65.メイド男爵、王都の一大事に駆け付けるっ!
「あははは、なんだあの山車! へーんなのっ!」
「しっ、笑っちゃいけません! 男爵様の山車ですよっ! 殺されるわよ!」
そういうわけで生誕祭当日である。
私たちは猛特訓の甲斐もあって、砦を王都へと運ぶことができた。
いや、運ぶと言ったら語弊がある。
砦が歩いてきたのである。
もう一度、言おう。
砦が歩いてきたのである!
さすがに街道を四足歩行の砦が突っ走ると問題があるので、道なき道をひたすら進んだ。
ベヒーモスの皮を使用しているからか、どんな沼地もへっちゃら。
浅い川ぐらいならじゃぶじゃぶ進むし、最終的にはジャンプぐらいできるようになってしまった。
恐るべきはマツとアクの天才的な頭脳であるとも言えるかもしれない。
二人は空き部屋に操縦室とやらを作り、そこで私と砦をシンクロさせる方法を開発。
詳しい原理はわかんないけど、とにかく私の体との連動をめちゃくちゃな水準にまで引き上げたのだ。
とはいえ、王都に来た私たちを出迎えたのは、歓声と言うよりは嘲笑だった。
他の貴族がキラキラと輝く山車を行進させているのに対して、私たちのはただの岩のかたまりなのだ。
おまけに口と脚もついているし、窓がちょうど目みたいになっているので、どこか珍獣めいている。
しかも、宿の宣伝も兼ねて、「メイドの宿」の看板はそのままなのである。
「あはは、おもしろーい!」
大人は笑わないけれど、正直な子供たちは大爆笑である。
ちっくしょう、こんなことなら笑いに全振りしてやればよかった。
「楽しいです! メイメイはこんな大きなお祭り、初めてです!」
「うふふ、良かったですネ! メイメイ!」
とはいえ、私が憤ってばかりかと言うと、そうでもない。
メイメイをはじめとして、四人の領民の顔には笑顔が宿っていて、それだけでも砦を持ってきた甲斐があったと感じる。
マツとアクは奥の方で魔導機関の調整に明け暮れていて、かなり忙しそうだけど。
まぁ、自業自得ってやつである。
そんな感じに楽しい、楽しい生誕祭が進んでいくはずだったのだのだが、事件が起こる。
どごぉおおんっと轟音が鳴り響き、山車の行進がストップする。
ついで人々の悲鳴が上がり始める。
「ひぃいい、ドラゴンだ!」
「逃げろぉおおおっ!」
砦の窓から外を眺めると、前方の空が赤く光っている。
それどころかどおおおっん、どぉおおんっと爆音さえも鳴り響くではないか。
いったいこれはどうしたことだろうか!?
「ロンド伯爵の山車が暴走してるらしいぞ!?」
「いや、反乱が起きているんじゃないのか!?」
警備兵らしき人たちが前方へと集まっていく。
王都の市民たちは野次馬のように道端へ出てきて、辺りはさらに混雑していく。
「街が破壊されて、王城にも迫っているぞ!」
「化け物だ、あの山車は!」
人々は何事かをわぁわぁ叫んでいて、何が本当なのか分からない。
わかっているのは、誰かの山車が暴れているっていうことらしい。
それも尋常じゃなく。
ぐぅむ、山車っていうのは人力で動かすものである。
それが暴れるなんてことがあるだろうか。
「あ、魔導機関が暴走っていう手もありましたね。私としたことが何たる失敗」
「先を越されてしまったのぉ!」
マツとアクの頭おかしい二人はとんでもないことを言い出すが、ここで私はピンとくる。
魔導機関入りの山車を持ってきた貴族が他にもいたのである。
なるほどぉ、制御できなくなって困っているのだろう。
聞けば、街を壊すなどとかなりまずい状況になっているとのこと。
「メイド男爵、ここは一つ私たちの出番ですよっ!」
「せっかく砦を持ってきたのじゃし、やつを鎮圧すべしじゃ!」
マツとアクの二人は騒ぎを鎮めるべきだと主張する。
言いたいことは分かるのだが、目の前の道は山車と人だかりで大渋滞だ。
押しのけていけるほどのスペースもない。
私たちは黙って眺めているぐらいしかできないではないか。
「大丈夫ですよっ! この道には結構、大きな建物があります! あの上をジャンプしていけば!」
「強度的にギリ行けるじゃろうて!」
「は?」
ここで二人が主張するのは大通りの家の屋上を伝っていくという、非常にアクロバットなやり方だった。
常軌を逸しているというか、やばい発想である。
そしたら、この砦が普通じゃないってバレちゃうでしょうが!
「ひぃいい、怪我人も出てるらしいぞっ!」
「市民は避難しろっ! 危険だっ!」
そうこうするうちに事態は急展開。
どうやら暴れている山車は未だに収拾がついておらず、怪我人さえも出ているという。
ここで私は頭の中で二つのことを天秤にかける。
現場に駆けつけて騒ぎを収めることと、騒ぎを傍観して怪我人を放っておくこと。
どっちを選ぶかと問われたら、答えは決まってるよね。
「よぉし、行くよっ! せっかくトレーニングしたんだし、やるっきゃないよっ!」
私はぐっと脚に力を入れて、目標までを眺める。
強度のありそうな建物を見繕い、最短ルートを割り出す。
そして、跳ぶのだっ!
「とぉりゃあああっ!」
とんでもない重さの砦が、今、宙を舞う。
四足歩行のそれはまるで猫のように軽やかにジャンプしていくのだった。
待っててね、今すぐ、私が鎮圧するからっ!
◇ジュピター・ロンド伯爵の野望
「あーっ、はっはっはっ! なんてチョロいのかしら! こんなことなら早く攻めて落としてあげればよかったわ!」
ジュピター・ロンドは大きな声で笑う。
彼女の操る星神ドラゴニアは騎士団の兵舎を急襲し、甚大な被害をもたらしたのだった。
トルカ王国の騎士団は決して弱兵ではなかった。
しかし、街の中に現れたドラゴンに手も足も出ないのだ。
剣で切り付けても傷一つつかない。
それどころか魔導砲と呼ばれる最新鋭の武器を使っても、かすり傷を追うだけなのである。
戦場と化した街には気をよくしたジュピター・ロンド伯爵の笑い声が響く。
騎士団や市民たちはその様子を絶望に満ちた瞳で見つめるのだった。
ジュピター・ロンドは野望が果たされることを確信する。
しかし、彼女は知らない。
摩訶不思議な砦が彼女のドラゴンに迫っていることを。
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