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聞き慣れない単語の並び方を訝しんでいたエドリック卿だが、単語自体の意味は理解できているようで、だからこそ理解に苦しむような顔をしていた。
「名称を聞くにスキルという感じではなさそうだが」
「ご明察通り、これは本来スキルの名前ではありません。順を追って説明します」
そして俺は、こちらの世界へ来る前は警備員という職業に就いていたこと、警備員とは警備・警護を専門とする傭兵のような存在であること、その警備員を取りまとめる協会があること、『警備の心得』はその協会が掲げている基本的な心構えのようなものであること、『〇号業務』は警備員が護る対象の種類を大雑把に取りまとめたものであることを伝えた。
「……スキルの名称ではないね。まぁ大事なのは中身だ。どういった効果か、体験したうえでの効果を教えてくれたまえ……」
頭痛を堪えるように目頭を押さえながら、なんとか絞り出したのがこのセリフだった。
まぁ確かに?
説明聞く限りじゃ何がどうスキルになるんだって話だけど?
そこまで露骨にガッカリしないでもよくない?
一番ガッカリしてるのは俺だっつの!
説明するけどさ!
「はい。ある程度以上把握しているのは『警備の心得』と『一号業務』と『三号業務』です。『四号業務』に関しては効果の程を実感していないのでなんとも言えませんが、効果の方向性はなんとなくわかります」
説明しながら、改めて考えをまとめていく。
まず『警備の心得』で分かっている効果。一つは自分含めて世界がスローになる事。もう一つが制服や装備を不足なく揃えると、自分の中でスイッチみたいな物が入り、頭も体も戦闘態勢のような状態になる事。スローは現状では必須級の能力で、戦闘の要だ。攻撃されそうになると発動し、相手の肉体を殴ると解除される。スイッチに関しては、寝起きで即動けるくらいの効果しか感じられていない。今だって制服脱いでるしね。ただこれに関しての懸念点として、スイッチが入っている状態じゃないと『警備の心得』含め、スキル全般が使えないかもしれない可能性があるということだ。ここだけはあとで検証しなければならない。
次に『一号業務』だが、本来であればこれは特定施設を警備する業務を指す。夜間の施設警備だったり、センサー類の機械を設置しての遠隔監視だったり、人が見ているという抑止力がメインの業務だ。変わり種で万引き警戒なんていうのもあるが。今のところ分かっているのは、自分だか防衛対象だかを中心とした大雑把な警報センサーみたいな機能だけだ。発現直後は未完成だという話だし、成長に期待だな。
『三号業務』は貴重品や核燃料等を輸送しつつ警護するというものだが、今のところ体感した内容としてはただの物資輸送スキルだ。牽引者のスタミナ大幅増大、牽引力強化、荷馬の強化、速度上昇といったところか。運送業か行商でもやるならこれ以上ない有用なスキルだが、戦闘に便利かと言われると……これもどう成長するのかが気になる。
最後に『四号業務』、身辺警護業務……いわゆるボディガードだ。明確なスキル効果の体感と言うほどの事はなかったが、もしかしたらと思うような事は一応あった。ライラとの初遭遇時だ。ライラに助けを求められた時、身体が引っ張られるような、護らなきゃいけないような、そんな感覚があった。ライラが狙われたと思われる時にもスローが発動したことから、警護対象として設定された人物を守護るのに有利な効果があるのかもしれない。推察の域を出ないが。
あとは発現してはいないけど、この調子なら『二号業務』も絶対にそのうち出てくるだろう。これは工事現場とかで誘導したり、イベントの雑踏を誘導したりするやつだ。スキルとして発現したらどんな効果になるかね?
「……といったところです」
スキルのまとめを語り終え、カップを傾けて喉を潤す。
「ふぅむ、中々使いどころのありそうな物が揃っているな」
名称を聞いた時と打って変わって、かなり期待の籠った眼差しになったな。まぁそうだよな、今ある物の効果が順当に強化されたり、業務内容から連想される効果が出るようになれば、それはそれは有用な物になるだろうしな。『警備の心得』だけはサッパリ分からんが。
「今のところ、こちらから帝国への逆侵攻というのは計画できていない。国王の承認も無しに他国へは攻め入れないからな。そんな現状に、君のスキルは打ってつけだ」
「確かに、現状だけでは頼りないですが、スキルが成長するというのを考えると、防衛向きであることに間違いはないですね」
エドリック卿もカップを手に取り、一口飲むと更に続ける。
「差し当たって、君には早急にタルヴィークへと向かってもらいたい。ハヴェンが狙われたとなれば、次の標的として選ばれやすいのはそこだ」
知らん地名が出てきたな。大体想像はつくけど。
「失礼、そのタルヴィークやハヴェンというのは?」
「そうだった、君は渡って来てから日が浅いのだったね。ハヴェンはライラ嬢の村、タルヴィークはその最寄りの町だ」
ですよね。
ハヴェンの名前が出た瞬間、ライラが顔を伏せたのを見逃さなかった。気丈に振舞っているが、やはり村を思い出すと心穏やかではいられないのだろう。タルヴィークとやらにも頻繁に行っているという話だし、知り合いもいることだろう。
となれば、護ってやんなきゃな。その町を護ることでライラの笑顔になるなら、やったろうじゃないの。
「心配すんな。俺が護ってやる」
顔を伏せたままのライラの頭を撫でて、元気づけるように力強く言い切る。正直自信はないけど、悲しい顔をさせてなんておけないよな。
「ケントさん……はい、お願いします……!」
ほら、希望を見出したような、可愛い笑顔を向けてくれてる。この笑顔のためなら、めんどくさくてもやってやるさ。我ながらなんでここまで入れ込むかはわからんけど、それでもこの気持ちは無視できない。
「やる気になってくれたようで結構。では明日にでも向かってくれるかな? こちらで馬車を出そう」
「助かります。それでは、明日に備えて休息を取っても?」
「うむ。寝室まで案内させよう」
エドリック卿が手をパンパンと叩くと、使用人さんが部屋の入口に移動して待機する。
一口分残っていた紅茶を飲み切り、ライラを抱えて使用人さんのところへと行く。
「それでは失礼します」
「うむ。よく休むといい。あぁ、それと」
そのまま部屋を後にしようとしたところで、エドリック卿が最後に一言といった感じで付け加える。
「私に対する口調は普段通りで構わんよ。公の場でなければね」
「……そりゃどうも。慣れてないから助かるよ」
「はっはっは。おやすみ、ケント君」
いや、ほんとに助かる。敬語って苦手なんだよね。
警護は得意なんだけどな! HAHAHA!




