鏡
鏡を前に青年は笑顔を作る。映る穏やかな笑顔と見つめ合い互いが頷くと、彼は背を向け外へ向った。
陽光の燦燦と降り注ぐ下、アスファルトに陽炎が立つ。道外れに立つ二本の梅は緑の葉を広げ、取り残された実は赤く日に焼けていた。
暖かな風の吹く中を青年は歩く。時折、学生服のネクタイを気にしつつ、短髪を揺らし、大股に。
「おっす」
「おう」
交差点の信号で友人と一言交わし、共に学校へと向かった。
青年が家を出てから三時間程経ち、今度、鏡の前には少女がいた。乱れた髪が腰辺りまで伸び、顔までも覆っている。
少女は濡れた手で髪をかき上げた。露になった白い肌と目元のクマ。洗顔後に湿る顔を彼女はタオルで擦るように拭いた。それから彼女は、鏡に口内を映して丁寧に歯を磨く。そして、うがいをして最後、互いに歯を眺め頷くと、二階の自室へと上がっていった。
カーテンの閉まったまま、薄暗い部屋で彼女はベッドへ横になると、スマホを手にあくびを噛み締めた。
少女の去ってから二時間後、鏡には化粧を施す女の姿があった。彼女は仕上げの口紅を軽く塗って、耳元にぶら下がる真珠を鏡に映した。その輝きを互いに認めてから頷くと、女は急ぎ足で洗面所を後にした。
「それじゃあ、出かけるからっ」
階段下から大きな声でそう言うと、彼女は玄関のドアを開けた。半分ほど傾いた日が、耳元の真珠を一層白く輝かせた。
青年も女も家に戻り日も跨ぐ手前頃、白色照明の点く鏡の前には男が立つ。半裸の肩にタオルをかけて、彼は髭を剃ったばかりの口元を撫でていた。そして、コクリと頷いた後に自身の腹へ手を当てる。
ポッコリと膨れた腹。その肉をつまみ、鏡の自分を見つめて——「はあ」と深いため息を吐いた。
「あははははっ」
リビングから漏れる笑い声がその溜め息を掻き消した。
男は寝間着に袖を通し、照明を落とす。そしてリビングへ。
鏡は暗闇に包まれる洗面所を映し出していた。




