表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

金魚

 昨日、家のため池に泳ぐ金魚を殺した。湿った黒い死骸をそのまま土に埋めた。墓標代わりの木の棒は今朝方には抜けてどこかへ——。果たして、今あの金魚がどこにいるのかわからなくなった。

「ねえ、金魚でてこない」

 餌やりから戻り妹が母に言った。

「はれ、それは猫にでも食べられたかもね」

 未だ十にもならない妹はそれを聞き涙を浮かべた。

「うそうそ。きっとまだ眠いんだよ。ほら、もう一度見に行こう」

 母は彼女の背をさすりつつ共に外へ出ていった。

 朝食時、蝉の鳴き声が頭を揺らす。麦茶は甘く、鮭の切り身と共に喉を流れていった。

「ねえ、やっぱりいないよお」

「うーん。奥の方で寝ているのかなあ」

 背中の網戸越しに話し声が聞こえた。眩い日差しの下に二人は小さなため池を覗いていた。 

 食器を洗い、サンダルをつっかけ外へ出た。肌を焼く暑さに汗が噴き出て来た。

「いないのか?」

 訊くと妹は目を伏せたままに頷いた。

「どっかいっちゃった」

「‥‥‥そうか」

 少しだけ池を覗いてから物置へ行った。そこで小さなシャベルを手に庭へ戻った。もう二人はいなかった。ただ、咽び泣く声が家の中で響いていた。

 その泣き声を浴び、記憶を頼りに庭の土を掘り返した。汗を流れるままに垂らして、泣き声を鼓動と呼吸が掻き消す。

 七つ目の穴だった。黒いものが見えた。拾い上げると、まだ湿っている——土にまみれた金魚。それをぽいとため池に放り込んだ。

「金魚、いたぞ」

 私の言葉に妹は直ぐに泣き止み、網戸を開け放って裸足のまま駆けて来た。

 蝉の声が帰って来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ