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68.メイド男爵、メイドらしく勝つ!


「ふふふふ、サラ・クマサーン、貴様に引導を渡してやるっ!」


 目の前に現れたのは、派手な装飾で飾られた女神の像だった。

 それはまるで生きているかのように動き、私たちを戦慄させる。

 さらに驚くべきことは、それを操るのは栄光国のミミンという女だったことだ。

 

 あの女、一体、何がしたいわけ!?

 こっちはもう平和に話を終えたいっていうのに。


「ふざけるなぁっ! 人の国で勝手なことをするなぁーっ!」


「帰れーっ!」


 私と同じ事を思ったのだろうか、王都の市民たちは石を拾って立像に投げつけ始める。

 暴力はいけないことだけど、そうでもしなきゃ怖くてしょうがなかったのかもしれない。

 しかし、これが彼女の逆鱗に火をつけた。


「消えろ、うじ虫どもがっ!」


 女神像はすらりと剣を抜くと、どだぁっと辺りのガレキに叩きつける。

 王都の市民たちは突然の攻撃に蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。

 なんてことをするんだ、あいつは!

 人死にがでたらどうするんだ。


「待ちなさいよっ! 暴れるんなら、私が相手になるわよっ! そんなのから降りて、一対一で戦いなさいっ!」


 私は頭に来ていた。

 屋上に出た私は十メートルはあろうかという女神像を見上げる。

 美しい顔をした立像だが、今では悪魔の化身のように思える。


 ここで私が彼女を挑発したのには理由がある。

 この砦はもう殆ど動かなくなっているのだ。

 そうである以上、別の勝ち筋を見出すしかなかったのだ。


「何を言っている? 貴様の砦など、どうでもいいわっ!」


 しかし、ミミンは私の挑発には乗らなかった。

 女神像は大きく剣を振りかぶると、それをどだぁっと砦の側面に当てる。


 同時に、私の肋骨も、みしっと音がした。

 

 焼けつくような痛みに悶絶する私。

 呼吸が苦しく、何も考えられない。


「だ、男爵!?」


「お師匠様!?」


 皆が慌てて駆け出してくる。

 私は自分の浅慮を呪う。

 あのミミンって言う性格の悪い女がこちらの要望に答えるはずがなかったのだ。


 あぁ、私のバカ!


 砦が動かない中、私はどうすればいいのか必死に考える。

 ぜぇぜぇと息を吐くだけで肺が痛い。


「砦ちゃん、ステータス……オープン……」


 ここで私が頼ったのは砦ちゃんのミラクルパワーだった。

 他力本願なのはわかってるけど、私たちはもう十分に死力を尽くした。

 この状態で頼れるのは砦ちゃんぐらいなわけで。


 お願い、砦ちゃん!

 

---------------------------------------------------------------


【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】 


 ランク:トリデンメイデン(ケモ戦車)

 素材:頑丈な岩

 領主:サラ・クマサーン

 領民:4

 武器:なし

 防具:なし

 特殊:リボン・ヘッドドレス・ドラゴンタトゥー・魔導機関

 シンクロ率:103%


※シンクロ率が限界突破しました! 具現化を実行しますか?


---------------------------------------------------------------


 そこに現れたのは、私の見たことのない文字だった。

 具現化って何だ。

 しかし、もはや迷ってる時間なんかない。


「するっ! 具現化でもなんでもするからっ!」


 私は叫ぶようにそう伝える。

 砦ちゃんに賭けると誓った以上、後戻りはできない。

 何もしなきゃ、あの女にボコボコにされるだけなのだから。


「はうわぁっ!?」


 次の瞬間のことだ。

 私の視界が一気に明るくなる。

 目の前に見えるのは、私より少しだけ身長の大きい女神像。


 手をにぎにぎすると、いつもの私の手がにぎにぎとなる。

 くるっとその場でターンをすると、メイド服がひらりと揺れる。


 これって……!!


 私、巨大化してるよ!!

 

 これが具現化ってやつなの!?


「メイド男爵、頑張ってくださいーっ! 大きくて動きますよおっ!」


「お師匠様! パンツ見えてるけど、いけますよっ!」


「ぬはは、頑張るのじゃ!」


「怪我人は任せてくださイ!」


 下の方から領民たちの大きな声が聞こえる。

 どうやら私が巨大化したのと合わせて、外に出てしまったらしい。


 うっそ、パンツ見えてるの!?

 恥ずかしがってる場合じゃないのは分かってるけど、真下に人が来ないようにしなきゃ!


「き、貴様、何の真似だ、それは!? ええい、棒切れで私に勝てると思うのか!」


 女神像を操るミミンは剣をぶるんっと振って、攻撃を仕掛けてくる。

 当たれば一撃必殺の完全なる凶器。


 だけど、私の持つハタキ棒だって伊達じゃない。

 先日、マツたちにプレゼントしてもらった特注のハタキ棒なのだ。

 確か貴重な素材でできていて、すっごく頑丈なのだそうだし。


「てぇりゃっ!」


 私はハタキ棒をぶぉんっと操って、女神像に突風を浴びせる。

 何が弱点か知らないけど、尻もちぐらいついてほしい。


「そんなものぉおおおっ!」


 しかし、相手はひるまない。

 ハタキ棒の起こした暴風を浴びても、こちらに突進を仕掛けてくる。

 私の得物には殺傷能力はないので、ただただひたすら逃げるばかりである。

 

 どうしよう、このまま逃げてても埒が明かないよね。


「勝負あったな! 貴様の砦は所詮はラプタンの残骸だったようだ。私の星神の美しさを見ろっ! この金色の衣が、星のように煌めく宝石が、私に力を与えてくれるのだっ! 貴様はガレキの中に沈むがいい!」


 ミミンは高らかに勝利を宣言する。

 私が手も足も出ないのを見越しての腹立つ挑発行為である。


 確かに私には戦闘経験はない。

 だから、目の前の女神像を倒すことはできない。



 実を言うと、私は先ほどからむずむずしていた。

 辺りがガレキだらけになっていて、あの美しい王都が見る影もなくなっていることを。

 建物を作るのは無理だとしても、せめてガレキは片付けたいよねっ。


 手のひらの中にあるハタキ棒を見つめて、すぅっと息を吐く。

 これがホウキだったらいいなぁと思いながら。


 すると、どうだろうか。

 ハタキ棒が光り始めて、ぐいーんと伸びるではないか。

 しまいには金色のホウキへとその姿を変えてしまう。


 これなら、いけるっ!


「お足元を失礼します! ご主人様ぁああああ!」


 私はホウキをもってダッシュする。

 それは尋常の動きではない。

 光の速度を凌駕するかのような、そんな速さが出ていると我がことながら思ってしまう。


「ひ、へ?」


 ミミンが目を丸くしたのもつの間、私は辺り一面のガレキを一か所に集める。

 すごく、すっきりした。

 心まですがすがしくなってくる。

 戦闘中に何をやってるんだって思われるかもしれないけど、私はもう勝利を確信していた。


「何をやっている、メイド風情がぁああっ!」


 吠えるようなミミンの絶叫。

 斬りかかってくる女神像。

 

 しかし、私はそれをひらりと避ける。

 なぜなら、相手の動きは驚くほど緩慢なものになっていたからだ。


「なぁっ、何をした!? これは、私の金色の衣は、宝石は!?」


 混乱しているミミンの声に私は少しだけ気分をよくする。

 そして、手の中のものを見せつけてやったのだ。

 

「ふふ、お掃除ついでにご主人様のお着替えも済ませてあげましたわっ!」


 じゃらじゃらと手のひらから落ちてくるのは、先ほどまで女神像を飾っていたはずの黄金衣と宝石だった。

 悪趣味すぎるほど沢山くっついていたけど、メイドたる私にかかれば簡単に着替えさせることができる。


 私は聞き逃さなかったのだ。

 金ぴかの衣が力を与えてくれているとか言う、彼女の言葉を。

 

「お、お、おのれぇええええ! へ、あれ?」


 絶叫するもつかの間、女神像は動きを止め、ずぅうううんっと地面に倒れこむ。

 私はそれを見届けると、ふぅっと息を吐く。


 曇り空に裂け目が出来て、お日様の光がキラキラと届き始める。

 王城の一角を照らし出したそれは、まるで神様の起こした奇跡のようだった。


 そして、砦は元の大きさに戻る。

 いつも通りのヘンテコな猫の顔をした砦に。


「メイド男爵ぅうううう! 大きくて動きましたよぉおおおっ!」


「お師匠様ぁあああっ!」


「感動したのじゃぞーっ!」


「正義は最後に必ず勝ちまス!」


 私の愛すべき四人の領民が砦の中に駆け込んでくる。

 脇腹の傷がまだまだ痛いけれど、私は四人にぎゅうっと抱き着く。

 彼女たちのハグはとても温かくて、少しだけ天にも昇る気持ちがする。

 私はやっと自分が砦と一体化したことを認めてあげられたのかもしれない。


『了解しました』


 すると、呼び出してもいないのに、砦ちゃんの画面が現れた。

 了解しましたって、何!?


 訝しく思う間もなく、ごごっごごごごっと音がする。

 そして。


「う、浮いてますよっ! 大きくて浮かぶものぉおおおっ!」


 私たちの砦は宙にぷかぷかと浮かぶのだった。

 王城の塔よりももっと高い位置まで。

 すっごい高さで足元がすくみそうになるけど、不思議とそこまで怖くない。

 砦の中にいるだけで、何でもやれそうな気持ちになるからだろうか。


 いや、それだけじゃない。


 この4人のバカで最高の仲間たちと、一緒にいるからに違いないっ!


「お師匠様、このまま世界一周はどうでしょうか! 悪い奴を叩きのめす旅に出ましょう!」


 メイメイはこれまた子ども丸出しみたいなことを言い出す。

 正直、そんなにおせっかいを焼きたいわけじゃないけど、旅に出るのかいいアイデアかも。

 飽きたら地面に降りて、歩けばいいし。砦が。


「よぉし、行くよっ! 領地を盛り上げるよっ!」


 こうして私たちの空中要塞はふよふよと宙を浮かぶのだった。

 見聞を広めて、世界で一番の領地を作る。

 私は眼下に広がる見知らぬ土地を眺めて、そう誓うのだった。


 ……てか、これ、降りられるの?


これにてメイドさんのお話はおしまいでございます!

ファンタジーSFを書きたいなぁ、できるだけ短くまとまるのをと言うことで、書いてみました。


と言うか、こちら、もともとは完全なガールズラブのお話だったのです。

話の筋はほとんど同じなのですが、そっちの方も投稿したいと思います。

そっちは完全にゆりゆりなお話で恐縮ですが……。


とにもかくにも、お読みいただきありがとうございました!

あなたに最大限の感謝を込めて!

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