17
待機してるだけで飯が食える……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
「誰だよ! 防衛してる所に突っ込むなんて普通はしないとか言ったの! 俺だよ、チクショー!」
『一号業務』が反応する方向へ全力ダッシュさせられながら叫ぶ。
「自動移動中だからかスキルのオフができないし! レベルもなんかまた上がってるし! このタイミングで『二号業務』出てきてるし! なんなんだよホントにもう!」
せっかくウトウトと惰眠を貪っていたというのに、急に脳内アラートが鳴り響いてこの様である。
「こうなりゃヤケだ! 手加減なんざしないからな! スキルでもなんでも使って、野郎・オブ・クラッシャーしてやる!!」
◇◇◇
数分前。
持ち回りで見張りをする者以外が待機する場所にて、丸まって眠るライラの真横でまったりとしていた。本来であればライラはトーマあたりに預けてゆっくり休ませたかったのだが、俺についていくと言って聞かなかったのだ。
まぁ想定通りであれば襲撃なんて起こりようもないし、ライラの感じる不安感がそれで軽減されるというのであれば別に構わないけど。
とはいえ、やる事が無い。ゲームなんか無いし、この世界に転移した時にポケットに入れていたスマホはとっくに電池切れだし、暇を潰すための娯楽も少ない。本は貴重だって話だし(そもそもまだ読めないし)、ボードゲームの類もあるにはあるが時間がかかる。そしてそもそも今は夜で、そんな娯楽を楽しめるほどの明かりはないというのもある。
暇を持て余した俺は、特に意味も無くネームプレートのステータスウィンドウを開く……と、またレベルが上がってる? しかも今まで空欄だった場所に『二号業務』が出てきてる。これは『一号業務』みたいにオンオフできないみたいだ。
というか本当に何にもしてないのにレベルが上がるとか、マジでスキルの熟練度的サムシングじゃないかこれ。だったら、うるさいけど『一号業務』もオンにしておくか。そうすればレベルが上がるのも速くなるだろ。
そう思って『一号業務』をオンにした瞬間、頭の中に警報が鳴り響く。しかも以前に起動した時とは違い、脳内に自分を中心としたレーダーみたいなのがぼんやりと浮かんでくる。それによると、まさしくハヴェンの方向に大量の反応が見受けられる。しかしそれ以外の人物や物に反応している様子はない。これはかなり有用になったのでは?
なんて考えていると、体が勝手に動き出す感覚に襲われた。
「え、あれ、ちょちょちょ、なんだこれ、止まんねぇ!」
「うん? どうしたケント、ションベンか?」
待機中に仲良くなった兵士に気軽に話しかけられるが、それどころではない。勝手に歩き出し、勝手に扉に手をかけ、勝手に外へと飛び出していく。
「体が勝手に動くんだ! 悪いけどライラを頼んだ!」
それだけ言い残し、俺の足は全速力で駆けだすのだった。
走りながら考える。というか、それ以外にすることが無い。止まろうとしようが、脱力しようが、足だけは確実に動き続けているからだ。だったらもう開き直って、レベルとスキルに関して考えを巡らしておこうというわけだ。
まずこの自動移動、脳内レーダーの反応している場所に直行しているのを思えば、『一号業務』の効果以外はありえない。たぶんレベルが上がった事で新たに獲得した機能だろう。警報や脳内レーダーも味方や町民には反応していないため、未知の存在に対して反応をするようになったと思って間違いない。ついでに言えば、ステータスウィンドウの『一号業務』をポチポチしてもオフにできない。移動中はオフにできないのだろう。それにしても、機械警備の現場急行にしたって、強制移動とかやりすぎでは?? せめて移動する/しないの選択肢が欲しかった。
次に新たに発現した『二号業務』だ。これは車両や雑踏を誘導するための業務で、道路工事の現場で誘導灯片手に車両を止めたり通したりしてる姿がよく見られる。まだ発動していないが、これがスキルとして発動するのであれば、そして効果があるのであれば、それは絶大な結果をもたらすであろうことは想像に難くない。大勢の敵が相手でも、ワンチャンどうにかなりそうな気がする。
……と、そんな風に冷静に語っているように見せているが、実際はあーだこーだと叫びながら走っているのは冒頭の通り。
「つーか本当はそんな冷静じゃねーから! ふざけんなよ! このままだと俺 VS 敵軍団じゃねぇかよ! 『二号業務』でワンチャンとか思ってるけど、そもそも戦いたくねーわ!!」
このデカい独り言に反応して応援が来てくれることを願うばかりだ。
◇◇◇
ギャーワーと騒いでいたのも町を出るまで。確か防衛計画によれば、町の外には少数の見回りしかいなかったはずだ。周囲を見渡しても見回りはいない。タイミングが悪かったようだ。行き会えば発見報告を出してもらえたのに。見回りの配置と脳内レーダーの位置関係を考えるに、まだまだ敵は遠いから、目視では見つけられる距離ではないだろう。まさか夜中に攻めるっていうのに馬鹿正直に松明掲げるなんてするはずもないし。となれば、町中で叫んでいたのに頼るばかりだ。一応合間合間に「敵だ敵だ!」と言っておいたし。
……というか、感知範囲広すぎでは? 出口寄りに待機していたとはいえ、町を出てもまだ相当距離がある。使い勝手上がったかと思ったけど、勝手に移動することを考えると微妙だな……。またレベルが上がって効果が変わるなり増えるなりするまで封印だな。少なくとも今回みたいに、明確に防衛するっていう状況じゃない限りは、しばらくオンにしない方が賢明だ。それにしたって単独で突っ込むなんて挙動は御免被るが。
そんな風に考えていると、いよいよもって目の前に迫ってきた。『一号業務』的には現場到着……現着したと判断されたのか、自然と足が止まった。また変な挙動されても困るから今のうちにスキルをオフにしておく。
空には薄雲が広がり、月が完全に隠れているわけではないが、明かりとするには頼りない。時々完全に遮られて暗くなるタイミングもある。そんな天気のため、レーダーの感覚だともう見えていてもおかしくないが、まだそれらしき集団は見えない。
そろそろ『二号業務』を使うか、と思ったが、どう使えばいいんだ?
今までのスキルは自動発動か、ステータスウィンドウでオンオフ切り替えをしていた。そもそも『二号業務』は文字がブラックアウトしていない。つまり起動状態というわけだ。だとしたら、待機状態ということか。
だったらまずは念じてみればいい。『二号業務』を強く思い念じてみる。すると、周囲が急に明るくなった。
「うおっまぶしっ」
もともと真っ暗だったところに昼間のような明るさだ。光源は後ろ。何が起きたのかと振り返ると、工事現場でよく見るようなデカいライトと、通行規制中という文字とペコペコと頭を下げる作業員の絵が交互に表示されるデジタル看板、見渡す限り左右に広く置かれたカラーコーンとそれを繋ぐ縞々のバーが存在していた。
「急にこんなの召喚するとかぶっ飛びすぎ……って、なんじゃこりゃ!?」
明るくなったことで自分の格好が目に入る。誘導員が夜間によく着ているLEDと反射材がついているベスト、手には発行部分が無い持ち手だけの誘導灯、頭の違和感に気付き手を伸ばすとヘルメットの感触。
完全に誘導員スタイルだ。
「いやいや、持ち手だけの誘導灯とかどうするんだよ。スイッチ入れりゃいいのか?」
ダメ元でスイッチを入れる。すると、「ヴン」という音と共に赤い刀身……灯身?が姿を現した。
「oh、ジェ○イ……って短ぇな、おい!」
まぁサイズは普通の誘導灯と同じくらいだったけど。
ていうかこれ、ちゃんと武器として使える? 使えるよね? こんなナリして使えなかったら訴えるぞマジで。




