鍵は? 総務課の井上さんが開けたのか、あるいは、岸村さんに鍵を渡したのか。そうなると、いずれにしろ、井上さんと岸村さんは、グル? 西武雄に扮した岸村さんが、デスクの中に隠れた。総務課の井上さんが、そのデスクを船から下ろした。それから、岸村さんが乗船した。で、岸村さんがナイフを投げた? 係長に? 私たちに? なぜ、ナイフを投げたのか? 私たちが刑事だとバレたから?」
「だとしたら、谷中さん?」
「いや、夏子、谷中さんとは限らない。クルーはみんな、私と係長が刑事だと知ってるわ」
「あ、そうか」
「ナイフを投げたのは、私たちを殺そうとしたから? ただの威嚇のため? 捜査撹乱のため? 酒木さんに疑いを向けるため?」
「お姉ちゃん、投げたのは、酒木さんかも」
「んー、もちろん可能性はあるわね。そのナイフは、津元さん殺害の凶器なのかどうか……。凶器だとして、なぜそれを投げたのか? 凶器のナイフを投げることで、クルーズ終了後に酒木さんにますます疑いを向けるため? 凶器でないとしたら、それを投げたのはなぜ?」
「なんにしろ、普通は酒木さんを疑うことになるよね」
「んー、じゃあ、谷中さんは? 谷中さんが岸村さんとグルとは考えられないかしら……彼女は怪我をしてまで係長を助けたし……。でも、谷中さんの怪しい行動は何なのかしら?」
「うーん、何だろ? もう、なんか、みんな怪しいわよね」
「確かにそうよね、クルーなら誰もが物置部屋の鍵を使えたんだし。誰もが津元さんを物置部屋で殺害することができた」
「殺すんなら、動機は何だろ?」
「岸村さんが、津元さんを殺害したとして、その動機か……。動画に出てるくらいだから、津元さんと岸村さんは面識があった、というか知り合いだった、いやもっと深い関係だったかも」
「だから、深い関係だったから、二人の間に何かあったんじゃない? 岸村さんは、津元さんのことを " ニシピッピ " って呼んでたんじゃないかな。それで、殺そうと思って、ネットの掲示板に " ニシピッピが死ぬかもしれない " って今朝書き込んだんじゃ……。んー、話が飛躍し過ぎかな……」
「いや、夏子、そうだとしたら、しっくりくるよね。……んー……山田さんと滝田さんも " ピッピ " っていう言葉を知ってたけど……その二人は " ニシピッピ " と関係があるのか……いや、そもそも、掲示板の書き込みに関連付けて考えようとしてるだけか……うーーーー、わからない!」
「お姉ちゃん、考えすぎて、頭がショートするんじゃない」
「ふう、オーソドックスに考えて、岸村さん犯人説が濃厚ね。もちろん、谷中さんや酒木さんたちを怪しむ必要はあるけど」
「村田さんの言うように、総務課の井上って人がめっちゃ怪しいのは当たってると思う」
「大田刑事に連絡しておこう」
時刻はとっくに、24時を回っていた。私は途切れ途切れになる通話状況に少しイラつきながらも、今したばかりの推理を大田刑事に伝えた。
小春の推理、あくまで、推理。
当たってるのか、外れてるのか。




