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三人が鯉の鱗帷子を揃えるのに一週間かかった。魔狼は数回見かけたがすぐに逃げたので労力を考えて諦めた。それ以外にも木の棒を何本も見つけた。
木の棒に石を縛り付けて石斧を作りだした。シラギクが石斧を持って、マサモリとハナエは長めの棒を持っている。シラギク以外は攻撃力不足だが三人は富士の樹海の浅瀬から少し奥へと進む事にした。
『ハヤ三』
シラギクが指さした方向にハナエが電撃魔法を放った。
『わらわにかかれば楽勝よ』
『やった!』
三匹のハヤが木の葉の間から落ちてくる。落ちてきたハヤを取ると解呪して腹を裂いて内臓を取り出しすぐ焼き始めた。電撃魔法を打った場所には水魔法を使っておく。そうしながら三人は足を止めずに富士の樹海を進んだ。
一週間も経つと今回の修行の攻略方法が分かって来た。小まめに食料を調達して食べる事で魔力を回復させる。食べる事は魔力を増やす事に繋がる。
そして食料を見つけるのには何より広い範囲を探索しなければならない。ゆっくりと歩いていると捜索範囲が全然足りないのだ。三人は走りながら食料と使える素材を集めた。
『出来上がったわよ』
『ありがとう』
ハナエが手元で焼いたハヤをマサモリとシラギクに渡す。あれから木の串を作ったので少しは文明的な食べ方が出来るようになった。三人は走りながら魚を頬張った。食べ終わったら串の表面を一瞬だけ焼く。表面に残った炭を軽く払って消毒はこれで完了だ。
『止まれ』
マサモリは大気に仄かに漂う殺気を感じ取った。
『青鬼だ』
シラギクは目を細めて遥か先を見通した。その先には三メートル以上の青鬼が辺りをねめ回しながら徘徊している。
『わわわらわわは魔力が減っているから離れてみておくくわわ。魔力があれば瞬殺出来るのだけど今回は見逃してやるぞ』
『角あるじゃーん』
『イェーイ。魔法触媒に使えば効率が上がる!』
『雑魚は若いのに任せるわ。おほほ、怖いから早く倒して』
マサモリとシラギクが静かに青鬼へと向かった。魔力があれば水魔法を使っていた所だが今の魔力では数発で魔力が尽きてしまう。それに今使える魔法では痛手は与えられない。効率の良い強化魔法一択だ。
二人は青鬼の後ろに回り込んだ。そして拾っておいた石を取り出した。強化魔法で石と肉体を強化して二人で同時に石を投げた。
二人に投擲された石は青鬼へと向かったが青鬼はすぐに気が付いて石を避けた。マサモリは青鬼へと直進し、シラギクは青鬼の背後を取るように迂回した。
青鬼が咆哮をあげた。それは衝撃波となってマサモリを襲った。マサモリは体を小さくして耳を塞いで衝撃波を受けた。強化魔法が弱いと今の衝撃波で鼓膜を破られていた。
手早く青鬼を倒さないと赤鬼や黄鬼がやって来る。先程の咆哮は青鬼からしてみればただの攻撃で仲間を呼ぶつもりはない。しかし赤鬼や黄鬼は賢いので漁夫の利を得る為に急いで現場に向かってくるはずだ。
マサモリは怒り狂う青鬼に向かって手に持っていた木の棒を投げた。マサモリへ一直線に向かっていた青鬼にぶつかったが簡単に弾かれてしまった。
そのまま青鬼は大きく手を振りかぶって地に叩き付けた。地面にひびが入り、上下の揺れと衝撃波が足元から広がるとマサモリは地面に這いつくばるようにして衝撃波を受けた。
地面から吹き飛ばされてしまうと青鬼の攻撃が避けられない。青鬼の凶暴さとは裏腹に行動は理に適っている。ただ暴れ回るだけなら対処がしやすが小技を挟まれると警戒しなければならない。
飛び上がって樹々を使って移動すると動きが一直線になって読み易くなってしまう。出来るだけ地面から離れないようにすべきだとマサモリは思った。防御姿勢を取っているマサモリに向かって青鬼の拳が振るわれた。
マサモリは青鬼に近づきながらそれを避けた。そして青鬼の弁慶の泣き所に鋭い蹴りを入れた。蹴りはしっかり入ったのに青鬼からはさほどダメージを受けたような気配はしない。体格差が大きすぎて足にしか攻撃出来ない。それでも弱点となる弁慶の泣き所を狙ったが今の強化状態では効果が薄すぎる。
すぐさま青鬼が反撃してくる。マサモリは少し体勢を崩しながらも青鬼の攻撃を避けた。そして足元に纏わりつくように動いた。青鬼も目障りなようで払うようにマサモリを攻撃するがマサモリは足元に纏わりついて離れない。
業を煮やして青鬼は足でマサモリを蹴った。待ってましたと言わんばかりにマサモリはそれを避けて残った軸足をコンパクトに横から蹴りつけた。
マサモリの攻撃で体勢を崩しそうになった青鬼はすぐさま体をひねらせて転ぶのを防いだ。しかし青鬼が大勢を立て直す一瞬の間にシラギクが石斧を青鬼の角の根元に叩き付けた。
青鬼の先程とは種類の違う咆哮が辺りに響き渡った。角を砕かれた痛みに震える青鬼を横目に、マサモリは吹き飛んだ角を掴み取るとすぐさま逃走した。
『撤収!』
『大成功!』
『置いていかないで!』
『急がないと他の鬼が来るぞー。今の魔力だと結界で守ってもすぐ魔力が尽きるぞー』
『ひぃぃ』
口では脅かしてしるがマサモリは近づいてこようとした鬼が居ても今の咆哮で散ったなと思った。鬼もここまで成長すると賢い。青鬼が短時間で痛手を受けた事が分かればさっさと回れ右して立ち去るだろう。
猪突猛進な青鬼と違って赤鬼や黄鬼は長生きな場合が多い。その分、知恵を付けて厄介とも言える。他の鬼と戦う場合は最初からシラギクは隠していた。
青鬼だから一緒に石を投げたが今使える強化魔法では簡単に避けられてしまった。次からは止めておこうとマサモリは思った。
青鬼は他の鬼より賢くない分、力が強い。もし攻撃をまともに受けていたら怪我を負っていただろう。もしくは大きく吹き飛んでダメージを逃していた。
青鬼くらいになると距離を保って戦うよりも距離を縮めて相手の攻撃を万全にさせない戦いをした方が安全だ。もし魔力が万全なら考えて戦わなくても魔力に物を言わせて正面から倒せていたがそんな事をしていたらこの先は生き残れないのだろう。
今までは無傷で倒す事が優先されてきたがこれからは如何に魔力の消耗を抑えるかが重要になる。
浅間山の遠足の時に一回だけ赤鬼と出会った。その時は五人という数に物を言わせて倒した。あの時の強化魔法の強度に比べると今の強度は数分の一以下だ。
あの時なら戦いが苦手なりつやたえが赤鬼の攻撃を受けても軽傷で済んだだろう。生物の格すら左右する力が強化魔法にはあるのだ。
今のマサモリ達の強化魔法は樹海で生活できる最低ライン、つまり木の葉で傷を負わない程度の強さである。先程のマサモリの蹴りは本気ではなかったが足を破壊するつもりだった。
しかし圧倒的に威力が足りなかった。マサモリはそれが少し悔しかった。魔力がないという事はエルフがただの人間以下になるに等しい。
短い戦闘だったがマサモリは多くの魔力を使ったので樹海を出る事にした。
青鬼の角となると売れば百分の一でもそれなりになるがそのまま使った方が断然効率が良い。魔法触媒として少ない魔力を効果的に使うのに役が立つ。緊急時には角に籠った魔力を使っても良い。
そうすると魔力が少なくなって触媒としての効果が減るが奥の手が出来ただけ今までに比べるとましだ。マサモリはシラギクの強化魔法が生命線なのでシラギクに渡したかったがハナエが騒いだので結局ハナエが使うようになった。




