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あまだれ
梅雨の空模様。軒先を伝う水滴が縁側の隅の石へと落ちる。例年よりも静かな雨の続く中、ぽた、ぽた、と雨垂れのとる拍は一定に、重なるのは蛙のざわめき。家の前を過ぎる人は、傘を片手に白い息を吐いて往く。
窓辺の小さな瞳がその風景をじーっと眺めていた。少年は掌で握る鉛筆に力を込めて、スケッチブックに歪な庭先が写される。モノクロの葉桜と紫陽花——。その上を雨の斜線が走った。
「あかあさんみてっ」
笑顔を向けられた母親は、優しく微笑んで「上手に描けたね」と我が子の頭を撫でた。
少年は毎日、その風景を描いた。梅雨の明けて夏の日差しから、秋の紅葉と月、冬の雪に春風までを絵に起こした。
そしてまた、梅雨がやって来た。
彼の人差し指と親指と中指が、鉛筆を持っていた。作り出す線は歪ながら、陰影とモノクロでありながら葉桜の緑と紫陽花の青紫が仄かに覗いていた。
「おかあさん、みて」
真っすぐな瞳が母親に向いた。
「——上手」
ポロっと漏らすように母親は言った。




