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夜になってもマサモリ達は走り続けた。すると町が見えてきた。マサモリは町に入るのかと思ったがヒデヤスはそのまま大きく迂回して東を目指した。今夜も昨日と同様に野宿になった。
それには理由があった。宿に泊まった方が危険な場合があるのだ。普段見かけないような客が宿に泊まると宿屋の店主や町の盗賊が襲ってくるのだ。
部屋に毒を撒かれたり、天井から毒針が降ってきたり、床が外れて落とし穴に落とされたり、寝ている所に忍び込んで殺されたりする。
気配を察知出来るのだがまず多くの人が殺気を帯びているので自分を狙っているのか分かりにくい。宿に泊まると人が近付いて来ても敵なのか客なのか分からないの一番の問題点だ。
殺されそうになったから反撃したら町全部が敵になったなんて場合もあるそうだ。なるほどと思ったと同時に宿が不潔すぎて泊まらなくてもいいやとマサモリは思った。
野外でテントも張らずにそのまま寝るのも中々ない体験だ。普段だったら結界を張るが魔力の節約と目立つのを避ける為に使っていない。マサモリはなんか野性的なキャンプみたいで楽しいと思った。
マサモリもシラギクも肝が太いのかどうなのか分からないが吹きっ晒しの状態でも特に問題なく眠った。ヒデヤスは幼い二人が超大陸での行動についてどういう反応をするか少し心配していたが二人の図太さに逆に溜息が漏れた。
そんなヒデヤスを同行者達は笑った。この二人って大物感あるよねと言われたヒデヤスは今後の事を考えて胃が痛くなった。
マサモリが目を覚ますと太陽が昇る時間になっていた。背伸びをしてから柔軟体操をする。大人達は交代制で見張りをしているようだ。シラギクは、にやけた顔のまま眠っている。
するとシラギクの服の中から栗鼠がひょっこりと顔を出してきた。昨日テイムした栗鼠をそのまま連れてきたようだ。マサモリも昨日使った木の葉を大事に懐にしまっている。
普段だったら使い捨て出来たが魔力の回復が制限される超大陸ではそんな勿体ない事は出来ない。栗鼠は辺りを見回しながらも木に登っていった。しばらくすると大人達が小さな野鳥を片手に集まって来た。
鳥を獲る数も控えめにしているので一人に付き三口分くらいの量しかない。マサモリは全然足りないので骨までボリボリと食べた。超大陸の良い所は食べ物が柔らかい所だ。
樹海では食べにくい硬い部位も簡単に食べる事が出来る。ただしそれが美味しいかどうかは別問題であった。軽すぎる朝食をとると一行は再び移動を始めた。
林の中は空気が綺麗で、町よりも魔素が豊富だ。樹海に比べると足りないが汚い町中にいるよりは百倍マシである。昼頃には新しい町を見つけた。
臭いに我慢しながらもお金を払って町へ入る。汚臭の中に肉や魚が焼ける匂いが混じっている。不意にマサモリの腹が鳴った。朝飯の量が少なかったので仕方が無い。マサモリがヒデヤスを見るとヒデヤスはしょうがないといった様子で頷いた。
『金を渡すから各自情報を集めてくれ。マサモリとシラギクには忍者エルフを付ける。金を使い過ぎないように』
『やった!』
マサモリとシラギクは小さな革袋を渡された。中を開けてみると銅貨と銀貨が入っている。二人は満面の笑みを浮かべた。しかしその瞬間、数人の男から見られているのを感じた。なるほど、とマサモリは思った。当然シラギクも理解しているが歯牙にもかけていないようだ。
『屋台を見て回ろう』
『うん』
二人は食べ物を売っている屋台を目指して歩き出した。数人の男達の気配がマサモリ達を追ってきた。木の葉を通じて眺めた光景と自分の目と鼻で感じる光景はやはり違う。
全体的に汚れているが屋台に売られている食べ物は珍しくて見ているだけで面白い。あんまり眺めていると怒鳴られたり物を投げられるので程々が重要だ。
マサモリ達のような子供がお金を持っている場合は少ない様で初めから浮浪児と思われて追い払われる事もあった。
マサモリ達がどれを買おうか考えていると待ちきれなくなった追跡者の気配が近付いて来た。先程よりも数が増えた気配にマサモリは嬉しくなった。
「おい、クソ餓鬼共。死にたくなかったら有り金全部よこせ。服もだ。声を上げたら殺す。すぐに奴隷商人に連れて行ってやるからな」
「やだよー!」
マサモリとシラギクは笑いながら人通りの少ない裏路地へ逃げた。男達は裏路地へ向かうマサモリ達を見て勝利を確信した。すぐに二手に分かれてマサモリ達を追う。
地元民なだけあってか迷いなく回り込んでいく。きっと普通に逃げた場合に辿り着く場所を把握済みなのだろう。マサモリは木の葉で、シラギクは栗鼠で追跡者達を観察した。
裏路地に入ると急に人の気配が感じられなくなった。マサモリとシラギクは立ち止まった。そんな二人を見て追跡者は武器を抜いた。しかしそれでは遅すぎた。
マサモリとシラギクは既に追跡者の目前に迫っていて一人ずつ鳩尾に拳を置いた。二人が素早く追跡者達を通り過ぎた後には追跡者達が芋虫の様に這いつくばる姿しか残らなかった。
マサモリとシラギクは手前から順番に男達の身包みを剥いでいった。抵抗する者は手刀で気絶させていく。汚い服と小銭とみすぼらしい今にも壊れそうな武器を手に入れた。
服を剥いでいる時に妙な違和感を感じた。一人目では分からなかったが数人から同じような反応がしたので疑問に思いながらも剥ぎ取りを終えた。
回り込んだ男達が所定の位置で待機しているが一向に仲間が現れない事に疑問顔だ。服まで剥ぎ取って靴だけの追跡者が這う這うの体で逃げ出した。
その姿を見てマサモリは違和感の正体を悟った。逃げる追跡者を追う気はなかったがマサモリは逃げ行く男の靴を奪った。その時の男の驚きようを見て、マサモリは疑惑が確信に変わった。
靴をそのままゆっくりと握りつぶす。木の靴だったのでミシリミシリとひびが広がっていく。靴が壊れた音と共に手元に別の感触が現われた。靴の中に金貨が入っていたのだ。
マサモリは誕生日のプレゼントを開けた時の様に微笑んだ。それを見ていたシラギクは残りの男達の靴を全て没収した。二人で丁寧に靴を調べていく。
木の靴ならまだましなのだが、皮の靴は、腐臭がして触りたくもなかった。しかしお金が隠されているとなると話しは別だった。
服や背嚢を調べた時よりも収穫は大きかった。最低でも銀貨、運が良い場合は金貨が入っていた。マサモリ達は服に硬貨が隠されていないか雑に調べた後に服を返した。
そしてさっき回り込んだ男達の方へ向かった。マサモリとシラギクが焦って息を切らした振りをして彼らの目の前に出た時の彼らの勝ち誇った顔は忘れられない。
二人が男達を見て硬直して絶望した顔を作ると男達は自分達からマサモリに襲い掛かって来た。先程の追跡者と同じ目にあわせた男達を置いてマサモリ達は重くなった革袋に満足した。
人目が付かない場所に行くと二人は狂ったように手を洗った。彼らの衣服を触るなんて最低の罰ゲームだった。思い出しても気が重くなる。二人は一生懸命手を洗い続けた。




