自分を知られること
「好きな食べ物は?」
「リンゴですかね」
「じゃあ、趣味は」
「んー、ゲームは好きかもしれません」
「そういえば、年齢を聞くのを忘れていました」
「ああ、三十二歳です。今年で」
「そうですか。ちなみに、ゲーム好きとおっしゃっていましたが、一方アウトドアの方はいかがなんです?」
「そちらはからっきしで。休日も家にいるほうが好きですね」
「そうですか。ちなみにゲームの他は。家で何かされるんです?」
「ゲーム以外だと‥‥‥。そうですね、まあ、動画見たりですかね」
「どんな動画を?」
「色々です。最近は、動物のにハマったりしてますけど。いずれ飼おうかなって」
「猫ちゃんとかですか?」
「いえ、犬ですね」
「犬ですか。確かに可愛いですもんね」
「そうなんですよ。特に小型犬とか」
「あー、いいですね。家に帰ってお出迎えなんてしてくれたら」
「ほんとですよ。誰もいない家に帰るのはやっぱり寂しいですから」
「失礼を承知で伺いますが、寂しがりやなんですか?」
「んーっと。まあ、そうかもしれませんね。割と」
「独りは慣れませんか」
「‥‥‥はい。かれこれ十年以上たちますが‥‥‥。恥ずかしながら一向に」
「恥ずかしいだなんてそんな。そういう方、多いですよ。それにほら、お優しい方って、こう、色々と考えてしまったりするっていうから」
「優しいって。私そんなことないですよ」
「いえ、だって、お声といいお話のされ方といい、柔らかな雰囲気でいらっしゃるから」
「それは。一応気を遣っているだけで‥‥‥」
「気を遣えるのは、お優しい証拠ですよ」
「でも、結構胸の内では酷いこととか考えてますよ。誰かへの悪口だったり」
「でも口には出さない。違いますか?」
「‥‥‥違わないですけど」
「ならやっぱり優しい方だ」
「いえっ、そんなの違います。思うだけでも良くないし‥‥‥」
「そんなこと、無いと思いますけど」
「それに、私、負けず嫌いだし」
「負けず嫌いっていうのは、人間の内にある本能の一つだと、思いますがね」
「でも、優しい人は、きっとそんなのない」
「負けず嫌いであろうと、優しくあれますよ」
「違います。心が汚いから、そんなこと思うんです。誰かに負けたくないとか‥‥‥。ほら、今だって変なプライド出してあなたと言い合いしているでしょう?」
「言い合いなんかじゃないですよ。これは話し合いです。あなたはちゃんと私の言葉を受けたうえで、あなたの意見をおっしゃってくれているじゃないですか」
「それは、でも、あなたに乗せられているというか」
「そんなことありません。どちらかといえば、私があなたの言葉に乗っかって話しているんですよ」
「‥‥‥でも、とにかく、私はそんな優しい人間だとか、そんなんじゃないんです」
「じゃあ、仮に誰かそこに倒れている人がいたとします。あなたはどうしますか?」
「それは‥‥‥、意識を確認して、救急車を呼んだりとか…‥‥」
「助けるんですよね」
「はい‥‥‥」
「ほら、優しいじゃないですか」
「そんなの、誰しもがする当たり前のことですよ」
「それを当たり前だというあなたは優しいですよ」
「でも、周りに人がいたら助けないかもしれません。誰かがやってくれると思うから」
「それは、自分よりも適任がいるかもしれないと考えているからではないですか? 仮に誰もいなかったらあなたは助けるのでしょう。それに、心の内ではその人の無事を祈っているはずです」
「‥‥‥それは、そうかもしれません」
「でもっ。でもっ‥‥‥。そのっ‥‥‥」
「大丈夫ですよ。ゆっくりでいいので教えてください」
この後も私はこの人に乗せられて、胸の内を次々と晒した。
最後には自然と涙があふれて来た。
ただその涙の理由は、安心よりも恐怖があった。




