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「タルヴィークを頼んだよ」
「はっ、お任せください!」
エドリック卿と隊長っぽい人の会話を合図に、防衛部隊の馬車は動き出した。
乗る馬車は隊列の一番最後だ。
荷台に乗って後ろを見ると、エドリック卿とジャンが見送ってくれている。軽く手を振ると、二人とも振り返して答えてくれた。隣を見ると、ライラも手を大きく振っていたから、もしかしたらライラに振り返したのかもな。
なんて思っていると、馬車が街の門に差し掛かり、それまであまり揺れてなかった馬車が急にガタゴトと揺れだした。
それもそのはず、この街、領主邸を中心とした門へと伸びる道は全て石畳なのだ。街の外は当然むき出しの土。道の状態なんて雲泥の差だ。
タルヴィークに着くまで、このガタゴトと付き合っていかないといけないんだな……ケツ痛い。
そうやって道とケツに思いを馳せていると、御者台に座っている兵士と馬に乗って並進している兵士の会話が耳に入ってきた。
「なぁ、なんか速くないか?」
「だいぶ速いな……こんな速度で進むと馬がすぐにへばっちまう」
「他の連中もおかしいと思ってるみたいだな。何人か先頭に確認しに行ってる。俺も行ってこよう」
あー……これ、例によって『三号業務』が悪さしてるな……というか、乗ってたら隊列丸ごと効果出るのか? これだけで食っていけそうな効果だな。商人の護衛とかやろうかな……。
まぁ平和になったら考えよう。とりあえず今はこの異常事態の説明をしないとな。
「御者さんよ、ちょっといいか?」
「む、ケントとか言ったっけか。なんだ?」
「もしかしたら俺のスキルの効果かもしれない。一つ聞きたいんだが、今よりも速度を落とせるか?」
「速度を? ……やってみよう」
そして紐を手繰り指示を出すと、馬は速度を落とさずに止まってしまった。そのままでは置いていかれるので、またすぐに進ませる。
「ダメだな、これより遅くさせようとすると止まっちまう。馬としては普段通り歩いてるつもりらしい」
「やっぱりか……。俺のスキルに、行進速度の上昇と消耗体力の軽減と思われる効果がある。この異常な速度はたぶんそのせいだ。恐らく、隊列全体が影響受けてる」
「なんだそりゃ!? そんなぶっ飛んだスキル聞いたことないぞ!?」
だろうね。俺もビックリよ。
そんな話をしている間に、馬で並進していた兵士が前に行って話を聞いてきたようで、脇に止まってこちらを待っていた。近付くと馬を発進させて、また並進するように操る。
「先頭から話を聞いてきた。普段通り歩かせてるのに妙に速いし、そのわりに馬も元気なままらしい」
「な?」
「うーむ……信じがたいが、先頭もそうだと言うのなら間違いはないんだろうな」
先頭の様子を聞き、現実を受け止めるように納得する御者。その様子に、馬に乗っている兵士が疑問を抱いた顔で聞く。
「何の話だ?」
「この異常事態、渡り人のスキルのせいかもしれない、ということだ。これは全体に共有した方がいいだろうな」
騎乗している兵士にも効果を教え、隊列全体へと伝達してもらう事に。
教えられた兵士は信じられんという顔だったが、スキルだということで強引に納得したらしい。
そりゃこんな効果、普通は信じられないよな。俺だって自分のスキルじゃなきゃ信じないもん。
◇◇◇
状況を全体へ共有し、異常な行軍速度で進むこと数時間。なんと休憩も取らずに進み続け、日没前後に到着予定だったタルヴィークへ到着してしまった。日没まではまだまだ時間がある。
タルヴィークは全体が木の柵で囲まれていて、出入り口となる場所がぽっかりと開いている。閉じる扉などは無さそうだ。単純に町と外の境目というだけのものっぽいな。防衛的には大して役に立たなそう。
町の中へと入り、広場に集合して荷物などの積み下ろしをする兵士達。
俺は特にやることもなくそれを眺めていると、出発の際にエアドリック卿と話していた隊長っぽい人がこちらへと近づいてきた。
「君が渡り人のケントか。私は今回のタルヴィーク防衛隊の隊長、ヴァルだ。よろしく」
手を差し出しながら言ってきたので、こちらも「よろしく」と応えながら握手を交わす。
「早速で悪いのだが、防衛計画について話し合いたい。君のスキルについて教えてくれ」
「あぁ、わかった」
念のため何か変わってないかを確認するために、ネームプレートを持ち、「ステータス」と念じてステータスウィンドウを表示させる。
スキルは……増えてないな。けれどレベルが5になってる。なんでだ。
ていうかこのレベルって何のレベルだよ。戦闘らしい戦闘なんてしてないのになんで上がるの?
身体能力は上がってる感がないから、もしかしたらこれスキルに関係するのか?
だとすれば5に上がって何か変わった……?
相変わらずスキル名を触っても『一号業務』以外は何も起きないし。なんなんだいったい。
とりあえず分かっている効果を一通り説明したが、あまり芳しくない顔だ
「うぅむ……。行軍は助かったが、それ以外は聞く限りだと活用できる程ではないな」
「そうだな。俺もそう思う」
『一号業務』は無差別で範囲もよく分からんし、『三号業務』は町に着いた時点でお役御免だし、『四号業務』は恐らく対象がライラだからそれ以外の誰かに何が起きても効果はないだろう。
「だが個人戦力としては期待ができる。ハヴェン方向の入口付近で待機してもらおうか」
「敵が来る可能性で考えれば、確かに攻め滅ぼされたハヴェン方向が一番だもんな。りょーかい」
「とりあえず日暮れまでは自由にしていてもらって構わない。日が暮れたらここに戻ってきてくれるか」
「あいよ」
さて、暇ができてしまったが……町の中を見て歩くか。何かあった時のために町のどこに何があるかを見ておくのも悪くないだろうし。幸い、この町に慣れてるライラもいるしな。
とりあえず少し離れたところで座っていたライラに、デートのお誘いをしましょうかね。
「お待たせ。夜からはハヴェン方向の入口に待機する事になったけど、それまで自由だって話なんだ。よければライラに町を案内してほしいんだけど、どうかな?」
「はい! まかせてください!」
頼られたのが嬉しいのか、二つ返事でOKをいただいた。ふんすふんすと聞こえるような、やる気に溢れたような顔がとても可愛らしい。なでなでしてやろう。
撫でられて気持ちよさそうにしているライラを抱えて、町の中心部へと歩みを進めたのだった。




