60.メイド男爵、アクさんの変貌に絶句する
「ほぉおおお、これがラプタンか、長生きはしてみるもんじゃのぉ!」
砦についたら、あらびっくり。
箱の中にいた、マツのおばあさん(?)が若返っていたのである。
いや、とてもじゃないけどおばあさんなんて呼べない。
なんせ、私よりも小さいぐらいなのだから。
確か名前はアク・ノ・サイエン・ティストだから、アクさんって呼ぼう。
「おばあちゃんがメイメイと同じぐらいになっちゃいましたよっ! どういうこと!?」
アクさんは完全なる子供になってしまったのだった。
見かけ年齢だと八歳かそこらだろうか。
正直、メイメイといい勝負である。
しかも、彼女はただ若返ったわけではなかった。
四肢がケモノなのである。
手足にもふもふと毛が生えていて、手にはぷにぷにの肉球がある。
胴体と顔は上半身は普通の人間っぽいのだが、獣人の人たちは尻尾とかケモミミぐらいしか特徴がないことを考えると、よっぽどケモノっぽい。
「どういうこと、これ!?」
「ふぅム、スライムヒーリングと色んな素材が合体したみたいですネ! 若返ったのは副作用かもしれまセン。思いつきで珍しい素材を言ってみたんですケド、まさか全部あるなんテ!」
ポイナはいつになく真剣な表情だが、言ってることはまともじゃない。
何よ、その思い付きで言ってみたって!?
それが全部そろってるのもおかしいと思うけど。
「本当は頭がスライムの中にぷかぷか浮かんでるスタイルになるのかなって思ってましたけド、まさかこういう風に回復するんですネ! ポイナ、驚きでス!」
ふんふんと深く頷いて、まさに気づきを得たりといった風情のポイナである。
私はとりあえず安堵する。
どう考えても、スライムの中に頭が浮かんでるのはやばい。絵面的にも。
「何だかよくわかんないですけど、奇跡ですね! さすがはお師匠様です! アクさんの腕で、もふもふしてて気持ちいいですよ!」
メイメイは何が嬉しいのか分からんないけど、ぴょんぴょん飛び回る。
っていうか、いつの間にか私の手柄になってしまっている。
いや、これ、お手柄って言う言葉で済ませて大丈夫なの?
倫理的に問題とかないの?
「ポイナ、ありがとうございますぅうう! おばあちゃんを助けてくれて! キメラっぽくてかっこいいです!」
マツはアクさんが一命をとりとめたことに気づいて、ポイナに抱き着いて喜んでくれる。
言いたいことは分かる。
分かるけど、大丈夫なの、それ!?
合成獣って言っちゃってるし。
「ぬぉおお、今、気づいたぞい。まぁ、よいよい。人間が生きていれば色々あるもんじゃ。ばばの体よりも今はラプタンじゃ。ぬはは!」
アクさんは自分の体が改造されたことについて、別段気にしている様子はないらしい。
朝起きたら若返って、手足が獣仕様になっていたらキレると思うし、普通に生活してても起こるようなことじゃない。
とまぁ、先ほどから驚いてばかりの私であるが、アクさんが助かったことは素直に嬉しかった。
悲しそうにしているマツには耐えられないし。
「それじゃ、おばあちゃん、案内するねっ!」
「楽しみなのじゃ! ぬはは」
マツは年下の祖母を連れて、砦へと突入していく。
しかも、アクさんは二足歩行になれないのか四足歩行になったりもする。
何か間違っている気もするけど、まぁ、いいか。
◇
「ふぅ、とりあえず元気になってよかったねぇ」
マツがわーきゃー言いながら案内している時のことである。
私はのんびりとお茶の準備をしていた。
先日、王都で購入したティーセットをお披露目するチャンスである。
くふふ、こういうちょっとした贅沢ができるようになったのよねぇ。
クッキーも焼いちゃおうかなぁ。
「お、お、お師匠様ぁあああ!」
そんな風に我が世の春を謳歌しようとしていたら、メイメイがキッチンに駆け込んできた。
おいおい、ちょっと気が早すぎるんじゃないかい、メイメイ。
お茶の準備にはそれなりの時間がかかるんだよ。
「そ、外に! いいから、屋上に出てください!」
メイメイは私の手を取ると、ぐいんと引っ張る。
その行く先は屋上だった。
今日もクマサーン男爵領の素晴らしい旗がはためいている、そんな気持ちのいい屋上のはずなのだが。
「な、なにあれ!?」
私が目にしたのは、そんな清々しい光景ではなかった。
銀色の体毛を持ったモンスター、それもドラゴン並みに大きいのが現れていたのだ。
牛を巨大にした感じで角が日本生えているが、顔はドラゴンみたいに凶悪だ。
だらだらと涎を垂らしているのが怖い。
「ほほぉ、こりゃあ、シルバーベヒーモスじゃのぉ」
「なかなかに大きくて動きますねぇ! ぬはははーっ!」
いつの間にか登って来たのか、マツとアクさんはその魔物を見て一言。
シルバーベヒーモスなんて私、知らない。
知らないけど、あの面構えから言って、お友達になりに来たわけじゃないって言うのは分かる。
「メイド男爵、防衛戦開始ですよっ!」
「ま、またなのぉおお!?」
せっかく平和な日々が戻ってきたと思ったのに、くらくらする。
うぅうう、ちっくしょう。
絶対にやっつけてやるんだからっ!
……あれ?
武器とかなくない?
こんな時はアレである。
「砦ちゃん、潜って!」
そう、地中に潜ってやり過ごすっ!
別に私はモンスターをやっつける必要はないのだ。
平和主義の私にはぴったりの能力だよね、これ。
私の命令に従って、砦は地中に潜る。
後はお茶でも飲んでいようかなとしていると、マツが怪訝な顔をしてやってくる。
「男爵、なんか嫌な予感しますけど……。画面を見てくださいよ」
「まじかいな」
起きて欲しくないことが起きていたのだ。
なんとあのシルバーベヒーモスとかいう化け物が砦の真上を掘り始めたのだ。
あいつは牛にそっくりな化け物で角がにょきっと生えている。
それを器用に使って、土をどんどん掘っていく。
「ベヒーモスは貪欲じゃから見つかったら、食われるじゃろうのぉ」
アクさんは何が嬉しいのか、くふふと笑う。
いやいや、笑ってる場合じゃないってば。
こりゃあもう、対策を講じなければ!
「砦ちゃん、ステータスオープンっ!」
そう、ここで私は思い出したのだ。
困った時の砦ちゃんである。
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【サラ男爵の砦ちゃんのステータス】
ランク:トリデンメイデン(最下級+)
素材:頑丈な岩
領主:サラ・クマサーン
領民:2
武器:なし
防具:なし
特殊:リボン・ヘッドドレス・ドラゴンタトゥー
シンクロ率:15%
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「変化、なしだ……」
期待を込めて見つめてみたものの、砦ちゃんのステータスは以前のままだった。
そりゃそうだ、私たちはしばらく留守にしていたのだ。
正直、砦のために貢献したことはなに一つない。
うぅう、こうなったら自力で撃退するしかないよ。
「そうだ! 頭上のあいつに砦で頭突きを食らわせればいいじゃないですか! 頭突きは下手な蹴りよりも強いんですよ!」
メイメイはぴょんぴょん飛び跳ねながら、砦自身を使った攻撃を提案してくる。
確かに一理ある。
謎の兵器に頼るよりも、どどんと体当たりをした方が強いかもしれない。
「よぉし、それならいっちょぶちかましてあげようか!」
私は画面に映る牛の化け物を睨みつける。
そして、砦ちゃんに大声で号令をかけるのだった。
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