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66.メイド男爵、暴れまわるドラゴンの山車を排除する&ジュピター・ロンド伯爵の末路



「あれ、私たちが倒したドラゴンじゃん……」


 どしゅんどしゅんと砦を操り、現場へと到着した私たちである。

 途中、石垣をぶっ壊したものの巻き込まれた人はいなかったようで一安心。


 現場についた私とマツとメイメイは驚きのあまり目を丸くしてしまう。

 目の前にはドラゴンがいるのだ。

 それも見覚えがある奴が。


「でもでも、首が二つも生えてますよっ! あんなの変です!」


 メイメイにしては珍しく、冷静なツッコミを入れる。

 その通り、眼前のドラゴンは普通ではなかった。

 首がにょきにょきと二つ生えているのだ。

 ちなみに二つとも私たちの倒した、あのドラゴンそっくりなのであるが。


「わかりましたっ! たぶん、私たちが売ったドラゴンの素材を使って山車を作ったんですよっ!」


「ふぅむ、似たもの同士というやつじゃのぉ」


 マツとアクはふむふむと頷いている。

 しかし、私は敢えて言いたい。

 全然、似ていないのである。

 あちらは頭は二つあるもののドラゴンである。

 しかし、こっちは砦に獣の足と猫の口のついた摩訶不思議な生物なのだ。


「あぎゃああああああ!」


 とはいえ、似てる似ていない論争に終始するわけにはいかない。

 目の前のドラゴンは大きな足と尻尾で街を破壊している。

 それどころか、鎮圧に現れた騎士団の皆さんを蹴散らすありさま。


 のっしのっしと女王様のいる王城へと近づいていて、危険極まりない。


「あっ、怪我をしている人がいますヨ!」


 ポイナは騒ぎに巻き込まれて負傷している人たちを発見する。

 市民だけではなく、騎士団の面々も動けなくなっているようだ。


 ぐぅむ、あいつを鎮圧するだけじゃな打て、負傷者を救助するのも必要だよね。


「ポイナ、メイメイ、あんたたちは怪我人の救助を優先して! 私たちはアイツを止めるからっ!」


 ここで私は役割分担を決める。

 ポイナの救護活動に不安はあるけど、ここは彼女を信じるしかない。

 メイメイが一緒にいればガレキに挟まった人を持ち上げられるだろうし。


「任されましタ! ガザシーちゃん、行きますヨ! ぬヒヒ、あの窪地にスライムプールを作りますヨ!」


「頑張ります!」


 二人は私の意図を理解してくれて、ずさぁあっと走っていく。

 ポイナは大きなリュックサックを背負っていたけど、何に使うんだろうか。


「あの、ドラゴン、許さないよっ!」


 ポイナとメイメイが砦の口から降りるのを確認したら、私は砦を急加速させる。


「そぉれっ!」


 マツとアクによって改造された魔導機関はものすごい出来だった。

 私は自己最速の動きでドラゴンに体当たりを食らわせる。

 岩の塊がぶつかってくるわけで、ドラゴンと言えどもひとたまりもないだろう。


 私と砦は連動しているので、私の体もそれなりに痛い。

 だけど、ここで泣き言を言っているわけにはいかない。

 放置するわけにはいかないのだから。


 しかし、ここで驚くべきことが起こる。

 ドラゴンは倒れなかったのだ。


 首をむくりとこちらにむけると、こちらにぐがぁああっと威嚇をして噛みついてくる。


「あっぶなっ!?」


 しかも、小さい方のドラゴンの首はやたらと攻撃的である。

 まるで親の仇を見つけたかのような憎悪を込めて。

 山車の癖に記憶でもあるんだろうか、腹が立つ。

 

「あの山車、凄いですねっ! うちのと同じぐらい高性能ですよっ!」


「ふふふ、なぁに、スピードはこっちのが上じゃ!」


 マツとアクは操縦室に設置してある、様々なボタンやハンドルをポチポチ押す。

 すると、どうしたことだろうか、砦がふしゅこーっと煙を上げてさらに早く動き出すのだ。


「メイド男爵、立体戦法ですっ!」


「飛び回りながら、潰すのじゃ!」


 二人の建てた作戦は早い話がぴょんぴょん飛び回って体当たりというワイルドなものだった。

 そんなんで敵を倒せるのかはさっぱり不明だが、砦ちゃんの武器は出てこない状況だし、やるしかない。

 

「ぬわりゃああああっ!」


 城壁の一角に飛び乗って、ボディアタックを食らわせる。

 決して、かっこいいものじゃないのは重々承知だ。

 だけど、その威力たるや尋常ではない。


 ドラゴンは動きが遅くて、こちらの攻撃に対応できない。

 よっし、このまま勝てるよっ!



 私が心の中で勝利を確信した時のことだった。


 ふしゅこーっと白い煙を上げて砦の動きが止まってしまう。


「あ、オーバーヒートですねっ! ええい、冷やしてきますっ!」


「わしは脚の動きを調整するのじゃ!」


 まさかまさかのアクシデントである。

 私がどんなに体を動かそうともピクリともしない。

 即席の装備のままよくぞ戦ったともいえるけど、このままじゃまずい。


 数秒後、倒れたドラゴンはぬらりと立ち上がる。

 そして、その二つの首はこちらに口をがばりと開く。


「あ、あれは!?」


 私はそれに見覚えがあった。

 そう、ブレスの姿勢である。

 あの時は小さい方のドラゴンのブレス攻撃を受けたのだが、もう少しで砦は再起不能になるところだった。

 大きい方と同時に炎を吐かれたら、私たち、蒸し焼きになってしまうのではないか。


 やばい、やばいっ、これは本格的にやばいっ!


「お師匠様! 怪我している人は大体、救助しましたっ!」


 そんな絶妙なタイミングで砦の中に飛び込んでくるものがいる。 

 メイメイである。

 いや、あんた、外にいた方が安全だったんじゃないの!?


「メイド男爵、動きますぅううう! 回避してくださいっ!」


 どうしようかと焦っていると、マツが高い声を出す。

 確かに脚はなんとか動く。

 よっしゃ、これで蒸し焼きになるのは避けられたっ!

 そんな風に喜んだのも柄の間、私はあることに気づく。


 もし、私たちがブレスを回避したとしても、その背後にある街が炎上してしまうのだ。

 少なくともポイナが救護している人たちや避難するのが遅れた人たちは死んでしまうだろう。


 私たちの逡巡を見抜いたのか、ドラゴンたちの目がにへらと笑う。

 魔物が笑うなんて信じられないことだけど、確かにバカにするかのような目つきになったのだ。

 しかも、小さい方の首はくねくねと首を動かして、すっごいバカにしている態度だ。

 なんなのよ、あれ。


「あの小さいドラゴンの首、私たちのこと、覚えてるんですかね」


「お師匠様の毒キノコでやられた癖に生意気ですよっ!」


 マツとメイメイがこんな時でも憤ってみせる。

 やっぱり彼女たちも私と同じ感想を持ったらしい。

 あの山車はドラゴンの素材を使ったことで、記憶を共有しているとか?

 

 ……それなら!


「みんな、いいアイデアがあるかもっ!」


 ここで起死回生のアイデアが私の頭に浮かんだので皆に伝える。

 それはすれすれのギリギリの方策である。

 正直、成功するかは分からない。


「行きましょう! どっちみち焼け死ぬよりましですっ!」


「ばばもメイド男爵に賭けるぞい!」


「お師匠様についていきますっ!」


 砦にいる三人は私の目を見て、拳を突き出してくる。

 こうなったらやるっきゃないよね。

 私は15秒ほどキッチンで作業する。

 愛情をこめて、精魂を込めて。


 それからはもう腹をくくるしかない!


「ぬわりゃああああっ!!」


 私は脚をジタバタと動かして、ドラゴンの真正面に走っていく。

 その口の中でちらちらと炎が燃えるのが見えるけれど、お構いなしだ。

 

 ドラゴンの首がうねうねと動き、砦に炎を浴びせようと狙いを定めているのが分かる。

 ふふふ、あんたたちの思惑通りにはいかないわよっ!


「メイメイ、お願いっ!」


「そぉれっ!」


 ドラゴンの首が眼前に迫ったタイミングでのことだ。

 メイメイは小さいドラゴンめがけて、あるものを投げつける。

 それは肉の塊、それも毒キノコの挟んだ特別品である!


「ぐぉごががが!?」


 小さい方のドラゴンの首はそれを見るなり首をのけぞらせる。

 その目に移った恐怖の色。

 そう、奴は毒キノコでやっつけられたことを覚えていたのだ。


 その結果、起きたことは二首のドラゴンさえも予想しないことだった。

 大きなドラゴンの口の中に小さいドラゴンの首がずぽっと入ってしまったのだ。

 そして、首を伝ってあふれ出るのは真っ赤なドラゴンのブレスだった。


 どがぁああああああんっ!


 轟音とともにドラゴンの山車は爆発四散した。

 二首ともに吐き出した炎が首を伝って内側まで入っていったのだろうか。

 砦の隣にぼてぼてと落ちてきたドラゴンたちの目は完全に光を失い、空を見上げていた。

 それを見て、私は賭けに勝ったのだと直感する。


「勝ったぁああああ!」


 私はマツに抱き着いて大喜びをする。

 このヘンテコな砦をなんとか操り、王都の混乱を鎮めたのだ!

 にへへ、きっと女王陛下からも褒めてもらえるかもっ!


「だ、男爵、目の前、あれ、やばいですよっ!?」


 しかし、マツの声は震えていた。

 爆発してバラバラになったはずのドラゴンの首がまだ生きていたのだ。

 それは口をがばりと開き、その奥にちらちらと炎を見せる。

 こんな至近距離でブレス攻撃はないでしょうよっ!?


「んなぁあああ!? に、逃げる!? いや、砦を盾にする!?」


 咄嗟のことで完全にパニックになってしまう私。

 そんな時、だだっと奪取したのがマツだった。


「メイメイ、ごめん!」


「ひえぇえ、何するんですか、だわああぁああああ!」


 マツはメイメイの背中に手を入れて、わしゃわしゃと動かす。

 すると、メイメイの口から大量の炎があふれ出て行った。


 その先にはこれから炎を吐きださんとしているドラゴンの口があり、炎を吸い込んだそれは、ふしゅんっとしょんぼりした音を立てて沈黙する。

 なんだかよく分からないが、メイメイの炎がドラゴンを沈黙させたらしい。

 

「ふぅ、メイメイ、お疲れ様でしたねっ!」


「ひぇええ、あんなに炎が出るなんてすごいですねっ! 私!」


 ドラゴンが完全に沈黙したのを見て、マツは額の汗をぬぐう。

 メイメイは公然セクハラを受けたにもかかわらず、何ともないらしい。さすが思春期前だ。


「勝ったよね! もう、完全勝利だよねっ!」


 と、いうわけで!

 私たちはぬわりゃああっと拳を天につきだすのだった。


「よしっ、今だ、捕縛しろっ!」


「何をするのよ、無礼者! 違うのっ、ただ山車が暴走しただけなのっ!」


 砦の周りではわぁぎゃあと誰かが騒ぐ声が聞こえる。

 騒動に便乗してかっぱらいでも起きたのかもしれない。


 何はともあれ、私たちの完全勝利である。

 女王様に色々説明しなきゃいけないことはありそうだけど、いい機会かもしれない。

 この砦がヘンテコなものだっていつかは明かさなきゃいけないわけだし。


 そんなことを呑気に考える私なのであった。

 

 しかし、その数秒後、私たちは混乱の極みへと突き落とされることになる。

 なぜなら、大きな声でこんなことが聞こえてきたからだ。


「国を騒がす逆賊、サラ・クマサーンに告ぐ! 破壊活動を止めて、大人しく投降しろ!」


 よく通るの女の人の声。 

 それは、あの歩くわいせつ物みたいな女の声だった。



◇ ジュピター・ロンド伯爵の末路


「な、なによあれ!?」


 ドラゴンを操り、王都を破壊するジュピター・ロンド伯爵。

 彼女は驚愕していた。

 砦に動物の顔らしきものがくっついた摩訶不思議なものが現れたからだ。


 それは猫のような顔にモフモフとした四肢がくっついており、明らかに人外の相貌だった。

 

「ええい、構わないわっ!邪魔する奴は踏みつぶすのみっ!」


 ジュピターはドラゴンを操り、現れたそれに襲い掛かる。

 砦は素早い動きでジュピターを翻弄する。


 しかし、最後の最後で動きを止めてしまった。


「ふふん、魔導機関か何かを仕込んでるんでしょうけど、おあいにく様。ドラゴニアは伊達じゃないのよっ!」


 ジュピターは留めとばかりに二首のドラゴンにブレスを促す。

 例え石造りの砦と言えど、至近距離からの一撃である。

 それを喰らえばただでは済まないだろう。


 ところが、である。


 砦から投げ出された何かをドラゴンの一匹が避けるようなそぶりをする。

 ジュピターのドラゴニアは生体星神と言い、ドラゴンの素材を組み入れることでよりスムーズに駆動できるようになっていた。

 その結果、星神の内側に本来は備わっていなかったはずのドラゴンの記憶が宿ってしまっていたのだ。


 結果、小さいドラゴンは大きなドラゴンの中に大量のブレスを吐きだす。

 それは大ドラゴンの首を通り、内側の星神の駆動機関を爆発させるのだった。


 ジュピターは命からがら逃げ出したのだが、すぐさま衛兵に取り押さえられた。


「なんで!? なんなのよ、これ!? ふざけんなぁああああ!」


 ジュピターが恨めしく砦を眺めると、その窓にはメイドの姿が見える。

「うそ。あのメイドは!?」


 それは彼女の陰謀によって貴族籍をはく奪された、あのクマサーン伯爵家の娘だった。

 またの名をメイド男爵。


「何をするのよ、無礼者! 違うのっ、ただ山車が暴走しただけなのっ!」


 足腰から力が抜け、愕然とするジュピターを衛兵たちは無理やり立たせようとする。

 ジュピターは言い訳をやかましく騒ぎ立てる。


 しかし、彼女の言葉を聞くものは誰一人いなかった。


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