金魚
昨日、家のため池に泳ぐ金魚を殺した。湿った黒い死骸をそのまま土に埋めた。墓標代わりの木の棒は今朝方には抜けてどこかへ——。果たして、今あの金魚がどこにいるのかわからなくなった。
「ねえ、金魚でてこない」
餌やりから戻り妹が母に言った。
「はれ、それは猫にでも食べられたかもね」
未だ十にもならない妹はそれを聞き涙を浮かべた。
「うそうそ。きっとまだ眠いんだよ。ほら、もう一度見に行こう」
母は彼女の背をさすりつつ共に外へ出ていった。
朝食時、蝉の鳴き声が頭を揺らす。麦茶は甘く、鮭の切り身と共に喉を流れていった。
「ねえ、やっぱりいないよお」
「うーん。奥の方で寝ているのかなあ」
背中の網戸越しに話し声が聞こえた。眩い日差しの下に二人は小さなため池を覗いていた。
食器を洗い、サンダルをつっかけ外へ出た。肌を焼く暑さに汗が噴き出て来た。
「いないのか?」
訊くと妹は目を伏せたままに頷いた。
「どっかいっちゃった」
「‥‥‥そうか」
少しだけ池を覗いてから物置へ行った。そこで小さなシャベルを手に庭へ戻った。もう二人はいなかった。ただ、咽び泣く声が家の中で響いていた。
その泣き声を浴び、記憶を頼りに庭の土を掘り返した。汗を流れるままに垂らして、泣き声を鼓動と呼吸が掻き消す。
七つ目の穴だった。黒いものが見えた。拾い上げると、まだ湿っている——土にまみれた金魚。それをぽいとため池に放り込んだ。
「金魚、いたぞ」
私の言葉に妹は直ぐに泣き止み、網戸を開け放って裸足のまま駆けて来た。
蝉の声が帰って来た。




