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 案内された寝室は当然のように一部屋。

 地味という程ではないが派手さのない内装にシンプルな家具。目立つのは大きめのベッドだけ。まさに寝るためだけの部屋という感じだ。やっぱりこの屋敷は基本的に質実剛健という感じなんだろう。風呂だけは立派だったが。

 とりあえず抱きかかえていたライラをベッドに降ろすと、使用人さんが家具の中から何かを取り出し、ライラの元へと持ってきた。見た感じ、応急セットっぽいけど……あぁ、そうか、捻挫か。


「ライラ様、捻挫をしている足を固定させていただきますね」

「は、はい、ありがとうございます……」


 ベッドに座ってそのまま大人しく、でも所在なさげにキョロキョロと視線を彷徨わせながら固定を受けるライラ。やっぱりご奉仕されるっていうのに慣れてないんだな。そりゃただの村娘がこんな風にあれもこれもって甲斐甲斐しく世話を受けるような機会なんてないだろうしな。

 落ち着かせるようと、邪魔にならない程度に近くに座り、頭を撫でる。風呂でピカピカになった髪はまだ少しだけしっとりとしていて、触り心地もとても良い。ライラも撫でられて気持ちがいいのか、目を細めてされるがままだ。


「完了しました。少しくらいなら歩いても良いでしょうが、あまりご無理はなさらぬよう」


 なんてやってると、手早く固定を終わらせた使用人さんが離れていく。

 患部を見ると、正にテーピングといった感じな硬めの包帯で足首が固定されていた。これくらいなら俺でもできそうだな。後で一応やり方聞いておこう。


「それでは明日朝、食事前に起こしに参ります。それまでごゆっくりどうぞ」

「ありがとう」


 礼をして「おやすみなさいませ」と言って部屋から出ていく使用人さん。残されたのは俺とライラのみ。

 ……服装も既に寝間着といった感じだし、特にやる事もないし、寝てしまおう。ライラも少し眠そうにしている。昼間に一応寝たは寝たが、まだまだ疲れが抜け切れていなかったようだ。


「ライラ、おいで」


 先に寝転び、横のスペースを空けてライラを誘導する。ライラも素直に近づいてきて寝転び、すぐに眠気がやってきたのか、目をくしくしと擦っている。かわいい。


「もう寝ていいよ。おやすみ、ライラ」

「はい……おやすみ、なさい……」


 腕枕にできるように腕を出すと、そのまま素直に枕にしてすぐに寝息を立て始める。やっぱり疲れてたんだな。美味い飯を食べて、風呂に入って身体を綺麗にして、安全な寝室に案内されて、緊張の糸が切れたんだろうな。……俺が近くにいるから安心してくれてるというのならいいが。

 さて、俺も寝よう。ぶっちゃけ俺もまだ眠い。

 明日からも忙しくなりそうだ……。


 ◇◇◇


 ふと、目が覚めた。

 部屋はまだ暗闇に包まれている。光のひとかけらも外からは入ってきていないところを見るに、まだ真夜中だろう。こんな時間に目覚めるなんて珍しいな、とぼんやり思っていると、胸元から微かにすすり泣く声が聞こえてきた。あぁ、これで起きたのか。

 蝋燭はすでに消えていて室内はさっぱり見えないが、どうやら俺にしがみついて泣いているらしい。ときたま「おとうさん……おかあさん……」という小さな声も聞こえる。


「ライラ?」


 小声で問いかけてみても、返答もないし動きもない。どうやら寝言みたいだ。

 すすり泣く声は止まない。悲しい夢を見続けて泣き続けるライラをどうにか宥めようと、腕枕をしていない方の手で背中をさする。できるだけ優しく、起こさないように、ゆっくりと。……効果あるかわからんけど。

 続けていると、次第にすすり泣く声も小さくなっていき、やがて穏やかな寝息に変わった。よかった、落ち着いてくれたみたいだ。

 昼間はこんな事なかったと思うが……いや、泥のように眠ってたからな。気付かなかっただけかもしれない。

 もっと気にかけてやろう。ライラの悲しみを軽くしてやりたい。

 そんな風に思いながらゆるくライラの背中をさすっているうちに、俺も再度眠りに落ちていった。


 ◇◇◇


 微かな物音に意識が覚醒していく。

 なんだろうと思って耳を澄ましていると、扉をノックするコンコンという音が断続的に続いていた。

 微かに目を開けると、光が飛び込んでくる。すでに日が昇っているらしい。

 確か……夜中に一度起きて、その後……と順を追って思い出していると、腕の中の温もりに思い至った。ライラが俺にしがみつくように寝ていて、俺もそれを抱きしめるようにしていたみたいだ。

 ライラのくぅくぅという静かな寝息が可愛い。頭をひと撫ですると「んん……」なんて反応しながら、頭を俺の胸に押し付けてきた。可愛すぎか??


「おはようございます。朝となりました」


 そんな事をしていると、コンコンという音と共に使用人さんの声も聞こえるようになってきた。優しい良い声だなぁ……なんて、そんな事思ってる場合じゃないか。


「……はい」


 寝起きの掠れた声で返事をすると、「失礼します」という声と共に部屋へ入ってくる。大きめのカゴを抱えているが、中身はなんだろうか。

 ベッドの前にカゴを置くとその中身が見えたが、これは服か……?


「お二人のお着替えをお持ちしました。ケント様のお召し物はただいま洗濯中ですので、それまでの代わりにどうぞ。ライラ様には、エドリック様よりこちらを差し上げるようにと仰せつかっております」


 そうしてカゴから取り出した服はとても綺麗な物だった。水色というほど薄くはない青い色のワンピース、長袖で膝丈、スカート部分に刺繍で模様が入っている。ベストは薄茶色の革製で、とても柔らかそうな質感だ。防御力は期待できなさそう。こちらにも刺繍で模様が作られている。さらに腰を絞るための布製ベルトと、留め具に花柄の彫り込みがされているバックル。捻挫している足を考慮してか、ストラップサンダルと革製のブーツの二種類が用意されていた。全体的にシンプルだが、質感はかなり良い。これはお高いのでは?

 いつの間にか起きていたライラもその服を見て、目を輝かせていた。


「わぁ……これ、本当に着てもいいんですか?」

「もちろんでございます。サイズもピッタリかと」


 なんでだよ。まさか一晩で作ったのか?


「……ふっ」


 いやいや、こっち見て意味深に笑うんじゃないよ。心でも読んでる? こわ……。


「ライラ様、お着替えをお手伝いいたします。ケント様はこちらをどうぞ」


 そう言ってカゴに残っていたシャツとズボンをポイポイと渡してきて……だからなんでそんなぞんざいなんだよ。大事なお客様じゃねーのかよ!

 まぁ別にいいけどさ。そんな甲斐甲斐しく世話されてもむず痒いだけだし。

 着ていたゆったりとした寝間着を脱ぎ、渡された服をサッと着て着替え完了。ライラも使用人さんに手伝ってもらい、手早く着替え終えた。


「えっと……似合い、ますか?」


 ちょっと照れたような顔で聞いてくるライラ。使用人さんに支えられながらクルっと回転する。可愛すぎる。


「あぁ、とても似合ってる。可愛いよ」


 俺の褒め言葉に、花が咲いたような笑顔になるライラ。うん、ウチの子は可愛いな!

 頭を撫でながら愛でていると、そろそろいいかと言わんばかりに使用人さんが咳払いをし、食堂へと先導を始めるのだった。

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