67.メイド男爵、ミミンと最後の戦いに臨む
「国を騒がす逆賊、サラ・クマサーンに告ぐ! 破壊活動を止めて、大人しく投降しろ!」
気づいた時には私たちの砦は完全に包囲されていた。
それはいつぞやの軍服を着た集団、つまり、栄光国の軍隊だった。
「はぁああああ!? なんで私たちが暴れたってことになってるのよ!?」
焼け死ぬかもしれないっていうリスクを背負って山車を止めたっていうのに、ひどい言いがかりである。
褒められこそすれ、怒られるなんて非常に心外だ。
そもそも、栄光国は外国である。
トルカ王国の王都で好き勝手なことをしていいわけがない。
「従わぬ場合、次期国王、スウォルツ・トルカ様の命により、貴様を排除する!」
「んな!?」
しかし、その次の言葉で私の思考はさらに凍り付く。
なんと栄光国を動かしているのは、あの王兄様だと言うではないか。
ご存じ、私を置き去りにしてくれた、憎いあんちくしょうである。
「何言ってるんですか! 私たちは暴走している山車を止めただけですよっ!」
マツはここおいてむしろ冷静だった。
砦の窓から精一杯の大きな声を出して、抗議する。
「何を言っている! ジュピター・ロンド伯爵とともに貴様らは王城の一部を破壊し、王都を破壊した! このガレキの山を見ろっ! 言い逃れは許されぬぞっ!」
あのふざけた服装の女は派手な身振り手振りで演説をする。
彼女の指さす先には確かにがれきの山。
私が砦を操る過程で潰してしまった建物もあるし、踏み台に使った城壁の一部も壊れていた。
ひ、ひぃっ、言い訳が少し苦しい……!
しかし、だよ。
ドラゴンの山車が暴走したのを止めたのは事実なわけで、一緒になって破壊したなんて言われるのは腑に落ちない。
どう反論しようかと思ったものの、向こうはそもそもこちらの話を聞くつもりもないようだ。
百人を超える兵士たちが砦にロープをかけ始めていた。
あいつら、この砦を動けないようにしようっていうわけ!?
「許せませんよっ! 殴って来ましょうよっ!」
「そうですよっ、砦で踏みつぶせばいいんです!」
メイメイとマツは実力行使に出ようと提案する。
しかし、である。
私は気づいていた。
脚を動かそうにも砦からの反応がちっともないのだ。
「すまんのぉ、魔導機関が焼き切れておったぞ」
そして、私の予感を証明するかのようにアクさんが疲れた顔をして現れる。
必死に魔導機関を直していたらしく、顔はススで真っ黒だった。
「よし、反逆者を捕縛せよっ!」
王兄様の声が響き、わらわらと砦に兵士たちが登り始めるのがわかる。
どうやら砦とのシンクロ自体はまだ生きているらしく、肌がちくちくする。
地中に潜ってみようかと試してみるが反応なし。
ひぃいいい。
「マツ、メイメイ、アク、三人はすぐに脱出して! スリングショットを使えば間に合うかもだからっ!」
時間がない中、私は領民を逃がすことを選択する。
今回の王都の破壊は私の責任で行ったものだ。
三人には罪がない。
釈明の場に立つのも私だけで十分だし、責任を背負うのも私の役目だ。
スリングショットでばびゅうんっとぶっ飛べば、なんとか逃げられるかもしれない。
もっとも着地に失敗すれば、命が危ないかもだけど。
「何言ってるんですか! 私は、あなたと一緒に頑張るって決めたんですよっ!」
「メイメイもお師匠様をおいて逃げるなんてできませんっ!」
「ばばも老い先短い所を助けられたんじゃ。運命共同体じゃぞ!」
三人は瞳に涙を浮かべて私に抱き着いてくる。
こいつら、大馬鹿野郎だ。
本当に。
私が三人の背中をぐわしっとやってるときのことだった。
さきほどの軍人とは違う性質の声が聞こえ始める。
「メイド男爵は我々を助けてくれたぞっ!」
「嘘をつくなぁああ!」
「帰れ、ろくでなしの王兄野郎!」
窓から外を眺めた私はぽかんと口を開けてしまう。
王都の市民たちが何十人、いや、何百人と集まって栄光国に抗議を始めたのだ。
いや、抗議どころではない。
石を投げつけて暴発しかねない状況になっていた。
「みなさン、暴力はいけませんヨ! だけど、栄光国は嘘をついてまス! あなた悪い人、国に帰りなさイ!」
「そうだっ! スライム聖女様の言うとおりだっ!」
「栄光国なんか、お呼びじゃねぇぞぉっ!」
「聖女様に従えーっ! 栄光国は帰れーっ!」
王都の市民たちを従えていたのは、まさかのまさか、ポイナだった。
救護に向かった彼女は市民たちを説得したのだろうか。
いや、よぉく見てみると戦闘集団は異様にぬらぬらしている。
きっとポイナのスライムヒーリングに助けられた人たちが自主的に参加しているんだ。
彼らの後ろには巨大なスライムがふよんふよんしている。
どうやらあの子、スライムをでっかくしたらしい。
「な、何を小癪な! 平民どもが! 何がスライム聖女だ、邪教に操られおって!」
さしもの市民たちの抗議に王兄様を始め、兵隊たちもたじろいでしまう。
丸腰の民衆を攻撃することはできないだろう。
「ポイナ、ありがとぉおおおっ!」
私はポイナに最大限の感謝を送る。
彼女を仲間にして本当に良かったよ!
過去の私、グッジョブ!
「スライム聖女だなんて、ポイナ、あんたの夢、かなってるじゃん!」
「ひへへ! ありがとうございまス! ガザシーちゃんも大喜びデス!」
ポイナの声に合わせてスライムはふよんふよん嬉しそうに揺れる。
その目は相変わらず血走っていたけど、あんたは偉いよ。
「かーえーれっ!」
「かーえーれっ!」
民衆たちの声はさらに高まり、「帰れ」コールは王都中に響き渡る。
これで相手が言うことを聞いてくれるだろうと私は少しずつ気分が上向きになるのを感じる。
しかし、わぁあああっという歓声の後、人々の声はぴたりとやんでしまう。
それは王城の城門が開き、ある人物が現れたからだった。
「その通りです! メイド男爵には罪はありませんっ! トルカ王国、現国王、シュトレイン・トルカの名において命じます! 栄光国の軍隊は即刻、出国しなさいっ!」
ひときわ大きな声を張り上げたのは、女王陛下だった。
煌びやかな衣服に身を包んだ彼女はとても美しく、その瞳には凛とした意志が宿っているのが分かる。
なんてありがたいことなんだろうか。
「陛下ぁああああ!」
私にメイド男爵なんてふざけた称号をつけてくれたことはもはやどうでもよくなり、私はただただ尊さに涙を流す。
たかだか男爵風情にここまでしてくれるなんて!
私、一生、ついていきますっ!
「おのれ、ふざけるなぁっ! こんなことで終われるかぁあああっ! こっちは一世一代の大借金をしてここまで来ているのだ! 星神の起動だ!」
感動的なシーンであったにもかかわらず、一人だけ納得していない人物がいた。
それはあのミミンとかいう、ばいんばいんの女だった。
彼女はまるで怨嗟にも似た声をあげて、部下の人たちに何かを命令する。
往生際の悪い奴、と私は思う。
何に執着しているのか知らないけれど、王兄様ともどもいなくなってほしい。
その時の私はそんな風に完全勝利ムードの中にいた。
いや、酔っていたといってもいいかもしれない。
しかし、その勝利の美酒はあっという間に醒めていくのだった。
なぜなら、私たちの目の前に金色の衣を身にまとった、まるで神話にでも出てきそうな巨大な立像が現れたからだ。
その巨像はまるで人間のように滑らかに歩いてくる。
それだけでも私たちは分かった。
さっきまでのドラゴンの山車とはレベルが違うものだと。
◇ スライム聖女、爆誕す ーTHE BEGINNINGー
「メイメイさン、スライムの中に怪我人を入れてくださイッ!」
「任されましタ!」
ジュピターのドラゴンが暴れる中、ポイナは救急作業に臨む。
彼女は建物の一角にスライムを放つと、とある薬物でそれを巨大化させる。
まるでプールほどの大きさになったスライムに、怪我人たちを運び込み始めた。
「ひぃいいい、やめてくれぇええ!」
「助けてくれぇえええ!」
怪我人たちは口々に叫ぶ。
さすがにスライムの中に投げ込まれるのは嫌なのだろう。
しかし、彼ら・彼女らはすぐに理解する。
怪我が治っていくのだ。
ガレキによって骨折した箇所さえ元に戻っていく。
「スライムヒーリングに不可能はありませんヨ!」
高らかに宣言するのはポイナである。
彼女の瞳には自信がみなぎっていた。
「き、奇跡だっ!」
「スライムの奇跡だ!」
「スライム聖女様だ!」
回復した怪我人たちはポイナをあがめるように手を合わせる。
ポイナの背後にはスライムの発光によって後光がさし、神々しい雰囲気を醸し出していた。
ここに後の世の戦乱を癒し続けた、スライム聖女が爆誕したのであった。
【☆★読者の皆様へ お願いがあります★☆】
次のお話で完結です!
引き続き読んで頂きありがとうございます!
ぜひともページ下部の評価欄☆☆☆☆☆から、お好きな★を頂ければ非常に励みになります!
ブックマークもお願いします。
どうかご協力お願いします!
ご感想などもすごく楽しみにしています。
次回もお楽しみに!




