67
富士霊樹の三階まで来たが売り物になったのは大狒々の皮くらいだった。蜂は何度か倒したが全て食べてしまった。お陰で快適に富士霊樹を探索できるが蜘蛛の巣は見つからないし、鎌鼬にはすぐ逃げられる。
そもそも一撃離脱してしまうので鎌鼬の放つ風しかお目にかかっていない。大狒々の皮も注意して倒さないと品質が非常に落ちる。
傷を負った大狒々はすぐに再生するがその分魔力も消費するし傷を負った部分は脆くなる。手早く、効率的に倒さなければならない。売るなら売る為の準備や工夫が必要なのだ。
タカチヨは最近では木の葉のゴーレムを使うようになった。土や岩だと遅すぎて早く移動する時にわざわざコアの抜いて一旦解除しなければならい。ならば最初から木の葉のゴーレムを使う事にした。
軽いので機動力が上がった。何より、敵が来た時に隠れ蓑に出来るのはありがたい。上に登るにつれて敵の密度も増してくる。同時に別種の生物と戦うのは面倒だという事をこの前のマヨネーズ兄弟から学んだ。
木の葉のゴーレムだが盾代わりに出来ない代わりに小回りが利いて便利だ。蜂の羽音がしたら別の場所に誘導する。蜘蛛の巣を見つける為にマサモリは式神を出していたが式神が蜘蛛の巣に掛かったら紙が勿体ない。
マサモリの式神は常に懐にいれて自分の魔力と同調させている特別性だ。結界を張っても内部から攻撃できるように魔力を常に馴染ませている。だから気軽に使い捨てには出来ない。
一度に用意できる紙の量が決まっているのでいざという時の為に出来るだけ温存しておきたい。蜘蛛の巣を探す役割は木の葉のゴーレムに託された。
富士霊樹やそれに寄生している樹の葉を使うので無駄にでは出来ないがいくらでも手に入る。富士霊樹の葉は質も良く、樹海の葉以上の木の葉のゴーレムが作れるのでタカチヨも驚いていた。
式神が飛んでいたら不自然なので隠蔽魔法をかける必要があるが、木の葉が舞う分にはどの生物も不自然に思わない。使ってみると木の葉のゴーレムの有用性が分かった。
木の葉のゴーレムがマサモリ達から少し先を歩いている。脆いので少し距離を開けないと壁にならないので危険だ。それでも十二分に仕事をしている。
風が吹いた。マサモリ達は鎌鼬の可能性に考慮して警戒態勢を取る。強風がマサモリ達を襲った。すると目の前を進んでいるゴーレムの脚部の木の葉が崩れた。
次の瞬間、マサモリは前後不覚に陥った。しかしすぐに踏みとどまり転倒を防いだ。シラギクも踏み止まったがタカチヨは転んだ。するとゴーレムが不可視の風によって袈裟切りに切り裂かれた。しかし次の瞬間元通りになった。
『くっ』
タカチヨにも同様に袈裟切りに切りつけられたが傷は一瞬で消えた。
『大丈夫?!』
マサモリは駆け寄ってタカチヨの傷の状態を確認した。シラギクは二人を守るように武器を構えた。タカチヨの傷を見ても小さな傷痕は残っているが出血はない。
『大丈夫、魔力を少し奪われただけみたいだ。あれは鎌鼬の伝承攻撃だったみたい』
『調べてはいたけど実際やられるのを目にすると驚くね』
『くやしー、今回は失敗したけど次は私が退治してあげる』
先程の攻撃は鎌鼬の伝承攻撃だ。伝承攻撃とは伝承になぞらえた攻撃で伝承に沿った出来事が起こる。バジリスクの石化の魔眼はそれに当たる。
今回の場合は、鎌鼬の三位一体の技で最初の個体が相手を転ばし、次の個体が切りつけ、最後の個体が傷を治すといった伝承と同じ行動を取った。
マサモリとシラギクは最初に転ばなかったので伝承を上手く否定出来たようだ。マサモリ達は一瞬、前後不覚になったが無重力空間を経験していたのでなんとか転ばずにすんだ。
しかし伝承攻撃は防ぐ事が非常に困難な攻撃である。簡単な条件では殺されたりはしないが防いでも痛手を負う場合もあるので油断できない。エルフ達が各種の耐性を身に着けさせるのには伝承攻撃に備えるという意味合いもあった。
今回の鎌鼬の行動でタカチヨは魔力を奪われた。これと同様に妖怪に驚かされると魔力を奪われる。木霊に驚かされたマサモリは自覚はなかったが少し魔力を失っていたのだ。
一見、意味のない行動に見えるかもしれないがそれには意味がある。特に伝承攻撃で恐ろしいのは解決方法を知らないと対処出来ない場合だ。危険な妖怪は封印されたり、滅されたり、逆に祀られている。
それらの対処、管理は長老族の仕事なので将来的にはマサモリ達がする事になる。有名な伝承は強く、無名な伝承は弱い。しかし無名だからといって油断すると痛い目にあう。
マサモリが防御を主体に鍛えられたのは未知の敵や伝承攻撃で命を落とさないようにする為だった。攻撃する事は普通のエルフでも出来るが守る事、耐える事が出来るのは長老族だけだという考えがヒデヤスにあったからだ。
マサモリもそれには同意見である。それに戦う力がありすぎると戦えてしまう。戦う力があっても戦いを抑えられるようになりたいとマサモリは思っている。ついでに戦う力はあればあるだけ良い。だからもっと強くなりたいとも思っている。
タカチヨが軽傷なのを確認すると三人は再び動き出した。タカチヨが奪われた魔力に比べると木の葉のゴーレムが奪われた魔力は少なかった。生物に対して効果が高いのかもしれない。
『帰ったら転ばないように訓練をしよう。俺とシラギクはたぶん、宇宙で無重力を体験したから防げたんだと思う』
『えっ、そうなの? 私は知らなかったー』
『だから二人とも転ばなかったのか。転んで慣れろって言われてたけど訓練出来るならしたい』
『今まで今回の攻撃のように前後不覚になったのは無重力くらいだからね。他だと柔道で上手く足を払われた時は知らない内に体勢が崩れてた。喰らって慣れるのもありだと思うよ。耐性と一緒だ。でもタカチヨがやりたいなら訓練しておこう』
『うん、よろしく。ゴーレムが転倒しないように考えないと。うーん、反応が良すぎたのかな』
『対処療法なら今回みたいに足元を崩された時はすぐ治すってしておけば防げるんじゃない? ただ根本的な改善は俺には思い浮かばないなー。良い案が思いついたら教えてよ』
『鉄のゴーレムにすれば解決だよ!』
『うーん……』
タカチヨは傷の事などとうに忘れてゴーレムの改造案を考え始めた。




