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町の中心部への道すがら、とりあえずの行動指針として考えていた事をライラに伝える。
「まずはライラがいつも世話になってる商人のところに行こうか。ハヴェンの状況と、ライラの無事を教えてやるのがいいと思うんだ」
「っ……。そう、ですね……」
先ほどまでのやる気に満ちた顔から一転、辛そうな顔になってしまった。元気そうに振舞ってても、ハヴェンが滅ぼされた事を意識するとやっぱりそうなっちゃうよな……。こればっかりは仕方ない。
一度ライラを降ろして立たせ、目線を合わせて頭を撫でながら言い聞かせる。
「悪いな、思い出させて。でもこういうのは、言える時に言っておいた方がいい。それはライラもよくわかるだろう?」
「……はい」
「うん、良い子だ」
そう言って撫でていると、ライラがこちらに抱き着いてきた。抱き着く腕は少女らしい非力さでありつつも、離したくないという意思が感じられるほどにギュッと。言葉にしない悲しみを、恐怖を、紛らわせるかのように。時折鼻をすする小さな音が聞こえるが、声は我慢しているようだ。
「我慢しなくていいんだ。泣きたい時は泣け。いくらでも付き合ってやるから」
「ケント、さん……うぅ……うぁぁ……!」
堰を切ったように涙と声を出して泣き出すライラ。
俺の胸に縋りつくライラの頭と背中を撫でながら、気が済むまで泣かせてやる。周りを見ると何事かと窺う視線とぶつかるが、気にしないで続ける。気にしないったら気にしない。ここで日和ってもライラを不安にさせるだけだ。
そうして続けること数分。泣き声も落ち着き、鼻をすする音も聞こえなくなってきた頃、ライラは抱き着いていた腕をそっと解いてから、かすかに涙が残る瞳で俺を見上げてきた。
「ありがとう、ございます。商人さんのところに、案内しますね」
まだ震えが残る声で、それでも気丈に振舞おうとするライラに、俺はもう一度ギュッと抱きしめてからそのままお姫様抱っこで持ち上げて、できるだけ明るく「よし、行こうか!」と言って、ライラの指し示す先へと歩き出すのだった。
◇◇◇
土がむき出しだけどよく整備された道を歩くこと数分、ライラの案内のもと一軒の店にたどり着いた。
大通りに面していて、歩いた感覚だとほぼ町の中心といった位置。周囲の建物と比べても大きく、馬車が出入りできるスペースもある。店の前では従業員っぽい若い人が待機しているが、呼び込みとかはしていないから、これはたぶん馬車が来た時のための案内人だな。
総じて町人向けの店舗って感じではなく、周囲の村から作物等を売りに来た人を相手にしてる店なんだろうな。ライラも普段売りに来てたって言ってたし。
店番?に近付くと、彼はライラを覚えていたようで、目を見開いて叫んだ。
「ライラちゃん!? 無事だったんだね!」
「ロブお兄さん! はい、なんとか」
ライラも手を振り、ロブとやらに応える。どうやらハヴェンの状況は伝わっているようだが、生き残りがいるという話までは広まっていないみたいだな。まぁそりゃそうか。状況的に、生き残りなんてまずいないだろうしな。あんな襲撃かます連中が、簡単に生き残りを出すとは思えない。よほどのイレギュラーが起こらない限り。そのイレギュラーが俺って話で、それでライラだけが助かったというわけだ。
「領主軍の人からハヴェンが襲われたって聞いて、心配だったんだよ。……その人は?」
「ケントさんっていいます。ハヴェンで私を助けてくれたんです」
「どうも、堅斗だ。ライラを助けた流れで、タルヴィーク警備にも駆り出された者だ。ロブと呼んでも?」
「あぁ、ロブでいい。ライラちゃんを助けてくれてありがとう」
手を差し出してきたので握手で応える。荷下ろしとかも手伝っているのか、かなりゴツゴツとした手だ。握る力もそこそこ強く、服で隠れて見えないが結構筋肉質っぽい。見た目は細めの町人って感じなのに。
握った手を離すと、ハッと気付いたように口を開く。
「そうだ、ライラちゃんの無事を旦那様にもお伝えしなきゃ! 旦那様もハヴェンの事を心配していたんだよ。さぁ、中に入ってくれ」
「はい、おじゃまします」
ロブの案内に従って建物の中に入る。やはり予想通り、雑貨屋みたいに商品が並んだりしているわけではなく、大きめのカウンターと伝票のようなものが並ぶ、事務所といった感じの店内だった。
カウンターの中には恰幅のいいオッサンがいて、こちらを見て目を見開いている。なんかデジャブだ。
「ライラちゃん!? 無事だったんだね! 領主軍の人からハヴェンが襲われたって聞いて、心配だったんだよ。……その人は?」
さっきも聞いたセリフだな。同じことを思ったのか、腕の中でライラがクスクス笑ってる。かわいい。
オッサンが近付いてきたのでライラを降ろそうとすると、足を見て気付いたのかそれに待ったをかけた。
「立ち話もなんだね、奥の部屋で座って話そうか。ロブ、店番は頼んだよ」
「お任せください!」
「それじゃこちらへ。ライラちゃんは椅子へ降ろすといいよ」
そうして奥の部屋へと案内され、椅子を勧められるままライラを降ろし、自分も腰を下ろす。
オッサンは常備しているであろう水差しから木のコップに液体を注ぎ、俺達の前に置いてくれる。そのままテーブルをはさんで向かい側に座り、改めて名乗るのだった。
「私はトーマ。見ての通り、この町で商人をさせてもらっている。ライラちゃんとは、いつもハヴェン産の作物の売買の時に顔を合わせていてね、今ではすっかり顔馴染みさ。ハヴェンが襲われて、生存者は絶望的だと聞いていたのだが……ライラちゃんが生きていたのは不幸中の幸いだね」
「私も襲われて、もうダメだって思ったんだけど、そこをケントさんが助けてくれたの!」
「そうかそうか。それで、そのケントというのが……」
「俺だ。よろしく、トーマ」
「よろしくね、ケント。ライラちゃんを助けてくれて、とても感謝しているよ」
名乗り合いながらガッチリと握手を交わす。さっきのロブと違って、見た目通りの柔らかい手だ。
「それで……ハヴェンでいったい何があったんだい? 兵士からはハヴェンが襲われて村人が皆殺しに、と聞いていたが」
「その通りだ。ライラは俺が助けたが……」
「……ケントさんに助けてもらったときには、もう他の人はほとんどやられちゃってました。村を囲んで、少しずつ近づいてきながら一軒一軒……」
何が起こったかをライラが語ると、トーマは聞くに堪えないといった表情で、それでもしっかりと聞いているようだった。説明の中で時折出てくる名前は、恐らくトーマも知っている人物なのだろう。もれなく殺されているというのが胸糞悪い。
ライラも説明しながら涙声になっている。それでも語るのをやめず、自らの口で伝えるのにこだわる。ライラなりの、生き残ったことへの義務感のようなものなのだろう。
「そうか……ありがとう、ライラちゃん。辛かったろうに、頑張って私に教えてくれたんだね」
「私には、それくらいしかできない、ですから……」
涙が零れだしたライラに「頑張ったな」と声をかけながら頭を撫でてやる。制服のポケットからハンカチを取り出し、ライラの涙を拭う。そのままライラに渡しておこう。
ライラの話を聞き終えたトーマは、一口水を含むと真剣な顔で口を開く。
「ふぅむ、話を聞く限りだと、確かに次に狙われるとすればここだろうね。ハヴェンから直接繋がっているのはここと領都だけ。他の村はこの町を挟んで反対側だから、ハヴェンからは遠すぎる。直接領都を狙うとも考えづらいしね」
「だろうな。まぁ、あくまで『次に狙うとすれば』だが。生存者を出さずにハヴェンを壊滅させていたなら、明るみに出ないうちに他の村を順次潰していったんだろうが……」
「襲撃が知られ、他の村にも防衛戦力が配備されてしまった以上、わざわざ襲う道理もなしだね」
「ついでにこの町もな。いくらバレてるからって、こんな大人数で防衛してる所に突っ込むなんて普通はしないだろ。防衛の構えを見せて、王都からの応援が来てからハヴェンの奪還なり、襲撃者の追跡なりするって形になるだろうさ」
だから王国軍が来るまで、俺はこの町でのんびり暮らしてればいいってわけだ。
警備員ライフ再開だぜ!




