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62.メイド男爵、砦が出来上がったものの、なんですかこれ






「メイド男爵、おばあちゃんとなら組み立てができますよっ!」


 化け物を撃退した次の日のことだ。

 マツが大喜びしながら寝室に駆け込んできた。

 私はまだパジャマ姿である。


 朝からにぎやかだね、あんたは。


「はぇ? なにが?」


 組み立てだなんだと言われても、何のことか分からない。

 眠い目をこすりこすりして、背伸びをする。


「だから、魔導機関ですよっ! そもそも、それの組み立てのために国に帰ったんじゃないですかっ!」


「あ、忘れてた。いやぁ、昨日は化け物退治で忙しかったしさぁ」


 マツが何に興奮しているのか、私はやっと理解する。

 そういえばマツが大枚をはたいて買った謎の魔道具はそのままにしていたのだ。

 

「そうそう、昨日の魔獣の素材、使ってもいいですか?」


「ふぁああ、いいよ。別に何でも使っちゃって」


 私はというと、まだまだ生返事である。

 朝日がやっと登ったころだろうし、すっごく眠い。


「ありがとうございます! 私たち、朝ごはんまで頑張ります!」


 マツはそれだけ言うと、ぴゅぴゅーいと走り去ってしまう。

 ご苦労なことである。


 二度寝の惰眠に浸りたいっていう気持ちもあるけど、領民を支えてあげるのも領主の務め。

 私はメイド服に着替えて、キッチンへと向かうのだった。

 領民に朝ご飯を作る領主っているのだろうか。

 まぁいいか、お料理好きだし。


「メイメイ、こっちに持ってきてください!」


「はぁい! ただいま!」


 沢山の部品をテキパキと配置する様子を眺めながら、私は温かい気持ちになる。

 自分の持っている能力を発揮するのって楽しいことだよね。



「メイド男爵、できましたよっ!」


 その数日後、マツとアクさんの二人の才能が見事に合流することになる。

 不吉な音を立てて、それが出来上がったのである。


「な、なにこれ!?」


 砦を見上げながら私の顔は驚愕に歪む。

 それは私が見てきた砦ではなかった。


 脚が生えているのである。

 左右につきだした脚はまるで獣のようで、もふもふと毛が生えている。

 無機質な砦に獣の脚である。

 正直、子供が見たら泣くのではないか。


「お師匠様、見てくださいっ! この脚、もふもふですよっ! アクみたいです!」


 メイメイは笑顔でその脚にじゃれついているが、確かにアクさんの四肢によく似ていた。


「この間のベヒーモスの皮をつかったんですよっ! 防御力がすごいんですよ!」


「ぬはは、面白い素材じゃのぉ!」


 マツとアクさんは大喜びである。

 ええと、ちょっと整理していいかな。

 サイズ的にはぴったりだと思うけど、普通、建物に脚を生やす?

 それも、もふもふの。


 しかも、驚くべきなのは砦の四肢だけではなかった。


「メイド男爵、出入口がよりスマートになりましたっ!」


 マツはぴょんぴょん飛び跳ねながら、私の名前を呼ぶ。

 その先にあったもの、それは、口だった。

 砦に口が生えているのだ。


 これまた獣の口である。

 猫っぽい口であり、ヒゲが生えていた。

 可愛いデザインの割にギザギザの牙がびっしり生えていて怖い。

 まさか砦が噛みつくんじゃないよね。


 砦の窓が二つあるのも相まって、獣の顔が砦にくっついているように思える。

 なんつぅ悪趣味なデザイン。


「な、な、なにこれ!?」


 魔導機関とやらをインストールしたらこんなことになるのか。

 それともマツとアクさんの二人の禍々しい頭脳によって、こんなことになったのか。


「これもベヒーモスの素材を活用しましたよっ!」


「歯がピカピカじゃのぉ!」


 二人は舞い踊りながら、悪夢のようなデコレーションを紹介してくれる。

 そもそも、先日、おばあさんが幼女になっただけでも驚愕したっていうのに。

 砦が悪魔の所業のような感じで改造されてしまった。


「ハイカラじゃのぉ」


 アクさんはニコニコしているが、ハイカラとかそういう次元じゃないでしょ、これ。

 砦に脚を生やすとか言うマツの野望は果たされたけども、こんなの何に使うんだろうか、一抹の不安を感じざるを得ない私なのであった。


「あ、あのぉ、メイド男爵、うちのおばあちゃんも領民にして欲しいんですけど。あんなふうになったら実家に戻れないと思いますし」


 私が愕然としていると、マツは不安そうにそんなことを言い出す。

 そんなの返事は決まってるじゃん。

 そもそも、砦のメンテナンスとか色々あるだろうし、勝手に帰られたら困る。


「もっちろんだよ! アクさん、ようこそ、私たちの砦に!」


 そんなわけで私はアクさんとがっちり握手をする。

 彼女の平は肉球がぷにぷにしていて、たいそう気持ちよかった。


「ぬはは、これから世話になるのぉ。ばばも若返ったことだし、アクさんではなく、アクとお呼びくだされ、領主様。これから心機一転、頑張るぞい」


 アクさん、もとい、アクは殊勝なことを言ってくれる。

 確かに彼女は生まれ変わった。

 なんて言うか、キメラっていうか、よくわかんない美少女に。


「ふふ、よろしくね、アク」


「よろしくです、アク!」


「おばあちゃん、よかったね!」


 私がアクさんの手を両手で握ると、メイメイやマツも加わってくる。

 マツは感動のあまりアクに抱きついて喜ぶ。

 

 私はすっかり様変わりした砦を見上げて、いよいよ、領主生活が始まるのだと確信するのだった。


「とまぁ、それはそうとして!」


「領民ボーナスですよねっ!」


 そう、大切なのは領民ボーナス、簡単に言えば、プリンのご登場である。

 ぬはは、前回は研究室とやらに費やしてしまったのだ。

 ここで手に入れなきゃ話にならない。


 そんなわけで私は例の画面を呼び出すと、こんな風に表示される。



 ぐぅむ、こんなことになって私の砦ちゃんは怒ってはいないだろうか。

 私はとりあえず画面を呼び出してみることにした。


---------------------------------------------------------------


【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】 


 ランク:トリデンメイデン(ケモ戦車)

 素材:頑丈な岩

 領主:サラ・クマサーン

 領民:4

 武器:なし

 防具:なし

 特殊:リボン・ヘッドドレス・ドラゴンタトゥー・魔導機関

 シンクロ率:20%


※プリン・ア・ラ・モードをお出しできます。召し上がりますか?


---------------------------------------------------------------



「ケモ戦車……」


 なるほど、あの脚の生えた砦ってそんな風に表現するのか。

 不本意にも感心してしまう私である。

 とはいえ、今さら脚を引っこ抜けとは言えないわけで、私は別の部分に注目する。

 そう、プリンアラモードの文字だ。

 これが一体何を意味しているのか、それはさっぱりわからない。


 だけど、だけど!


 とにかく一つだけ言えるのは、プリンの仲間であるっていうことだ。


「キッチンにレッツゴー!」


 そんなわけで私たちはキッチンへとひた走るのだった。

 未知なる美味を求めて!




「キラキラしてるよぉおおお!」


 キッチンに向かった私たちは一斉に悲鳴ともつかない歓声をあげる。

 目の前にはまるでお姫様が食べるかのような、見事な器に乗ったプリンが用意されていたのだ。

 ふるふるのプリンに加えて、見たことのないフルーツ。

 それにまるで雲のような形をしたものまで。


「こ、これ見たことないですねっ!」


「いっただきまぁす!」


 マツとメイメイは怖いもの知らずである。

 二人はその真っ白い雲のようなお菓子にスプーンをさすと、それをすくって口に入れる。


「冷たい! でも、甘くて美味しい!」


「口の中がとろけますぅ!」


 二人は口を押えて目を丸くする。

 冷たいお菓子なんて食べたことがないよ。


「こ、これは!?」


 私ももちろん、絶句してしまう。

 冷たくて甘いお菓子なのである。

 口の中にミルクの香りが広がることから、牛乳の加工品であることはわかる。

 しかし、どうやって冷たくするんだろう。


「ふぅむ、これは氷結の魔導技術を応用したものじゃろうな。ばばも初めて食べたぞい」


 アクは冷たいお菓子を口に含むと、しみじみと分析を始める。

 顔は完全に幼女なのだが、頭はおばあさんのままなのはちょっと混乱してしまう。


「ふぅむ、おばあちゃん、これ、私、作りたいですよ!」


「ばばもじゃ! よぉし、この砦をもっと便利なものにしていくぞい!」


 マツとアクはうんうんと頷き合って、プリンを食べる。

 もちろん、私たちも美味しくプリンアラモードを食べつくすのだった。



 ちなみにポイナはプリンを一口食べて以降、ずっと無口だった。

 おしゃべりな彼女にしては珍しいなと思ったら、本当においしいものを食べるときには無口になるとのこと。

 なるほど。




◇ ジュピター・ロンド、アレを手に入れる



「よく、来てくれた、ジュピター君!」


 ここは栄光国の魔導機関研究所。

 国家の叡智の粋を極めた魔導技術が集まる場所である。


 その一角でジュピターを待ち構えていたのは、ミミン・ミドガル・ミドガルドだ。

 いつものようにタイトな軍服を着こなし、ジュピターの精神をちくちくと刺激する。


「いよいよですのね、ミミン様!」


 もっとも、今のジュピターにミミンを疎ましく思う気持ちはほとんどない。

 彼女は実際、感謝していた。

 ミミンが作り出していたものが完成したからだ。


「紹介しようじゃないか、星神のドラゴニア! 君の乗る化け物だよ!」

 

 ミミンがばばっと両手を広げると、配下のものたちが布を一斉に引き剝がす。

 そして、現れたのは巨大な体躯をした双頭のドラゴンだった。


「す、すごいです! ミミン様、私、生まれて初めて、あなたを尊敬しました! いえ、その、ありがとうございますぅうう!」


 感激のあまりミミンの手をとってしまう、ジュピターである。

 ほんのちょっと本音が漏れるが、ミミンは気にしていないようだ。

 大雑把な性格なのである。


「君がドラゴンの素材を持ってきたのには驚いたけど、まさかこれが狙いだったとはねぇ。いやいや、恐れ入ったよ」


 ミミンはドラゴンの足元へ向かうと、その解説を始める。

 ラプタン時代に開発された魔導技術を応用した、星神のドラゴニア。

 原型となったアースドラゴンの数倍の出力を誇り、そのブレスは天をも焦がす。

 凶悪無比な外見そのものの性能だった。


「ふふ、これであの女王を屈服させて見せます。私が勝利した暁には、後始末をお願いいたします」


「心得た。後のことは私たちに任せて君は大暴れしてくれたまえ」


 二人はがっちりと握手をして別れる。

 ジュピターはほくそ笑む。

 帰国後、これを使って王室を転覆することを。 


「ふふん、ジュピター君、私をはめようとしてくれたことバレてるんだよね」


 しかし、ミミンは静かに笑う。

 ジュピターは知らなかった。

 ミミンがここで何を画策しているのかを。


 ジュピターが帰国したのち、ミミンもまた動き出す。

 こうして、トルカ王国は波乱の渦へと引き込まれていくのだった。




【☆★読者の皆様へ お願いがあります★☆】


これにてエンジニア獲得編は完結です!

いよいよ、最終章の始まりです。


引き続き読んで頂きありがとうございます!

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