14 救出開始
村田係長が、穴?落とし穴?に落ちてしまいましたね。
救出活動始まります。
しばらく、係長からの応答を期待したが、何もなかった。野村さんがクルーを引き連れてやってきた。状況を確認してすぐに、野村さんは縄梯子を持ってくるようにクルーに指示を出した。
「野村さん、この穴、扉が開いたみたいですが……どうしてこんなことが……」
「はい、床の扉が開いてます。開かないようにしてあったはずなのですが……」
野村さんも信じがたいことが起きたと感じているようだった。クルーが急いで戻って来た。
「チーフ、縄梯子がありません。代わりに、船長が伸縮する梯子を持って来られます」
「なんですって! 縄梯子がない?」
「はい。総務の井上さんが、カラオケマシンと一緒に持っていったそうです」
「えっ、井上さんが……」
私は驚いて野村さんを見た。野村さんも同じく。
「なんでも、古くなったから交換するという理由だったそうです」
「縄梯子の備え付けは、船舶安全法で決められてるでしょ! なぜ私に報告しなかったの!?」
「申し訳ありません。井上さんからチーフに連絡がいってると聞きましたので、報告する必要はないと思いました」
「……私に伝えたって? おかしいわね……」
そうこうしていると、船長の興梠さんがクルーと一緒に、脚立のような折りたたみ式と思われる梯子を持って駆けつけてきた。興梠さんは恐る恐る穴を覗き込んで、厳しい表情をしていた。
「落ちたのは、村田さんですね? 何か返事はありましたか?」
「いえ、何も……」
「何かを叩く音とかも?」
「はい、何も……」
興梠さんも心配そうな表情だった。
「村田さん! 返事をして下さい!」
興梠さんが穴に向かって叫んだ。しかし、何も応答がなかった。
「これは、この梯子では下まで届かないかもな」
そう言いながら、興梠さんはクルーたちと梯子を伸ばして、フックを床に引っ掛けた。大型のライトで穴の中を照らしながら。しかし、梯子は下まで届かないようだった。
「下まで届きそうにないな」
「興梠さん、この穴、そんなに深いんですか?」
「はい。この穴は、地下二階を通り越して、もう一つ下の階まで続いています。簡単に言うと、船底です。この穴は、メンテナンス時に船底へ下りるための入口なんです」
「船底……ですか……そこには何が……」
「何もありません。ただ空間があるだけです」
「水が溜まってたり、空気がないとか……」
「そんなことはないと思いますよ。水が侵入しない構造になってますし、船にはいろんな所に通気口が通ってますので、ちゃんと空気はあります」
私はそれを聞いて少しだけ安心した。
「この梯子の長さでは無理ですね。残念ですが、船底まで下りることはできません。救出するのは、明日、帰港して以降になりますね」
「そうですか、仕方ありません……」
私はそう返事するしかなかった。穴を塞いでいた鉄の扉は、閂を通すように二本の鉄の棒で扉二枚を固定して、さらに溶接して、開かないようにしてあった。だが、金属疲労で鉄の棒が二本とも折れてしまい、さらに係長が乗っかってしまったため、溶接だけでは人の体重を支えられなくなったのだろうと、興梠さんは説明してくれた。注意喚起のために、周囲にカラーコーンが四つ置かれていたそうだが、暗闇のために係長はそれらに気づかなかったようだ。
私は係長に電話をかけてみた。しかし、電波の届かない所にあるのでかかりません、ということだった。メールを送ってみても、エラーになり、届かなかった。
「村田さーん!!!」
私が係長に連絡を取ろうとしている間、夏子は係長を呼び続けていた。だが、何の応答もないままだった。
これ以上どうすることもできなかったので、二次被害を防ぐために部屋を施錠して、解散となった。私と夏子だけでなく、クルーたちも、事件が立て続けに起こる物騒な船内の状況に神経を尖らせて、気が滅入っているようだった。
救出できないんかい!




