鼠
余りの息苦しさに目が覚めた。粘る様な寝汗が気持ち悪い。カーテンの隙間から薄い光が漏れ、鳥のさえずりがする。もう朝かと、スマホで時間を見た。
——四時四十四分。
ぞわぞわぞわっと、悪寒が走った。ビニール袋の内でうごめく小動物の姿が頭をよぎった。
「何妙法蓮華経、何妙法蓮華経——」
勢いよく布団を被り、経を唱えて、それでも全身の鳥肌と寒気は消えない。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏——」
ならばこちらかと思ったが、それもまるで効果がない。ただ息苦しさの増すばかり。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい——」
うるさい拍動に、克明と先まで見ていた夢が浮かんでくる。
どれだけ懸命に暴れようと、逃れられない拘束の中、大きな手が私の首元を締め付けてくる。叫んでも、助けてくれない。ただ、頭に血が上り、苦しさのまま意識が遠のいていく。血の匂いと、骨の軋む音。真っ白の頭に切り落とされた足の熱く痛いのだけが刻まれる。
最悪の夢だった。
謝っても、許されない——。
喉にまでせり上がって来た胃酸を押しとどめ、布団から飛び出た。一目散に玄関まで走った。裸足のまま外へ出て、玄関口の脇には昨日置いたビニール袋。
「ごめんなさい。でも、こうするしかなくて。米とか、野菜とか食べられると嫌だから。だって、そうでしょ!? ねえ!」
手を合わせ、叫んだ。もう許してと、叫んだ。薄く白んだ青空に、自分の声が大きく響いたのを聞きようやく我に返った。
胸やけがして、口は酸っぱくさい。今になって、ここに来るまでにぶつけた小指が痛み始めた。
「おい、どうした。うるさいぞ」
父が、ドアから顔だけ覗かせて言った。
「‥‥‥ごめん」
そのまま家に入り、また寝床に着いた。
昨日殺した鼠の、生きているうちの姿、感触がようやく遠のいた気がした。




