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使い古しの靴

 使い古した靴の一番足に馴染む頃、それはもってあと数日というところ。食物の腐りかけが一番おいしいというのと同様、靴もまた壊れかけが一番使いやすい。そこまでになるのに早くて数カ月、かかれば数年。そうして最後の心地よさを得た後に、どこかが破れる。

 足が靴の形になるのか、靴が足の形になるのか、それとも両者の歩み寄りか——この靴とも離れる時が来てしまった。

 買ったのは確か三、四年前の秋口だった。晩年ランニングシューズから遂に卒業して、初めてのスニーカーだった。白地に緑のロゴの入たもの。一目惚れだった。

 はじめは、晴れの日だけ履いて出た。重くて、硬くて、違和感だらけ。それでも、高揚した心持ちで出かけられた。年を越した冬、とうとう雪の上を踏みしめた。いくつもの楕円が広がる足跡に、この靴の底の形を知った。それから一年近くは毎日履いた。次第に新鮮さも薄れ、偶に見るたびに、中敷きが擦れて底の踵部分は削れていた。

 そうして二年目に入るという頃、あまり外へ出なくなった。靴は玄関の隅に置かれ、蜘蛛の巣が這うこともあった。月一度あるかの外出で軽く埃を払い、履いていた。それが二年ほど続き、ロゴも苔の様にくすんだ緑色へと変わった。

 そして、今日。久しぶりに外出をすれば、足が軽かった。跳ねるように一歩が出た。

 過ぎる川辺の桜は、ピンクの花弁から緑の葉へと衣替えをして——向かい風が暖かい。

 行先のスーパーにはいつもより早く着いた気がした。買い物袋一杯の荷物でも、足取りは重くない。スキップまでできる。鼻歌も交えて帰り道が楽しかった。家について、それがどうしてかと考えた。荷物をそっとおろし、脱ぎ捨てた靴をそろえようと手を伸ばす——その時、スニーカーの靴底に亀裂が入っていた。

 くすみ、どこか砂にまみれた色のスニーカーを磨いた。新品とまではいかないが、綺麗な色に戻った。それから六カ月経ち、とうとう靴底は僅か剥がれた。それでもスニーカーは玄関に置いたまま、また今月も履いて出るだろう。

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