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春の病室
突風に窓が軋む。潔白の病床に少女は外を眺めた。川辺の桜は若葉を付け、その脇を学生服の男女が並び往く。
——四時三十三分二十五秒。
少女の瞬き一つ。トントンと弱々しく布団を叩く十本の指が、昼の色を残した陽光に晒された。ばらつく拍に合わせ揺れる細い体。鍵盤に触れたこともない少女がピアノを弾く。鼻歌交じりにヴィヴァルディの春が奏でられていく。シジュウカラのさえずりと、春風との三重奏。肩で切り揃う毛先は踊るように跳ねた。口元も緩み、いざクライマックスへというところ——。
ガラガラと戸が開かれた。キャスター台に点滴を乗せ看護師が病室へ入った。そこで協演は途絶え、少女の指先が乾いた布の音を鳴らすだけ——ただ埃が舞った。
「交換するね」
少女は演奏を止め静かに頷くと、管に繋がる手をそっと看護師に差し出した。




