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再び鎌鼬の襲撃に備えながら三人は富士霊樹を歩いた。出来れば伝承攻撃をしてくる鎌鼬を一回倒してから上に進みたいのだが見つからなかった。被害は小さいが問題が宙ぶらりんで残っているのは収まりが悪い。問題は棚上げしないでさっさと解決したいタイプなのだ。
『うっ』
タカチヨが腹を抑えた。
『どうした!』
さっきの後遺症かもしれない、マサモリはそう思ってタカチヨをじっくりと観察するが原因は分からない。タカチヨは次に腕を抑える。マサモリは辺りを見回したが何も見当たらない。
別の伝承攻撃を受けているのかと思ってタカチヨ以外を見るがシラギクもゴーレムも何も起こっていない。マサモリに至っては完全に快調だ。
『どういう事なんだ?』
『だ、大丈夫。この感覚はたぶん、クズ姉がダメージ転送してきたんだと思う。以前にも同じ事があったんだ。今までは離れていたから大丈夫だったけど富士霊樹に戻ってきたから効果範囲内に入ったみたいだ』
『すぐに解除するよっと言いたいけどダメージを受けているって事はハナエは攻撃されてるって事だよね。うーん、今日の所は下山しようか。ハナエは帰ってきたら怒って貰おう』
『そうだね。私もこれは許せないなー。ハナエちゃんにはお仕置きが必要だ!』
『ごめん……』
『ハナエが全面的に悪いだけだからタカチヨは気にしなくていいよ』
『そうそうー』
『うん、ありがとう』
マサモリ達は普段よりも気を付けながら帰還した。帰宅したらすぐさま今回の件をヒデヤスに報告した。例えば、マサモリ達がハナエを怒っても効果はないだろう。
そして確実にタカチヨを逆恨みするだろう。だからといってヒデヤスに怒って貰っても効果があるとは思えない。どうなるのかと思うと同時にハナエのメンタルの強さに呆れてしまう。
怒ったり、叱ったりするのは難しいなとマサモリは思った。帰宅したハナエがどうなったかは知らないがハナエの悲鳴が家を震わせたのは確かだった。
三人が富士霊樹を進んでいると大狒々が三人を包囲するように現れた。包囲されきる前に囲いを突破しようとした三人だったが突然目の前に赤い仮面を被った老いた狒々が立ちふさがった。
老狒々は魔力を練り込むと嵐を凝縮したような風弾を数多放った。三人が各々に迎撃をしようとした時、仮面から覗く老狒々の目から眩い光が放たれて、辺り一面を白く染め上げた。
マサモリは武器で風弾を切り払った。シラギクは回避して老狒々へと向かったが別の大狒々がシラギクに体当たりをした。シラギクは吹き飛ばされたが木の枝に捕まってすぐさま戻ってこようとした。
しかし再び大狒々に攻撃されて交戦状態に入った。タカチヨは風弾を受け止めてそのまま老狒々に打ち返す。離れた位置でそれらを観察していた大狒々達が一斉に包囲を狭めてきた。
「ヒヒヒ、長老族か。お前達を食べたらさぞかし美味いんだろうなぁ」
仮面の裏から舌なめずりの音とともに粘着性の唾液が滴り落ちた。
『話せるのか』
『大狒々は強くなると知性を得るそうだ。初めて見たよ』
マサモリは分断されたシラギクの様子を見た。他の大狒々を上回る体格の真っ黒い狒々と交戦中だ。今は互いに様子見の段階だがシラギクが負けるとは思えない。
「餓鬼だけで富士霊樹に登るとは迂闊だったな。だが安心するがいい。すぐに儂の腹の中で会えるさ」
タカチヨが木の葉のゴーレムをバラバラに分解した。散った木の葉はタカチヨの周りを高速で回転して木の葉の結界を作った。木の葉の結界は木の葉同士がぶつかり合い、弾き飛ばされた木の葉が周りにいる大狒々へと向かった。
マサモリは吸魔鉄の剣を構えて赤面を被る老狒々へと向かった。マサモリが一直線に老狒々へ向かい切りつけると老狒々は髑髏を樹の先端に付けた杖で受け止めた。すぐさまマサモリは鍔迫り合いを避けて老狒々の足を切り払った。
老狒々はそんなマサモリに杖を叩き付けるがマサモリは回避した。マサモリの剣は老狒々を斬りつけたが傷は浅く、老狒々の体はすぐに回復した。マサモリは手元に伝わった感触に顔をしかめる。
その他の大狒々達はタカチヨへと襲い掛かった。タカチヨは団扇を扇いで大狒々達を寄せ付けない。しかし大狒々達は負傷を気にせずに襲い掛かっている。
「そんな脆い武器で儂と戦おうなんで愚鈍な童だ」
一合斬りあっただけで武器の脆弱さがばれてしまった。マサモリは脆い吸魔鉄の武器をそのまま使っていた事を少し後悔したが次から気を付けようと思った。
「ほお、吸魔鉄というのか。厄介だが種が分かれば対策も取れよう」
老狒々は杖を足元の樹に刺した。すると霧が辺り一面に立ち込めた。
『考えている事を読むみたいだ』
『風で霧を払えない!』
タカチヨは木の葉の結界に風を纏わせて霧を払おうとするが吹けども吹けども霧は晴れない。視界が悪く、同士討ちを防ぐ為にタカチヨは木の葉の結界を自分の周りに収束して木の葉の攻撃を控えた。
「ヒヒヒヒ、いつまでもつかな」
霧はそれ自体が強い魔力を帯びていて魔力視をしようとしてもぼやけてしまう。マサモリは霧の先にいる老狒々を切りつけた。
しかしそこに居たのは普通の大狒々だった。そんなマサモリに向かって風弾が撃ち込まれる。剣で防ぐが丁寧に使っても剣の耐久力が削がれた事を実感した。
「ヒヒヒヒヒ、雌の餓鬼を喰えるのは久しぶりだぁ。魔力もすごいし、最高の食事になるな」
シラギクは他の大狒々よりも巨大な黒々とした毛並みの大狒々と対峙していた。
「君は良い毛皮になりそうだね」
「ヒヒヒ、強がってられるの今の内だ。良い悲鳴をあげてくれよ」
大狒々の群れの本当の狙いはシラギクにあった。大狒々は子供が大好物だ。特に女の子供の肉は最高の食べ物である。
大黒狒々は群れの中でも最高の力と毛並みを誇っている。シラギクを攫う事が出来れば残りの二人のエルフを取り逃がしても全く痛痒はない。シラギクが火魔法を好んで使う事も大黒狒々は事前の調査で知っていた。
シラギクと大黒狒々が正面からぶつかり合った。シラギクの棍棒が大黒狒々へと襲い掛かるが黒大狒々は片手で攻撃を防いだ。しかし片手では防ぎきれず大黒狒々は少し後ろへ下がった。
それを追撃するようにシラギクが迫り大黒狒々のすねを打ち払う。しかし大黒狒々は足を少し回転させて足の側面で棍棒を受けた。大黒狒々は吹き飛ばされるが木の枝をクッションにして平然と動く。
「多少は出来るようだが調子に乗るなよ」
大黒狒々はその巨体からは想像できない軽々とした動きで付近の枝を利用してヒットアンドアウェーを繰り返した。攻撃も片手では負けたので両手を使って体全体を使って攻撃してくる。
シラギクの方が動きは早い。しかし大黒狒々は富士霊樹内での戦いは手慣れたものでシラギクを翻弄している。シラギクとは打ち合わずに体勢が崩れた所や力が乗らない所を狙い撃ちにする。そしてついに有効打がシラギクに加えられた。
「いたっ! 大きい割にちょこまかとー!」
シラギクは吹き飛ばされたが危なげなく着地し、棍棒に火を纏わせて縦横無尽に飛び回る大黒狒々に火弾を放った。
「ヒヒヒ、そんなの当たらねーよ!」
富士霊樹を焼かないように威力を抑えているので思うように魔法が当たらない。シラギクは火弾を撃つのを止めて大黒狒々を追った。大黒狒々も少し警戒したのか攻撃が浅くなった。
火を警戒しているのかもしれない。シラギクは大黒狒々の攻撃を燃え盛る棍棒で受けた。その瞬間、棍棒に纏わせた火を爆発させた。大黒狒々は体全体に火を浴びて吹き飛ばされる。
しかしシラギクに衝撃が走った。爆破の瞬間に大黒狒々は防御をせずにシラギクに攻撃してきたのだ。吹き飛ばされた大黒狒々は先程の爆発などなかったかのように動き回っている。




