11 新発見
続きますよ。
「係長、飛んできたナイフですが、津元さん殺害に使われたものなのでしょうか?」
「うーん、傷口の照合は、俺らには無理だしな。鑑識か法医学者に見てもらわないとな。だから、何とも言えんな」
「酒木さんのことはどう思われますか?」
「うーん、ショーの時のお団子ヘアも良かったけど、ツインテールに長いリボン付けてるのも良いよなあ」
係長はすごくキモい顔で言った。
「あの、係長の好みを訊いてるのではありません……」
「え、おう、すまんすまん。まあなんだ、あの状況の中、たまたまナイフ投げの名人が現れるなんて、偶然にしては出来過ぎだよな?」
「そうですよね。私もそう思います」
「おう、そもそもよ、狙われたのは誰なんだ? 俺か? 谷中さんが狙われた可能性もあるよな?」
「でも係長、それだったら、谷中さんは係長に覆いかぶさったりはせずに、自分が避ければいいだけだったのでは?」
「いや、彼女、俺を助けたかったのかもな。彼女がナイフを避けたら、俺の方に飛んでくるから、俺を助けるために、ナイフを避けなかったのかもな」
「でも村田さん、そうだとしたら、どうして谷中さんは村田さんを助けようとしたんですか?」
「そこなんだが、彼女、俺に惚れ――」
「惚れてません」
「……」
夏子に秒速で冷たく否定され、驚きと悲しさのあまり、係長は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。10秒ほど、静寂が続いた。
「……あ、係長、谷中さんの自作自演とは考えられないでしょうか? 谷中さん、行動に怪しいとこがありますし、何かを隠すために、とか……」
「自分が怪我をしてまでか? 何かを隠すって、何をだ?」
「いえ、それは……」
「おう、自作自演っていうならよ、ナイフは飛んできたんじゃなくて、谷中さんが自分で自分を刺したとかは考えられねえか?」
「係長、私もそれを思ったんですけど、私はナイフが飛んでくるのを見てます」
「村田さん、私も見ました。飛んできたのは、絶対にナイフでした」
「ならよ、やっぱ、真剣に考えて、俺らの中の誰かが狙われたって考えるのが、妥当だな」
「私たちが、刑事だからでしょうかね」
「うーん、津元さん殺害に使われた鋭利な刃物と思われる凶器が殺害現場にはなかった。そして、俺らにナイフが飛んできた。どういうことだろな。こんなデカいナイフ、素人が投げられるもんなのか?」
係長が取り出したナイフを見て、私も同じことを思った。
112号室に戻ってきてから、夏子はずっとスマホを触っていた。
「あ! 見つけた! これ見て、お姉ちゃん、村田さん」
夏子は突然驚きの声を上げた。夏子はSNSのフェイス・トゥ・フェイスで何かを調べていたようだった。
「ほら、この顔、津元ひとしさん。でも、名前が、ほら」
夏子のスマホの画面には、殺害された津元ひとしさんのフェイス・トゥ・フェイスのアカウントが表示されていた。そこには、鶏冠ヘアの津元さんの顔写真があった。ところが、アカウントの名義が、津元ひとしではなく、 " 津元仁志 TSUMOTO NISHI " となっていた。
「え! NISHI……にし!?」
「夏子ちゃん、これって……」
「フェイス・トゥ・フェイスは、本名でしか登録できないから、にしが本名なんですよ」
「え、じゃあ、ひとしじゃなくて、にし!?」
「……にしピッピ……」
私は思わずボソっとつぶやいた。
「おう、もう一度確認のために乗客名簿を見せてもらおう」
私たちは名簿を見るために地下二階へ向かった。もちろん、厳重に周囲を警戒しながら。
スタッフルームで、野村さんに乗客名簿を見せてもらった。名簿にはすでに確認したように、 " 津元ひとし " と名前がひらがなで書かれていた。私は津元さんのフェイス・トゥ・フェイスのアカウント画面を野村さんに見てもらった。
「このSNSは、本名でしかアカウントをつくれないそうです。間違いなく、顔は津元さん、しかし、名前は " 津元仁志 TSUMOTO NISHI " 。下の名前がにしなんです」
「本人のお名前と、名簿に記載の名前が異なっているということですね」
「ええ、そうなんです、野村さん。乗船時に、身分証明書で本人確認をしているのに、こういうことが起きたのには何か理由がありますか?」
「はい、おそらくですが、考えられることは、乗船時にクルーが本人確認して、名前をパソコンに打ち込むのですが、その時に、変換ミスをしたのだと思います」
「ふむふむ、なるほど。ごもっともなことですね」
「私も変換ミスってしょっちゅうやります」
「お姉ちゃんはおっちょこちょいだからね」
夏子は一言多かったが、私たちは納得した。野村さんは、津元さんの本人確認を担当したクルーをすぐに探してくれ、そのクルーから、運転免許証の名前の読み方がわからなかったので、パソコン上で " ひとし " と打ってから変換するのを忘れたかもしれないとの証言を得ることができた。
「お姉ちゃん、108号室の人の名前も見ておかないと」
「そうね、うっかりしてた」
名簿には、108号室の利用者は一人だけで、岸村広美と記載されていた。夏子に気づかされて良かったけれど、係長から小言を言われるのかと思ったが、そんなことはなく、係長は深く考え事をしていた。
" 津元ひとし " じゃなくて、 " 津元仁志 " 。
" 仁志 " と書いて、 " にし " !?
なんじゃーそりゃー!




