63.メイド男爵、女王陛下の生誕祭に行くよっ!
「お師匠様、今日も商人さんが来ましたよっ!」
アクが領地に加わってから1週間ほどがたち、私たちの砦は大きく様変わりしていた。
一番大きな違いはなんと言っても商人さん!
遠路はるばる私の砦まで取引にやってきてくれたのだ。
メイメイが狩った魔獣の素材や、ポイナが集めてくれた薬草、彼女いわく毒草じゃないもの、を取引することができるようになった。
しかも、彼らは私たちのメイドの宿に泊まってくれるのだ。
くひひ、貴重な現金収入ゲットである。
先日の魔物の毒も浄化したし、あとしばらくすればこの砦の周辺に人が家を建て始めるかもしれない。
私たちの手元にはたっぷりの小麦や大麦、それから卵に砂糖も届いた。
ひへへ、これでプリンづくりにチャレンジできるかもしれない。
「メイド男爵、あなたを信じて良かったです!」
「何だかわからんが、めでたいのぉ!」
マツとアクという二人の魔道具エンジニアのために追加で魔道具を買ってあげた。
何を買うかは二人が決めるわけだけど、砦をもっと充実させるとのこと。
一抹の不安はあるけどどんなものになるか、すっごく楽しみ。
「やったぁあ! お師匠様、見てください!」
メイメイは格闘用の武具を手に入れて大喜びしている。
本当はメイドのお掃除セットも買ってあげたのだけど、そっちのが嬉しいらしい。
「やったぁア! これがあればもっとガザシーちゃんを大きくできますよ!」
ポイナは商人さんが持ってきた怪しげな薬を手に取って大喜びである。
彼女のスライムは現状でもかなりの大きさのはず。
あれ以上、大きくしてどうするのだろうか。
「えっ、私の毒が売れなイ!? どういうことですカ!? えっ、薬を作れですっテ!? そんな役に立たないモノ、どうして作んなきゃいけないんですカ!?」
とはいえ、万事OKというわけでもない。
ポイナは自作の毒が売れないということで商人さんに腹を立てている。
話していることはめちゃくちゃだし、そもそも毒の使い道は限られている。
それこそ、暗殺組織にでも売らなきゃ難しいだろうし。
とまぁ、みんなそれなりに喜んでいるわけであり、私はそれがちょっとした自慢なのだった。
「うふふ、私たちからメイド男爵にプレゼントがあるんです!」
「お師匠様にぴったりのものですよっ!」
四人はニコニコしながら、私のところにやってくる。
ぐぅむ、こいつらは一癖も二癖もある変人ぞろいである。
また変なことを思ってなきゃいいけど。
私は彼女たちからプレゼントの箱を受け取って、それを開ける。
「は、はたき棒だぁっ! すごいっ、金ぴかでかっこいい!」
そこにあったのはいかにも高級そうなしつらえをしたハタキ棒だった。
マツいわく、オリハルコンとかいう高級素材を使っているとのこと。
「メイド男爵がいつまでも王兄って人のハタキ棒を使ってるのは変だと思いまして!」
四人を代表して、マツがプレゼントの経緯を教えてくれる。
「すっごく嬉しいよっ! 大事に使うよっ! ありがとうっ!」
私はみんなに抱き着いてしまうのだった。
この子たちもいいところ、あるじゃん!
領民が少しずつ増えて、領地が少しずつよくなっていく。
これこそが私の夢見ていた、領主ライフだよ!
後は素敵な殿方が現れたりしてさぁ!
もしくは女王陛下が領地にいらっしゃるとかも素敵!
あの美人様にもう一度、褒めれたい!
「あ、そうそう。領主様にお手紙が来てました!」
そうこうするうちに商人さんが私に手紙を差し出してくる。
なんでもこの領地に行くのなら渡してほしいと、ギルドから頼まれたそうだ。
差出人は……。
「じょ、女王陛下!?」
煌びやかな装いのお手紙だなぁと思っていたが、まさかまさか、差出人は女王陛下様だった。
まさか、こんな辺境の一男爵に直筆の手紙ではないとは思うけどありがたいことだ。
私はさっそくそれを開いてみることにした。
ふわぁっと香水のいい匂い。
ふぅむ、あの麗しき女王陛下もきっとこんな香りがするのだろう。
『サラ・クマサーン男爵へ 領地繁栄のために奮闘しているとのこと、嬉しく思います。来月、生誕祭があるので王都にいらっしゃい』
手紙にはこんな感じのことが書かれていた。
生誕祭というのは女王陛下の誕生日を祝う、国民のお祭りのことである。
王都中が花で満たされ、市民の山車が練り歩き、人々が女王陛下の誕生を祝うのだ。
もちろん、トルカ王国の貴族たちもこぞって女王陛下に挨拶をする。
「くふふ、ついに私も顔見せってわけね」
思えば先日の謁見の際には、胡散臭いメイド男爵みたいな感じで白眼視された。
しかし、今度は女王陛下からの直々の招待だ。
中央の貴族に顔を売ってあげようじゃないの。
あわよくば、うちの領地に投資をしてもらったりして、ぐふふ。
見える、見えるよっ!
この領地がどんどん発展していく様子が!
「よぉし、私たちもこの領地に磨きをかけるよっ! 美味しいものとか献上しよう!」
女王陛下の生誕祭に向けて、ワクワクする私なのであった。
プリンの作り方をマスターするのはどうだろうか。
王都にないお菓子だし、きっと流行ると思うよ。
くふふ、もうこれでたかがメイドとは言わせないよっ!
◇
「メイド男爵、どうせなら、この砦を山車にしましょうよっ!」
生誕祭に向けて、どんな贈り物を用意しようかと思っていたら、マツが珍妙な提案をしてくる。
「この砦を山車にする?」
想像の斜め上の提案過ぎて、頭に大きなクエスチョンマークが浮かぶ。
確かに有力貴族の中には豪奢な山車を作って、女王陛下を喜ばせることもある。
その中には魔獣の姿をした山車や英雄の姿をした山車もあるにはある。
しかし、だよ。
領地そのものを持ってくるっていうのは前代未聞である。
そもそも、うちの砦って脚が生えてるし、車じゃないし。
「それはええアイデアじゃのぉ。ティーヌは本当に頭がいいのぉ」
「なんだか面白そうですよっ!」
「私も砦に乗って動けるナラ、それがいいでス! 歩くの嫌いでス!」
領民である三人は賛成の様子だ。
アクはともかく、メイメイとポイナは真面目に考えてない気もする。
「とはいっても、動かないでしょ? こんなの」
この子たち、分かってるのかな。
山車って言うのは大勢の人間が引っ張って動かすものなのである。
いくら飾りの脚が生えているとはいえ、砦が動くわけでもあるまい。
「へ? 動きますよ? ねぇ、おばあちゃん」
「そりゃあ、動くわいのぉ」
マツはきょとんとした表情でそう答えた。
さも、当然といった顔であり、私の反論は秒でストップさせられたわけだ。
「は、はぁ!? 動く!? これ、動くの!? うっそぉおお!?」
「論より証拠ってね、ぽちっとな」
私が微妙な顔をしていると、マツは懐から四角い箱を取り出す。
後で聞いたところによると、魔道具で砦をコントロールするものらしい。
そこにはボタンらしきものがついていて、彼女がそれを触ると砦の脚に力が入る。
そして。
「も、持ちあがったぁああ!」
そう、持ち上がったのである。
二階建ての重い砦が獣の脚によってぐいっとあげられている。
「ふふふ、これで終わりませんよぉおお!」
マツはそう言うと今度は十字型のボタンを押す。
い、嫌な予感しかしない……!
「ひ、ひぃいいいい!?」
砦はずがががががががなどと音を立てて、近くの林へと突っ込み、木々をなぎ倒して止まった。
危険極まりない、もはや凶器である。
今日は商人さんが来てなくて本当に良かった。
もし、来てたら大変なことになってたよ。
たぶん、一目散に引き返して、もう二度と現れないだろう。
「にひひひ、大きくて、動く! 大きくて動きますよぉオオオ!」
マツは頭がおかしくなったかのように笑う。
いや、多少、おかしいのは知ってたけど、こんなもの作りやがるとは。
「ふぅむ、制御が今一つじゃのぉ。やはり、直進しかできないのは雑じゃのぉ」
化け物みたいなのを作ったわりに、アクは平然としている。
この人はこの人でどこかおかしい。
マツが興奮しながら変なものを作るとしたら、アクは冷静に変なものを作るタイプ。
どっちにしろ始末に負えない。
更にである、実を言うと私の身にも異変が起こっていたのである。
なんと砦が直進するとき、私もまたその場足踏みをしていたのだ。
砦と私が連動しているのは知っていたけど、こんなのあり!?
試しに私がその場で足踏みをすると、砦は脚をもにょもにょと動かす。
いかにも生物的な動きで、かなり不気味。
「なるほど、メイド男爵とのシンクロを応用すればカーブで曲がれるかもしれませんね」
「やるっきゃないのぉ! それなら操縦室を作るぞい!」
「それですよっ!」
マツとアクの目が怪しく光る。
「ひぃいいい」
こうして私は生誕祭までに無謀なトレーニングを受けるのだった。
すべては最高の山車を女王陛下に披露するために!
あれ? こんなの山車っていうの?
◇ ジュピター・ロンド伯爵、待ち構えるっ!
「伯爵さま、会場にドラゴニアの手配を完了しましたっ!」
「市中に騎士団を紛れ込ませております!」
「これで王都は陥落します!」
ジュピター・ロンド伯爵配下の兵士たちは着々と準備を進めていた。
それはロンド伯爵家一世一代の王権奪取計画。
「まさか連中も山車の中に本物のドラゴンがいるだなんて気づかないわ!」
女王の生誕祭が迫る中、ジュピター・ロンドはほくそ笑む。
彼女が見上げるのは双頭のドラゴン、いや、ドラゴンをもとにした星神と呼ばれる超古代兵器。
破壊の時間が始まろうとしていた。
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お読みいただき、ありがとうございました!
いよいよ、最終章のスタートです。
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